異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

魔法陣!?  異世界召喚の儀式

 
 「それじゃ行ってきます」

 国栖明は、制服に着替えて学校へ出かける。
 いつも通り、家の外には幼馴染の日高水夏が待っている

 「おはよう」と明はあいさつをする。 
 すると彼女は「うん、おはよう」と弾んだような声へ返事をしてくれる。
 そんな関係だった。そのはずだが、最近はどこか余所余所よそよそしい。

 (そう言えば、告白されたんだったけ?)

 明は3か月前の激戦を思い出す。
 今では国栖家で家事をこなしている鬼塚 聖也だが……
 ほんの3か月前までは、世界を相手に戦いを起こそうとしていた。
 そんな彼の暴走を止めるため、血で血を洗うような殺伐した戦場に向かう直前―———

 「日高水夏は、ずっとあなたの事が好きでした」

 そう言われたのだった。

 (……いや、余所余所しいのは俺も同じか。だったら今―———)

 「なぁ」と明は、先を歩く水夏を呼び止める。
 「ん?」と振り返る彼女の姿に見蕩れて、呼吸が止まる。

 (あれ? コイツ、こんなに可愛かったか?)

 幼馴染。
 彼らは、幼い頃から一緒にいて異性としての意識が薄かった。
 ただ、なんとなく、ずっと一緒にいて、そのまま恋人になって、結婚するのだろう。
 漠然として、そんな感覚があった。
 しかし、異性として意識してしまうと決壊したダムのように感情が溢れてしまう。

 「いや、なんていうか……あの時の返事をしておこうと思って……」
 「え? 今、ここで? なんていうか唐突だな。君らしいよ」

 そう言って笑う彼女の頬に赤みがさしていることに気がつく明だった。

 「何て言うか……俺もお前の事が―———」

 そのタイミングで異変が起きる。
 明は足元から薄青い光に覆われていく。
 それは、フィクションの世界で散々見た魔法陣マジックサークルそのもの。

 (ちっ! 油断した!)

 普段なら、簡単に避けられただろう。
 摂津流は殺意や悪意に敏感だ。 
 例え、1キロ離れた場所からライフルで狙撃されても避けれる。
 例え、それが人間ではなく機械仕掛けの方法でも、それを計画した人間の残留思念から僅かな感情すら読み取れる。 
 例えば、カバンの中に仕掛けられた爆弾からでも、遠く離れた犯人の殺意や悪意を感知できるのだ。

 しかし、この攻撃(?)には敵意も悪意も殺意も存在していなかった。
 むしろ、心地の良さすら感じられると同時に、焦りや祈りという感情の混じっている。
 だから、明はその場を動けなかった。
 彼の名前を叫ぶ水夏を残して、彼の姿は地球から消滅した。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「……どこだ? ここ」

 明の眼前には木々が覆い茂っていた。
 山籠もりを定期的に行う明は、植物に対しての知識がある。
 その知識から、ここが日本ではないという事が分ってしまう。
 未知の減少からくる動揺。心音が跳ね上がる。
 だが、明はそれを制御する。
 心臓の鼓動は呼吸とシンクロしている。だから、こその呼吸法。
 一瞬で平常心を取り戻り、周囲の観察を行う。

 (人の気を感じる。それに、なんだこの気は? 野犬や猪にしては悪意は強い)

 どうやら、その人物が明をここへ呼んだらしい。

 (野生動物に囲まれ、命からがら……どうやって俺をここに連れてきたのか方法はわからないが、無視するわけにはいかないか)

 明は大地を蹴り、駆けだした。
 その人物はすぐに見つかる。だが————

 「なんだ? こりゃ?」

 そこには女の子がいた。
 金髪碧眼の少女。
 あどけなさが残る顔だが、将来は美人になると容易に想像できる顔立ち。
 腰まで伸びた美しい髪。 短めのスカートと体のラインがわかるようなフィットした上着。 
 奇妙な棒を片手に持っている。だが、棒術の使い手に見えない持ち方だった。
 目立つのは背中のマント。真紅のマントだ。
 明は、生まれて初めてマントをした少女を見た。

 (いや、問題はそこじゃないな)

 問題は彼女を囲ってる生物だ。
 背丈は30センチくらいだろうか? 二足歩行の生物が30匹。
 それらの全てが黒い鎧を着こんでいる。そして手にしている武器は剣だ。
 その生物が少女に向けている悪意は尋常ではない。

 だから、こそ体が反応した。

 明は、その場に大きくしゃがみ込むと―———飛翔。
 奇妙な生物たちを飛び越えて、少女を庇うように着地した。

 「何が起きているのかわからない。けど、アンタを助ける事にしたよ」

 明はそれだけ少女に告げると構える。

 「摂津流 国栖明。 死にたくない者は去れ」

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 少女は何が起きたのかわからなかった。
 裕福な家を飛び出して目指したのは冒険者。
 そして、これが冒険者組合ギルドから受けた最初の依頼。
 簡単なゴブリン退治。そのはずだった。
 しかし、彼らの生息地に行ってみると、敵はただのゴブリンではない事がわかった。
 強化種。 魔王軍によって強化されたゴブリンだった。
 魔法を弾く漆黒の鎧。 岩も切り裂く剣。
 なぜ、そんなゴブリンが人里近い森にいたのか? 答えはカンタンだ。しかし、信じたくはない。
 500年間、魔界に籠っていた魔王軍がついに人間界に進軍を開始した。

 (早く、ギルドに知らせないと!)

 黍を返した彼女だったが、その焦りが単純なミスを犯し、ゴブリンたちに見つかった。
 強化種ゴブリン。1対1でも勝てるとは限らない敵が30匹。
 彼らに追われ、絶対絶命の状態。彼女は切り札を使った。

 彼女の職業は召喚士。

 その全ての魔力を消費して、召喚の儀式を行ったのだ。
 彼女は、召喚士として未熟。しかし、魔法に関しては優秀。天賦の才があるとも言えた。
 そんな彼女が持てる魔力を全て使い果たして召喚したのが国栖 明。

 ただの人間でありながら、格闘技と言われる分野では間違いなく最強の人類であった。


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