【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

正妻戦争(24)レッドドラゴン強襲!




「――マリーって、セフィの娘のマリーだよな?」

 俺は、町の路地から姿を現した赤竜であるファイアードラゴンを見上げながら、彼女に問いかける。
 俺の言葉に、セフィが神妙そうな表情で頷く。
 嘘を言っているようには見えないが……。

 いくらなんでも人間がドラゴンになるなんて理解ができない。
 それに――。

「もしかして、住民が逃げているのって……」
「はい。マリーが暴れていて――」
「どうして、そうなったんだ? いや、まてよ……」

 一つだけ俺には心当たりがあった。

「まさか……、魔王に関連があるのでは……」

 俺達が辛うじて倒した淫魔王も人間を魔王に変えてしまうものであった。
 もしかしたら、それが存在しているのでは? と考えてしまうのは至極当然のことだ。
 
「……ね、ねえさん――」

 俺が考えごとをしている間に、ヒャッハーしていたつけなのかベックが御者席に座りながらグッタリとしていた。
 
「ベック!? どうしたの! こんなに憔悴しきって! 唇も真っ青じゃない! 熱もあるじゃない!」
「ね、ねえさん……、実は――」
「セフィ。今は、ベックよりもマリーの方が問題だ」

 ベックの口から俺に不利な話が出る前にすかさず二人の話の間に割ってはいる。
 もちろん、少しは保身のためはある! だが、それ以上にマリーのことが心配でならないのだ。
 もし魔王の力を秘めた石を使ったのなら早急に対処しなければいけないから。

「……そ、そうね――」
「それとリルカは?」

 ソドムの町が、ドラゴンに襲われるなんて想像もしていなかった。
 リルカが無事かどうか確認も必要。

「無事よ」
「そうか……」

 俺は、ホッと一息つくが視線をマリーが変化したファイアードラゴン――、マリードラゴンから離すことが出来ない。
 何故なら、ドラゴンは動きを止めてジッと俺を見てきているからだ。

「セフィ、マリーはどうやってドラゴンになったんだ? やはり魔石が原因か?」

 それ以外には考えられないが確認しておくに越したことはないだろう。

「違うの! 私達の先祖って元々はドラゴンだったから……」
「「な、なんだって!?」」

 セフィの言葉に俺とベックの言葉が重なる。
 ――って。

「ベック、お前も知らなかったのかよ!」
「旦那、うちの両親は秘密主義だったもんで……」
「つまり魔石が原因ではなかったということか……」
「ええ。マリーは先祖のドラゴンの力を色濃く受け継いだみたいで……、私も娘がドラゴンになるまで忘れていたのだけど……」
「――ということは、受け継いだ力でドラゴンに?」
「たぶん――、マリーは私達が話をしていた内容を聞いてショックを受けて……」
「俺達が話をしていた内容?」
「ええ、夫婦じゃないと言う事を聞いていたみたいなの」
「……それでドラゴンに?」
「昔に聞いたことがあるの。両親にね――、思春期のドラゴンには良くあるって……」
「よくあったらダメだろう」

 俺は無意識の内に突っ込みを入れながら、あの時に聞こえてきた物音がマリーの物であったということを確信する。

「それで、どうすればドラゴンから人に戻せるんだ?」
「分からないの……」
「そうか……、わかった。とりあえずベック。お前は、リルカを連れて町の外へ避難してくれ」
「旦那は?」

 ベックの問いかけに俺は、「マリードラゴンは、俺に用事があるみたいだと」と、答える。
 事実、先ほどまで暴れていたマリードラゴンは、俺をまっすぐに見下ろしたまま身動きすらしない。

「わ、私も! 此処に残るわ!」
「当たり前だ。母親であるセフィが離れたら、それこそ問題だろう」

 俺とセフィが話をしている間にも、ベックがセフィの自宅からリルカを抱き上げて出てくる。
 
「ガアアアアア」

 突然、マリードラゴンが唸り声を上げると、ベックに向けて直径2メートルほどの火の玉を口から吐き出した。
 吐き出された火の玉は、直進し真っ直ぐにベックへと向かう。

「――ッ!」

 俺はベックと、飛んでくる火の玉の間に割って入りながら腰に差していた日本刀へ手を添える。
 そして、刀身に固定の魔法を纏わせながら居合い切りの要領で日本刀を横一線に振り、火の玉を切り裂いた。
 切り裂かれた火の玉は小さな爆発を起こす。
 爆風に、数十センチ後退を余儀なくされながら俺は生活魔法を発動。

「ベック! これを!」

 生活魔法で作り出したエナドリを3本ほど、ベックに向けて放り投げる。
 もうベックの体力も限界のはずだ。
 色々と酷使されて大変だと思うが、あと少しがんばってもらいたい。
 俺の投げたエナドリを、幌馬車にリルカを乗せたあと受け取りながら「旦那、いいのですかい?」と、言ってきた。
 すかさず「ああ、グイッとやってくれ」と、頷く。
 
 するとベックがエナドリを3本飲み干すと恍惚な表情を見せたあと「ヒャッハー」と、言いながら幌馬車の手綱を操りながら去っていった。

「カンダさん……」

 俺とベックのやり取りを見ていたセフィが眉間に皺を寄せて語りかけてきた。

「なんだ?」
「さっきの飲み物、本当に大丈夫なのかい? あんな、おかしな弟を見たことないんだけど!?」
「大丈夫だ。問題ない。24時間戦えるようになる薬じゃなくて飲み物だ」
「飲み物……? あれが――!?」

 さすがは薬師だ。
 ベックなら簡単にやり込めるが、セフィには通用しないらしい。
 余計、疑心暗鬼を与えてしまったようにすら見える。

「セフィ。今は、そんなことよりもマリーを何とかすることが先決だ!」

 とりあえず、問題を先送りするとしよう。





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