右目を無くした少年の恋のお話

Akisan

新学期

ところで、本は素晴らしい

ただの紙の束に文字を並べただけなのに
そこに新たな世界を造り出せる
そのなかに縛るものは何もない
そんな理由で俺は本が好きだ

教室へ入り黒板に貼ってある
自分の席に座る
バッグの中から本を取りだし
挟んだ栞のところから本を読み進める
まだ、始業までは30分ほど時間がある

誰かが窓を開けたのだろう
爽やかな風が春の匂いをつれて
頬を撫でていく

切るのがめんどくさく
目の下まで伸びている前髪も風に踊る
(髪止めでも持ってくれば良かったな)
そんなことを思いながら
本の世界に入り込んでいく

「はい!みんな席ついて!」
その声に気付き前を見ると既に担任が
教卓に立っていた

栞を挟み本を閉じる
空想そっちの世界から現実こっちへ意識を戻す

「皆さんはじめまして
私はこのクラスの担任の──」
興味がないので物思いに耽る
窓の外を眺め、あの風に桜の花が
全部取られないか等を考えていた

「──では、自己紹介をしていきましょう」
『『『えー!』』』
(めんどくさ、わざわざやらんでも
勝手に覚えていくだろ)
しかし、出席番号順に
自己紹介が始まっていく
「───はい、それでは次は…咲宮さん」
(あーあ、俺か)
「咲宮春斗です、趣味は読書です
よろしくお願いします」
完璧だ、特に目立つことなく
敵も作らない、普通が一番だ

──そして、平凡が始まった

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