異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

炸裂!? 『摂津流歩行術 オーガースレイヤー』

 
 まるでミサイルのような膝蹴り。

 明の経験上、これで立ち上がってきた者はいない。
 しかし――――

 「気をつけてください!」

 見上げれば崖の上。スイカが大声を出している。

 「彼は―――オークは、魔物の中でも特別に打たれ強い種族です!」

 その直後、明は腹部に衝撃を受ける。
 スイカの声に気を取られていたわけではない。断じて油断していたわけではない。
 純粋にトーヤの攻撃が鋭かったのだ。

 よくムエタイ選手のミドルキックを「鞭のようにしなる蹴り」と表現されることがあるが、
 実際にトーヤの尻尾が、鞭のような軌道で明の腹部を叩いたのだ。

 「油断した所を後ろから蹴っ飛ばしてやる予定だったのに、お姉ちゃんのせいで台無しだわ」

 「よっ!」とトーヤは足を上げると、飛び跳ね起きで立ち上がる。

 明はその体を観察する。
 確かに、緑色の肉体。 ケモノ耳。 尻尾。
 オークを言われれば、その特徴はあるが……

 「なんや? 戦いの最中に考え事かいな!」

 再び尻尾が唸りを上げて襲い掛かってくる。
 明は、その場でしゃがみ、回避する。 その頭上を尻尾が通過していく。
 やり過ごした直後、トーヤの尻尾の軌道が変わる。

 突き

 真っ直ぐに伸びてくる。
 体勢が崩れた明は回避できない。

 腕で弾くパーリング

 しかし、弾いたと思ったトーヤの攻撃が変化した。
 尻尾が腕に絡みついていく。その直後、明はバランスを崩す。

 (――――ッッ! これは合気上げ? 尻尾だけでだと!)


  明は抵抗できずに投げ捨てれ地面を転がる。
 接近したトーヤが足を上げて――――

 踏みつけフットスタンプ

 明は、両腕を重ねて、顔面に落とされる踵を押さえ込む。
 だが、トーヤは止まらない。

 一撃、二撃、三撃、四撃……

 両手に激しい痺れ。しかし、このまま受け続ければ、向かえるのは死。
 トーヤの足を刈り、脱出。

 両者共に距離をとって立ち上がる。

 摂津流を使用しなかった明。
 尻尾を基点にした攻撃を徹底したトーヤ。

 2人は互いに遊びの終わりを感じた。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 最初に前に出たのは、やはり明だった。

 『摂津流 九鬼閃雷』

 緻密な計算と高速の打撃。
 だが、トーヤには届かない。
 両手両足を防御に徹底、さらに尻尾を攻撃の牽制へ――――カウンターのプレッシャーをかけてくる。

 拳ならジャブ、ストレート、フック、アッパーカット。
 蹴りなら、ロー、ミドル、ハイ。さらに膝蹴り。
 肘だけでも上から下へ切り裂くような使い方もあれば、下から上へのかち上げ式。体勢によっては、突くような使用もできる。

 打撃の組み合わせは無限に等しい。

 打撃の読み合いは、やがて具体性を失い。
 抽象的で感覚だよりの打ち合いに変わっていく。

 この領域に達すると、不意に打撃が当たるようなっている。

 だが――――
 その無限に挑む技こそが『九鬼閃雷』だったはずだ。

 「なぜ、この領域についてこれる?」

 無限の打撃を繰り出しながら明は尋ねる。
 トーヤはにやりと笑みを浮かべるだけだった。

 「ちッ!」と明は舌打ちを1つ。 九鬼閃雷の中に摂津流の技を加えた。

 『摂津流 九鬼閃雷+覇王掌』

 覇王掌は強烈な捻りが加えられた打撃。
 その捻りから生み出された回転力は、弾こうとする防御を逆に弾く。
 さらに、回転力が生み出した衝撃を相手の体内へ打ち込む防御不能技。

 ――――そのはずだった。

 覇王掌はトーヤの強烈な両手払いで下へ軌道を大きく反らされる。
 さらにトーヤは震脚(中国武術などで使われる強烈な踏み込みのこと)。
 直後、明は浮遊感に襲われる。
 明の体は、肩からの強烈な体当たりを受けて、宙を舞ったのだ。

 四肢がバラバラに引きちぎられそうな衝撃が全身を走る。
 その痛みの中、明はトーヤの口から発せられた言葉をハッキリと聞いた。

 『摂津流歩行術 オーガースレイヤー』

  

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