破滅の華が散る日まで

澪佩

僕は何者?

二人に付いて歩いて行くと、大きな館がある。ここがユリュリアとリエースの住む家なのだろうか。正面玄関から入るのかと思えば、そっちじゃないとリエースに引っ張られた。

「本当は正面から入りたいんだけれど、私みんなに内緒であなたの所へ行ってしまったから、裏口からなの。」

「悪いな、こいつ内緒で家を出ることが日常茶飯事だから。先代様に叱られても全部ユリュリアのせいにしていいぞ。」

「な、何よ。あなただって人の事言えないくらい抜け出してるじゃない。」
何やら言い合いになってしまったようだ……。本気で喧嘩してるようには見えなくて、どこか面白くて……仲がいいんだなと思う。

「二人は兄妹なの?」
かなりの確信を持って聞いてみたのだが……ある訳ないと二人に同時否定された。正直あれれ?といったところ。でも、

「二人とも、同じ事言うんだね。やる事もほとんど似てる、やっぱりきょうd…「違うよ/から」……そんなに否定しなくても……。」
ダメか……。しかも二人はまだ言い合っているみたい、僕には止める術がない。どうしていいものか、悩んでいると、ユリュリアとリエースを呼ぶ声が聞こえた。二人に呼ばれているいると声をかけても全く聞いていない。さっき内緒で出てきたと聞いたから見つかったらまずい事になるんじゃないかな……。

「ね、ねぇ、見つかっちゃうよ……?」

「大丈夫ですよ。もう見つかってます。」

「……え?」
肩に優しく手を置かれ見上げると、綺麗な……と言ったら変かもしれないけれど男性が立っていた。ただ、向けてくる笑顔は笑ってない……。その笑顔が、故郷が襲撃にあって僕に向けてきた顔と同じ事に気がついた。違う……この人はそいつじゃない……!違うのに身体が硬直してしまう。それに気がついたのか、男性は、優しくお前は悪くないのですよと声を掛けてくれた。少し肩の力が抜けたみたい。

「ユリュリア、リエース、どこへ行っていたのです?」
二人に対して一言。怒っているようで、呆れている声。流石に二人も気がついたみたい、物凄く青ざめた顔してるけどね。

「俺はユリュリアを探しに行ってました。」

「ちょっとそこの森まで……。」
二人の回答に、はぁ……と大きなため息をついた男性。様子からして二人とも常習犯なんだね……。

「森に近づいてはならないとあれほど言ったでしょう……。これで何回目になるやら……。言い訳は館に戻り次第聞きます。」

「待ってください、アヴィール様!!本当は近くを散歩していたんです。そうしたら何かを感じて、感じたままに歩いたら森の近くでその子が倒れていたんです。怪我していたから治療してあげようと思って……。」
ユリュリアのその言葉に、アヴィールと言われた男性が驚いた顔をした。でもその顔は一瞬で、すぐに落ち着いた表情に戻った。何に驚いたのだろう……。

「その言葉に嘘はありませんね……。それで、この子を連れてきたと言うのですね。確かに重い怪我を負っているようです、行きましょう。私にしっかり掴まっていなさい。」
何が起こるのかと二人に聞くと、どうやらこのアヴィールという人が《先代様》のようで、風を操れるみたい。
僕達3人を包み込むようにこれまで経験したことのない突風が吹いたかと思うと、部屋の中にいた。凄く広い部屋でその中にアヴィール様と同じような雰囲気を持った人達がいる。その中の1人が僕らに気がついたようで歩み寄ってきた。

「戻ったか、アヴィール。二人は見つかったようだな。おや、今日はもう1人増えているようだな。」

「はい、ユリュリアが発見したようで。その場で癒せれば良かったのですが、かなり酷いので貴方に頼もうと思って連れてきました。」
アヴィール様の後に隠れるようなかたちで立っていたが、僕を紹介する様なかたちで前に出される。見上げると、キリッとした顔に優しい笑顔があった。なんだろう……カッコイイ。

「る、ルノワール……です。」

「ルノワールと言うのか……。私はパーゴス、アヴィール同様この家の先代の一人だ。それで、どこを怪我しているのか……。」
自分では、もう限界に近い。喋るのも館の前に来た時点で難しくなっていた……。でも、自分の傷は自分じゃないと分からない。何とか口を開いて言おうとしてもなかなか口が動かない。そんな僕の代わりをする様にユリュリアが僕の傷について話した。見せてないはずなのに

「……そうか。魔力のせいで傷が隠れている。ハシュマダー、頼んでも良いか?」

「ええ、俺にはこれくらいの事しか出来ませんから。」
そう言いつつ僕の目の前に立ったのは、紫色の瞳を持っている男の人……。なんか凄く悲しそうな目をしている。

「ちょっと触るよ……。」
傷を隠していたわけじゃない。いつの間にか、それも今言われてから気がついた。今傷を触られたら、僕は気絶するんじゃないかと思って、目を閉じた。

「ははっ、傷には触らないから怖がらなくてもいいのに……。」
リエースに言われるけど、そう言うのじゃないんだよ……と言い返す。そう言えば、触られてから僕の身体にまとわりつく様にあった黒とも紫とも似つかないものが身体に戻っていく……。ただ、ここにいる人には見えていないらしく、言わないことにした。

「これは…………。」

「なんて酷い……。」
そんなに酷い傷を負ってたの……?痛みも疼きもしなかったから分からなかった。

「こんなに酷い傷でよく生きてられたな……。強い生命力だ。あ、褒めてるんだぞ?」
ハシュマダー様に褒められた(?)。でも、言う通り。どうして生きられたのか……。

「悪い、話さない方がいいな。傷に障る。パーゴスさん後は頼みましたよ。」
パーゴス様の治療(?)によって跡形もなく傷口が塞がれた。新しい衣服を貰って着替える。

「ありがとう……ございました。もう痛くないです。」
ユリュリアとリエースにもお礼を言おうとすると、ドアが開いて、黒い服の人が入ってきた。黒かったから村を襲撃した人かと思ったけれど、ここの使用人のようで、要件だけを伝えると出ていってしまった。

「何かあるの?」
気になって聞いてみると、ユリュリアと僕を除くここにいる人達が呼ばれたらしい。

「私も行く。」
出ていくリエースにせがむように言いよるユリュリア。けれど、リエースは首を横に振った。

「お前は来るな。」
そう言い残して先代様と一緒にリエースは出ていった。
どうして……、とボソッとユリュリアは呟く。ユリュリアに話してはいけない内容なのだろうか?

「ユリュリア、みんなが戻ってくるまで待ってよう?僕じゃつまらないかもしれないけれど、お話くらいはできるよ。」
寂しそうな顔をしていたユリュリアは、僕の言葉を聞くなりパッと明るい顔を向ける。

「あのさ、ユリュリア。僕、君に傷の事言ってないのにどうして分かったの?」
少し考えた顔をすると、自信がなさそうに答える。

「あのね、ルノワールの身体のまわりに黒いって言うか、紫って言うか……、よく分からないんだけどモヤモヤがかかってたのが見えたの。だから探しにくいなって思って……。ほかの人には見えてなかったみたい……なんでだろう……。」
ユリュリアに見えてた……?

「でも、変なモヤモヤだけじゃなくて……んと……お華……?の形をしてたよ。」
僕の力が華……?分からないよ……。村のみんなから出来損ないって言われて……理解者である両親も何も言ってくれなかった……、ただ生きろ……それだけを言われてきた。






















―僕は一体何者……?―

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