異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

VS強化種ゴブリン

 
 『摂津流 九鬼閃雷』

 四方から襲い掛かってくるゴブリンへ拳を叩き込んだ。
 九鬼閃雷は、基本的に1対1の戦いに使用されるコンビネーションだが、対複数人にも有効だ。
 その計算処理速度は、襲い掛かってくる敵をどの順番で倒すか? その最効率を導き出す。
 現にゴブリンの小柄な体は後方へ吹き飛んでいった。
 だが、地面に叩きつけられたはずのゴブリンは、立ち上がってくる。

 「ちっ、倒しきれなかったか。 硬いだけじゃなくて衝撃を吸収する素材できているのか」

 明はゴブリンたちが身に着けている鎧を凝視した。
 「おい」と後ろの少女に声をかける。

 「は、はい」
 「こいつら、何なんだ? 俺の目にはRPGロールプレイングゲームで出てくるゴブリンが武装しているように見えるんだが?」
 「アールピージーですか?……いえ、確かにアレはゴブリンです」
 「……ゴブリン。実在していたのか。 俺のイメージじゃ最弱の魔物って感じだが……こいつ等、強いぞ」
 「はい、このゴブリンは強化種です。魔王の手によって強化されています」
 「魔王? ……魔王か」

 現実感の無い言葉だ。
 しかし、ゴブリンとやらが発するギラギラとした殺意は現実のもの。

 「念のために聞いておくけど」
 「はい?」
 「コイツら、倒して良いのか?」

 少女は一瞬、質問の意味が分からなかった。
 魔物は倒すのが当たり前。しかし、自分をかばうように立っている少年は、その常識が欠如している。
 幸いにして、その違和感に少女は心当たりがあった。

 「もしかして、ここではない世界。あなたは異世界から召喚に応じてくれた者なのですか?」
 「いや、知らないよ。確かに、俺が住んでいた場所とここは違うみたいだけどね。それで、倒して良いのか? 動物愛護法みたいな感じで、罰せられたりしないよね? 悪いけど手加減して倒せるような相手じゃないみたいなんだけど?」

 明はゴブリンを指さした。
 言葉を理解できないはずのゴブリンたちだが、明の態度から自分たちが馬鹿にされていると察したのかもしれない。
 荒々しく、猛り始めた。

 少女は、明の質問に「はい」と力強く答えた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 強化種ゴブリン。

 そう呼ばれているが、個々の性能スペックは、通常のゴブリンと同等である。
 魔法と弾き、衝撃を軽減する鎧。 敵の剣を折り、鎧すら切り裂く名刀。 
 その装備が強化種といわれる所以だろうか? 

 いや、違う。

 確かに、それらの装備は彼らの戦闘能力を大きく引き上げているだが――――
 彼らが他のゴブリンと大きく違っているのはタクティクス。
 つまりは戦術だ。

 戦術と統率。

 ゴブリンコマンダーと言われる司令塔が指示を出し、他の29匹のゴブリンが統率の取れた動きで攻撃を開始する。
 徹底された組織的攻撃プレイ。  
 まるで30匹の集団が1匹の魔物とすら思える統率力だ。
 強化種ゴブリンと言われているが――――
 それは、もはやゴブリンという生物の枠を超えた集団だ。

 しかし、司令塔コマンダーは困惑していた。

 魔王直属の部隊である彼らは、人界に近い森に待機する命令を受けていた。
 もちろん、魔王直属の命令。――――しかし、その目的は不明である。

 なぜ、誇り高き我々が、このような辺境の地で待機しなければならないのか?

 そんな思いもあった。しかし、今――――魔王の考えが分かった気がした。
 おそらく、魔王様はこの人間が、この場所で現れると予知していたのだ。
 そうでないと説明できない。
 我々が、ただの人間を相手に――――一方的に虐殺されるなんて!?

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 『摂津流心意打撃術 覇王掌』

 真っ直ぐ、そして捻りが加えられた掌底は――――
 ゴブリンたちの鎧なんて存在しないように衝撃を体の内部へ通す。
 技を受けた彼らは、体の内側が爆ぜたようなダメージを受け、倒れていった。

 残るゴブリンは3匹。

 司令塔コマンダーは指示を捨て、自ら武器を取る。
 それが敗将の役割と言わんばかりに――――

 「キッキキキー キッキキギギ!(!我ら魔王軍に栄光あれ!)」

 そう叫ぶと3匹同時で明へ襲い掛かっていく。
 だが、しかし――――いや、やはりと言うべきか。

 『摂津流 九鬼閃雷+覇王掌』

 ゴブリンたちは明に一太刀も浴びせ事すら叶わなかった。
   

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