【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
正妻戦争(20)エルナ VS 神田栄治
「魔力切れ――?」
「はい。獣人たちの間では稀に魔法が使える者が生まれるらしいですが、魔法を使うためには代償が必要なるらしいんですよ」
「代償!?」
俺は一瞬声を荒げる。
「そうか……、どうりであれだけの速度と力を発揮できたわけだ……。おそらく、かなりの代償を払っているんだろう」
自分自身で口に出しながらも最悪の事態をつい想像してしまう。
よくドラマや漫画などであるような寿命を削ったり、記憶を失ったり、体が崩壊したりと、そんな洒落にならない代償。
そんなのを払ってまで力を得ていたとしたら、それは間違っている!
「カンダの旦那。勘違いする前に言っておきますが、旦那の奥さんの妹さん――、エルナさんが払っているのは干し肉ですぜ?」
「ほ……、干し肉?」
「そうですぜ、獣人は食べ物を代償に力を得るのが定説ですから」
「――な、なるほど……」
ベックの言葉に頷きながら考える。
エルナの力が干し肉に由来しているというなら……、そし魔力が切れているとしたらエルナは、どこに向かう?
エルナは逃亡したが、リルカに対しての怒りはあると見て間違いない。
「ベック! この辺で干し肉を扱うような店は?」
「もう向かっていますぜ!」
馬車は大通りから路地へと入っていく。
路地は狭く幌馬車の両脇が建物の壁に擦れ火花を散らす。
「旦那!」
「分かっている!」
俺は幌馬車から跳躍し地面へと着陸する。
それと同時に路地から出てきた幌馬車は、乾物店へ突っ込んだ。
俺は乾物店に突っ込んだ幌馬車を横目で見ながらエルナの方へと視線を向ける。
「旦那!」
ベックが透明な液体が入った瓶を俺に投げてきた。
空中で薬瓶を受け取る。
「それは、元の姿に戻る薬ですぜ! 姉さんからの差し入れ――」
「助かる」
正直、リルカの姿のままだと体が思うように動かせなかった。
胸は重いし、尻尾だって移動の際に邪魔になっていたし、何より魔力の練り上げが上手くできなかった。
俺は、受け取った薬を一気飲みする。
「――ッ! カンダしゃん」
変化した俺の姿を見たエルナが目を見開いて俺を見てきた。
「俺が変化した姿だって知っていたんだろう?」
「……」
エルナが無言で言葉を返してくる。
「エルナ。お前が何を抱えているのか……、俺には分からない。だがら、俺にだけは何があったのかきちんと説明してくれないか?」
「……そんなの言えるわけがないでしゅ!」
「そうか――」
正直に話をしてくれるなら良かったんだが……。
まぁ、簡単に人を恨んでいる意味を言えるわけがないよな。
「エルナ」
「何でしゅか?」
「もし、俺に勝つことが出来たらエルナのお願いを聞き届けることにする。だが――、俺が勝ったら事情を説明してくれるか?」
「……獣人のルールに則るということでしゅか?」
「そうだ、力が強いのが正義なんだろう?」
「……分かったでしゅ」
「――なら、これでも食っておけ」
俺は乾物店の干し肉が入っていた袋をエルナの足元に投げる。
「――どういうつもりでしゅか?」
「決まっているだろ? ハンデは無しってことだ」
「ハンデ? どういうことでしゅか? カンダしゃんは私に歯が立たなかったはずでしゅ。それなのに……、私に干し肉を渡すということは、カンダしゃんに勝ち目は無くなるでしゅ」
エルナの言葉に俺は肩を竦める。
ずいぶんと俺のことを下に見てくれたものだ。
まぁ、リルカの姿で防御に徹していたし、ボコボコにされたからな。
ベックの幌馬車から持ち出した日本刀を腰に差しながら、俺はエルナに言葉をかける。
「エルナ」
「な、なんでしゅか?」
「あまり俺を舐めるなよ? 冒険者として10年以上、命のやり取りを俺はしてきたんだぞ? たしかにお前の身体能力は高いが――。それだけだろう? かかってこいよ! 新人(ルーキー)。本当の戦いってやつをレクチャーしてやるよ」
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