異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

摂津流不使用宣言 灼熱のドラゴン退治 

 「スイカ、動けるかい? この戦いが終わるまで、ここから離れるんだ」

 スイカはコクリと頷き、ふらつきながらも駆け出した。
 明は、それを見送り、その姿が見えなくなると、再びドラゴンと対峙する。

 『ほう、我を見て嬉々として挑もうとするとは……哀れなり人の子よ』

 ドラゴンの威圧。それを受け流して明は――――

 「摂津流は常に強者へ挑む挑戦者であれ……そう教え込まれたからね」

 平然と答えた。

 『思い上がったな! 人の子よ』

 ドラゴンの殺気が爆発的に膨れ上がった。
 しかし、既に明は動いている。

 『摂津流歩行術 幻霊行』

 それは『ナンバ歩き』と言われる古武術の歩行術によく似ている。
 僅かに腰を曲げ、右手と右足が、左足を左足が同時に出る。
 だが、モーションそのものは、通常のナンバ歩きと比べて、非常に少ない。
 幻霊行というのは、相対した人間が、まるで幽霊が地面を平行に進む様子を連想するために、名づけられた歩行術だ。
 上下の揺れがなく、自然体のまま、動きにブレがない歩行術。

 これには、流石のドラゴンも反応が遅れる。
 一瞬で間合いを縮めた明はローキック――――摂津流で言う『下段独楽』を放った。
 蹴った足から伝わるのは、鋼鉄以上の強度。
 しかし、明は蹴りを放ち続ける。
 ローの基本を忠実に――――小刻みにダメージを与える。

 『おのれ、猪口才ちょこざいな』

 足元に潜り込んだ明を潰すためだろうか? ドラゴンは、その場でジタバタと足踏みを始める。
 足踏み――――そう言ってしまうと若干マヌケさが際立ってしまう。
 しかし、効果は抜群だ。
 人間はどんなに鍛えても、頭上から降ってくる数トンの落石を受け止める事は不可能。
 それは摂津流の妙技でも同じだ。 可能なのは回避が、受け流す事のみ。

 「ちっ」と舌打ちを1回。
 明は離れ際にローを放って、後ろへ飛ぶ。

 「鱗の一枚くらいは蹴り剥がせると思っていたが……」

 ドラゴンの足にはダメージの痕跡はなかった。

 『まさか、文字通りの足蹴あしげにされるとはな……人の子が調子に乗るな!』

 数百年の寿命を持つドラゴンだったが、自分に対して不遜ともいえる態度を取る人間は初めてだった。
 その分、怒りも多い。
 明は、それを見越して――――

 「いちいち、人の子とか煩いな。さては、アンタ……人間に劣等感を持ってるのな」

 それが正解か、どうかは明にわからない。
 しかし、濁流のように押し寄せてくる感情の威圧感が増していく。
 明は手ごたえを感じ、挑発を続けた。

 「いいぜ。そんなに人が気に入らないなら、アンタに摂津流は必要ない。人が編み出した基本的な戦い方でアンタを倒す」

 『驕ったか! 人の分際で!』

 ドラゴンの巨大なアギトが開く。
 その巨大な体内から一箇所に魔力が集中していく。それは魔力が感知できない明にも殺気という形で伝わってくる。

 『竜の息吹ドラゴンブレス

 爆発的に膨張した魔力が、火炎に変換され噴出された。
 生物に対する攻撃ではない。城を、町を、村を破壊するドラゴンの必殺攻撃。
 それが明に向かって放出されたのだ。
 眩しいとすら感じる一瞬の閃光。 まるで神話の一幕を切り取ったかのような破壊活動。
 耐えれる生物は存在しない。 そう、ただ耐えるだけなら――――

 『会心館空手 廻り受け』

 閃光が霧散された。 
 消えた火炎の中から現れたのは明だ。 
 無論、無事を言えない。 上半身の学生服は焼け落ち、僅かながらヤケドが見える。

 『竜の息吹ドラゴンブレスを受けて無事だと! 貴様、何をした』

 今までと違い、ドラゴンに焦りのようなものが感じられる。

 「俺の世界にも龍殺しと言われる人間がいて、コイツはその人が直接指導された技術だよ」

 明は闇空手4対4マッチの頃を思い出していた。 
 会心館空手総帥である海原兵吾から直接指導を受け、摂津流を対空手使用に調節を余儀なくされた日の事。
 そして、海原兵吾の双子の兄で闇空手総帥 海原玄吾との戦いは今でも鮮明に思い出せるほどの名勝負だった。
 しかし、蜜月とも言える思い出を邪魔する声がした。

 『竜殺しドラゴンスレイヤーだと! 不敬にも程があるぞ! 人の子の分際が――――』

 しかし、その声を途中で止まった。
 ドラゴンは突然、バランスを崩したようにふら付く。

 「やれやれ、ようやく下段独楽ローキックが利いてきたか。まぁ、その図体なら神経の伝達も遅いのも仕方ないか」

 ついにドラゴンは倒れ――――しかし、すぐに立ち上がろうとする。
 そこへ、明は追撃をかける。

 『三日月蹴り』

 明は飛び上がるとドラゴンの腹部に前蹴りを放つ。
 人間で言えば肝臓になる箇所を貫いた。

 ローキックの盧山こと、盧山初雄氏。
 中国拳法の澤井健一氏。

 両者が生み出した空手の近代兵器は、確かにドラゴンに深いダメージを刻みつけたのだ。

 『おのれ! おのれ! おのれ!』

 ドラゴンは錯乱する。
 長い寿命の中――――

 魔王を名乗る者から尋常ではない魔力を浴びた経験はある。

 勇者を名乗る者から凄まじい剣戟で体を刻まれた経験もある。

 だが、しかし――――

 目の前の男は未知だ。
 未知の戦闘技術が自分を追い詰めていく。
 理解ができないことの恐怖。 それも、遥か下に見ていたはず人間に対して恐怖を与えられたのだ。

 だから、ドラゴンは錯乱した。

 足元に潜り込んだ明に踏みつけフットスタンプの連続。
 踏み砕いた岩石が飛び散る。並の人間なら、飛び散る石つぶてを受けただけで戦闘不能状態になるはず。
 だが、明はそれを避けて、避けて、避けた。
 明には当たらない。そして――――

 「無様な」と吐き捨てるように呟いた。

 こうなってしまうと素早く介錯を行う事が情けだろう。
 もう、明はトドメの技を狙っていた。

 まるで爆撃のような攻撃が起きているドラゴンの足元。
 だが、その攻撃は永遠に持続することはできない。
 僅かに、攻撃が途切れた瞬間、明は飛び上がった。

 飛び上がり、そのままドラゴンの足にしゃがみつく。

 ただ、それだけに見えた。しかし――――

 『ぎゃあ嗚呼ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!?』

 まるで断末魔。
 ドラゴンのアギトから咆哮のように叫び声が飛び出し、その場で倒れた。
 その叫び声に明が最後に使用した技名はかき消された。
 彼はこう言ったのだ。 

 『基本関節技ベーシックサブミッション ヒールホールド』

 

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