異世界戦線の隊長はちびっ子隊長⁈

明奈良下郎

第4話語り手

 これはこれは読者の皆様こんにちは、もしくはこんばんは。今回も異世界戦線のちびっ子隊長を読んでいただき、誠に感謝いたします。それでは自己紹介を致しましょう。私は語り手、これまで3話読んでいただき、その地の文の部分にあたります。
 もしかしたら、皆様はこうしてただでさえ人気の無い小説が更に人気がなくなるのでは?面白くなくなるのでは?とお思いかもしれませんがご安心を、私は飽くまでも語り手。ただ話しを読むだけ、私が話しに関わる事はございません。
 さあ、私のことはこの辺にして本編へと参りましょう。それではアビス・カーティーのその後の話を…と行きたいところですが、その前に彼がアビス・カーティーになるずっと前の物語から、始めることにいたしましょう。




時は20XX年、場所は皆様がお住まいの場所に似ているが、全く違う場所。そんな場所に住むとある夫婦の下に、1人の男の子の赤ちゃんが産まれました。夫婦は心の底から喜びました。ですが出産後そんな夫婦に、とんでもない不幸が言い渡されたのです。

 「せ、先生今何と?…」
 「先程も申しましたが、残念ながら貴方がたの赤ちゃんは、20歳以降まで生きる事は非常に困難です」

 それは夫婦にとって最悪の報告だった。「何か治療方法はないんですか?」と妻が聞くと、医者は「無いことはありませんが、現実的に不可能です」と言った。夫婦は頼むから教えてくれ!と懇願し、医者もその勢いに負け渋々教えた。

 「確かに息子さんの助かる可能性だけはあります。ですが、期待はしない方がいいでしょう。それが貴方がたの為なのですから…
 息子さんの病気はこれまで世界で数百人程度、発見されています。そして、その治療を受けることが出来るのは、世界屈指の富豪と呼ばれる人たちだけです」

 夫婦は思ってもいなかった言葉に絶句するが、それでも意を決して「いくらほど掛かるのですか?」と聞くと、医者はポツリと呟くように「五億」と言った。その予想外すぎる答えに、夫婦は開いた口が塞がらないと言った表情を浮かべるが、医者は敢えて更に続けた。

 「更にこの病気の特徴で、一定の期間内に治療を受けなければ、今後絶対に治ることはありません。…その期間は……生後約一年以内です」

 その言葉に夫婦は、目の前が真っ暗になったかの様な感覚に襲われた。医者の説明後まず母親はまだ入院中の為病室へ戻った。父親は妻を病室まで送ると、意気消沈した表情で自宅へ帰っていった。
 父親は自宅へ戻ると、パソコンで息子の病気について調べ始めた。もちろん医者が説明しなかったわけではない、ただその時専門家の口から現実を突き付けられるのが怖かった、聞きたくなかった、希望という名の願望を崩されるのが嫌だった。そんな幼稚な現実逃避だった。そんな父親が何かないかと、何処かに突破口はないかと調べ始めた。だが、待っていたのは今の自分では自分の子供すら助ける事も出来ない、というそんな現実だった…
 助けられない理由、それは何もお金だけの話ではない。まずは治療を受けた数人の富豪の子供たち、その全員が助かった訳じゃあない。助かった人数、それはたったの二人だけだ。二人だけ、確率にすれば何十%かはあるかもしれない。だがその二人が助かったのは、単純に運が良かったからにすぎない。実際アメリカの某研究所が公表している治療の成功確率は、何と小数点以下だった。
 ここまで言えば勘の良い者は分かるかもしれない。つまりこの五億という金額は、子供の命を五億で購入すればいい、ただし助かる可能性は低く絶対という保証はない。といった感じだ。もちろん公表している理由は、後から文句を言われないようにするためだ。
 こうして、この夫婦は息子の命を苦渋の決断で諦めることにしたのだった。


 月日は流れ、子供が成長するのは早い。このご時世に、無事に保育園に入園、そして卒園し小学校も無事に入学することが出来た。夫婦はきっとあの時の医者の診断は誤診または自然治癒したんだ、きっとこれからも何もなく普通に過ごす事が出来るのだろう。そんな楽観的な考えていた。だが、現実はそう甘くはなかった。
   少年が小学三年生に上がったとある日、少年が休み時間に友人と遊んでいると、いきなり高熱を発し倒れた。体温は四十度を超え、急いで救急車で病院へと運ばれた。
 その日は解熱剤等を打ち入院すると、翌日には熱はすっかり下がり、念の為に検査を行なったが体に異常は見られなかったが、学校は休むことになった。
 そして、検査後に夫婦と主治医が話し、少年に生まれた時からかかっている病気の事について打ち明けることになった。打ち明けるが、少年の反応は「はぁ…」という感じで驚くわけでも悲しむわけでもなく、何を言ってるのかいまいち理解出来ていないっといった感じだ。無理もない、彼はまだ小学三年生だ。まだ良いことと悪いことすら、完全に把握出来ていないような年頃なのだがら。

  「……と、兎に角!君は産まれながら私たちにも治す事が出来ない、命に関わる病気をもっているんだ、友達と遊びたい気持ちは痛いほど分かるけど、あまり無茶な運動は控えるように!分かったかい?」
 「は、はい…」

 主治医からの話しが終わると、その日で退院し病院の駐車場へと三人は向かった。

 「お母さん、お父さん、僕は死んじゃうの?」

 病院から出ると少年はいきなり夫婦の目をジッと見つめて聞いてきた。その少年の瞳はとても澄んでおり、本当に自分が死んでしまうなんて思ってもいない目だった。

 「ごめんね、貴方を健康に産んであげられなくて、ごめんね!」
 「本当にすまない…」

  夫婦は我が子を強く抱きしめた。少年はその時、何となく感じたのだった。自分はもう助からないのだと、この病気は治る事がないのだと…
  本当は謝罪なんか聞きたくなかった。嘘でも良い、希望なんて無くても良い、ただ一言大丈夫だよと絶対治るからと、その言葉が欲しかっただけなのに…
  少年は何も言わず、只々両親の手をそっと握り返すことしか出来なかった。

  それから少年は性格でも変わったかの様に、勉強にのめり込んだ。別に勉強が好きになったとか、自分で自分の病気を治そうとか、そう言った事を思ったわけではない。自分は後数十年で死ぬ、それが分かった時に少年の中でとある感情が芽生えた。それは何かをのこしたい、という感情だ。自分が何を遺せるのか、全く分からない。いや何も遺せないかもしれない、それでも数少ない時間を少しでも意味のある物にするべく、とにかく勉強に励んだ。だが、運命はそれを良しとはしなかった。
  一年を過ぎていくごとに少年の身体は悪くなる一方だった。小学校を卒業する頃には、ほとんど学校には通えなくなり、中学校は登校もままならず自宅療養と病院で入退院を繰り返し、登校日数の不足により通信系の高校へ入学するも、基本的に病院のベッドで寝たきりの生活。看護婦さんや主治医の先生と、リハビリを行うが一向に良くなることは無かった。それでも勉強だけは続けており、学力だけならばアメリカの大学院にも今すぐ入学できるのではと、言われるほどだった。でも、それでもどんなに勉強しても、専門的な知識を学んでも今の年齢での治療法は見つからず、どんなにリハビリに励んでも身体は徐々に衰えていった。
  そして、ついに少年が二十歳の誕生日まで残り数日、少年は急な発作を起こし昏睡状態に陥った。両親は連日少年の見舞いに訪れた。父は仕事がある為その後に、母は家事を早々に終わらせて少年の世話を焼いていた。そして、少年の二十歳の誕生日になり少年が産まれた時間まで残り数時間を切った時だった。

  「息子さんが産まれた夜中の十時、それが山場になるでしょう」

  両親は息子の干からびた様な手を握りしめる事しか出来なかった。もちろん両親以外にも親類は居るが彼等は、その光景を黙って見ているだけしか出来なかった…
  だがこの時、小さな奇跡が起きた。少年の身体はまるでミイラの様に水分がほとんど抜け、骨の中はスッカスカで歩くどころか目を開けて喋る事すら出来ないほどだ。だが、少年は眼を開け両親へ片腕を伸ばした。

  「死にたくない…こんな、こんな無意味な人生、嫌だよ……」

  息子の手を握っていた夫婦は、そのまましゃがみ込みながら泣き崩れた。病室には無情にも響き渡る強弱も無い「ピー」という電子音と、主治医の「御臨終です」という声だけが残った。
  少年がこの時に何が言いたかったのか、どうして態々わざわざそんな事を言い残したのか、例え両親であってもその答えは分からない。もしかしたら意味なんて無いのかもしれない。
  ただ一つだけ言える事は、こうして何も遺せなかった名も無き少年の人生物語は幕を閉じた。

コメント

コメントを書く

「戦記」の人気作品

書籍化作品