異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

炸裂!『摂津流活殺術 北斗突き』 ~お前は死んでいる~

 村長の家に通された。
 木のシッカリとした作りに茅葺き屋根かやぶきやね
 明が住んでいた家も田舎の古民家。江戸時代からある築250年の品物だ。
 だから、少し親近感が生まれていた。
 もっとも、明が生まれた頃には、藁ではなく銅版が屋根に敷かれるようになっていたのだが……
 客間だろうか? 広い空間に通されて待つように言われる。

 「しかし、村長さんは妙に若いな。まだ10代じゃないのか?」
 「えぇ、そのくらいですよ。先代が亡くなれたばかりだそうです」

 家の主の話題を万が一にも本人に聞かれないようにするため、スイカは声のボリュームを下げた。

 「それに周辺の村々にも強い発言力を持っているみたいです」
 「ふ~ん、それじゃ俺への悪意は嫉妬から来るものか」
 「え? 嫉妬ってどういうことですか?」
 「アンタ……いや、スイカは自分の好意は隠さないのに、他者からの好意には鈍感なんだな?」
 「え? いやですね、アキラ様。それじゃアキラ様への好意がバレバレで、あの村長さんは私の事を好きみたいじゃないですか?」
 「……」

 明は無言で返した。 語るに落ちるとはこの事だ。
 「バレバレも何も自分で言ってるじゃないか!」 というツッコミを直前で飲み込む。
 俺からスイカに、村長さんの好意を伝えるのも良くないのではないか? そう思ったのだ。

 「お待たせしました」

 村長が現れる。 先ほどの上半身を晒していた格好とは変わっている。もしかしたら、客人を迎えるために正装へ着替えたのかもしれない。
 スイカには笑みを、明には鋭い視線を送ってくれる。

 「ゴブリン退治の依頼を完了させていただいたと聞きました」
 「はい、森に潜む武装したゴブリン排除の依頼を果たしました。証拠にゴブリンの武装を持ち帰りました。これから町へ戻り、組合ギルドへ報告を――――」
 「いや、問題のゴブリンを退治したのなれば、そこまで急がれる必要もないでしょう。今晩はこちらに御泊りください。贅を尽くした御持て成しとまでは、言えませんがそれなりにろうねぎらう用意はあります」
 「はぁ、では、どうしましょうか? アキラさま?」
 「……」

 どうして、そこで俺に聞く? と明は心の中で突っ込みを入れた。
 明が村長の顔色を窺うと、村長さんの笑顔にピキピキと、よくわからない血管が複数浮かんでいた。

 「失礼ながら、こちらの男性はどなたでしょか? ゴブリン退治に向かう前、こちらに立ち寄られた時には1人だったと覚えているのですが……」
 「はい、アキラさまは私のパートナー……つまり英雄さまです!」 
 「……」
 「……」

 (いや、俺に説明を求めるような視線を送ってこられても……たぶん、俺、アンタの恋敵だぞ? スイカの不思議空間を共有したがらないでくれ!)

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 ―――夜―――

 宴だ。
 スイカの誇張された武勇伝に村人たちは多いに盛り上がった。
 近隣の村からも権力者的な人たちも集まったらしく。
 和気藹々とした空気でありながら微妙に政治的なやり取りが見える。
 しかし、酒と美食に人々の倫理や道徳心は脆く、解け落ちて本性を現してくる。
 明は用意された部屋に戻るとそのまま布団に倒れた。

 (おかしい。酒を飲んだ記憶はない。飲み物あるいは食事に一服盛られたか?)

 しかし、すでに毒は抜け落ちている。

 『摂津流 解毒法』

 呼吸法によって体外へ毒を排出している。

 (体は……よし、身体能力の低下はない。そろそろ、来そうだな)

 明は殺気を探る。
 外では、ドンチャン騒ぎが行われている最中。
 誰かが、争っていても喧嘩程度に思われるだろう。

 (そうして、朝になって俺の姿が無くなっていても知らぬ存ぜぬを決め込むつもりだな)

 こちらに向かってくる殺意は5つ。
 殺意の強度から1つだけ突出して強いのは村長のもの。
 後の4つは殺意が薄い。個人的な感情で人を殺そうとしているのではないからか。
 その殺気は、明の部屋の目前で止まり――――

 「いくぞ!」と村長の言葉で勢いよくドアが開かれた。
 しかし――――

 「なっ! いない? 毒で動けないはずなのに!」

 そこに明はいなかった。
 動揺する村長の後ろで音がした。
 人が倒れる音だ。
 振るかえるとそこには、明が立っていた。――――いや、明だけが立っていた。
 宴を理由に、他の村々から呼び出した4人の戦士たちは、抵抗すらできずに倒れている。

 「なっ! 貴様!」

 村長は槍の先端を明に向ける。
 しかし――――

 『摂津流斬撃術 五月雨杜若さみだれかきつばた

 鍛え抜かれた体の末端には切れ味が宿る。
 村長が自慢の槍を突くよりも速く、明の手刀は槍をバラバラに切り裂いた。

 「ひぃ!」

 惨めな悲鳴を漏らした村長に対して――――

 『摂津流活殺術 北斗突き』

 その腹部に拳を放った。
 強烈な打撃。そのはずだが――――

 「あ、あれ? 痛くないぞ」

 村長は痛みも苦しみも感じなかった。
 それもそのはずだ。 明の放った衝撃は村長の体内に留まり続け、外部へ弾け飛ぶ準備をしている。

 「北斗突きは3年殺し。 その名の通り、俺が解術法を行わなければ3年後の今日……お前は死んでいる」
 「し、死ぬ! この俺が!? たす、助けてくれ!」

 「いいよ」と明は妙に軽い感じだ。

 その態度が予想外だったのだろう。
 村長は「へぇ?」と抜けた声を出す。
 だから、明が悪魔のような笑みを浮かべている事に気づくのが遅れたのだろう。

 「定期的に治療してやるよ。少しだけ割高料金になるけどね」


 翌朝……

 「いやぁ、良い村でしたね。お土産もドッサリもらえました。それに成功報酬の上乗せしていただけるなんて初めてですよ」

 朝早く村を出発することにしたにも関わらず、スイカのテンションは高かった。
 もしかしたら、早朝にも関わらず、村をあげての見送りに感情が高まったのかもしれない。
 一方の明はというと――――

 「ふぁ~」と欠伸を1つ。

 「そうだな。中々、愉快な村だったな。定期的に遊びに行くとしよう」

 それだけ言うと、むにゃむにゃと瞳と閉じて寝ながら歩き続けた。
 寝ながら歩くとは――――
 明が器用なのか? 
 それとも摂津流の妙技なのだろうか? 
 それはわからない。 今はまだ――――


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