【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
正妻戦争(16)エルナ VS 神田栄治
エルナと目が合った瞬間――、生存本能が、警鐘を鳴らしてきた。
俺は、体全体で感じた感覚に逆らうことなくスナイパーライフルを投げ出して屋根の上から跳躍する。
――そして、隣の屋根上に飛び移ったと同時に、俺が先ほどまで立っていた屋根が吹き飛んだ。
「――マジか!?」
思わず、声に出てしまっていた。
先ほどまで立っていた建物の4割が消し飛んでいたからだ。
すかさず生活魔法で双眼鏡を作りだしながらエルナの方を確認すると、エルナの体からは、金色の蒸気のようなものが吹き出ている。
さらに驚嘆するべきことは、エルナの掌底が吹き飛んだ建物の方へと向けられていたことだ。
「魔法でもなく、肉弾戦で離れている建物を吹き飛ばしたのか?」
俺は、突っ込みどころのあるエルナの馬鹿げた身体能力に思わず突っ込みを入れていた。
ダンジョン内のドラゴンですら、もう少し常識のある攻撃力を持っていたというのに、明らかにそれを遥かに凌駕する力を、エルナは俺に見せ付けてきた。
リルカも、相当すごかったが――。
エルナも大概だ。
冷静に思考しながら、対策を練っていく。
正直、俺が持っている手札でエルナを抑える方法がすぐに思いつかない。
離れた場所の建物を掌底一撃で破壊するとか、どこのインフレ漫画だと突っ込みを入れたくなるレベルだからだ。
「とにかく、ここに居たらまずいな――」
建物の屋根上から飛び降りる。
もちろん地面は生活魔法でクッションのように変化させてあるから肉体には着地時の負荷は、あまりかからない。
地面に着地したと同時に、またしても俺が先ほどまで立っていた建物の屋根が、爆音と共に吹き飛ぶ。
その様子を見ながら俺は建物の中を通り抜けてエルナの元へと向かう。
長距離では、エルナに分がありすぎる。
それにエルナの攻撃は、建物を破壊するまで目に捉えることが出来なかった。
おそらく掌底という特性上、空間を押し込んで威力を伝導させていることから目標に着弾、破壊するまで感知ができないのだろう。
はっきり言って、ドラゴンの咆哮よりも遥かに性質が悪い。
「――さて、どうするか……」
俺は生活魔法で、スナイパーライフルを作り出しながら一人呟く。
スナイパーライフルと言っても、この銃はあくまでも生活魔法の範囲内ということで、サバイバルゲームで使われるようなガス銃だ。
よって殺傷能力なんて皆無に等しい。
つまり、相手を無力化させることができない。
「エルナの姿が見当たらないな……」
俺はスナイパーライフルのスコープでエルナが立っているであろう場所へと視線を向けるが、居るのは座り込んでいる獣人の2人組みの幼女と、呆然とした様子のニードルス伯爵だけ。
「リルカ! 見つけたでしゅ!」
頭上を見上げると屋根の上にエルナが立っていて俺を見下ろしてきていた。
一瞬、エルナの名前を口に出そうとしたが、俺はすぐに口を閉じる。
エルナが、どうして俺とじゃなくて、リルカと敵対したのか分からないが、普通の怒り方ではないのは分かる。
対処に迷っている間にエルナは、俺の目の前へ降りてきた。
よく観察するとエルナの表情は、どこか晴れていないように見受けられる。
「――どうして……」
「――ん?」
「どうして! 本気を出さないでしゅか!」
「……」
何と返したらいいのか……。
とりあえずリルカの振りをするしかないな。
「妹に手を出せるわけがない」
「――っ! そうやって……、エルナを馬鹿するでしゅか!」
エルナは、俺の方へ走ってくる。
エルナが一瞬で間合いに入ってくると右手で俺の体に触れてきた。
その瞬間、俺はエルナの手首を持ち右足を払う。
重心が前のめりになっていたエルナが宙を舞うと地面の上に背中から落ちた。
所謂、空気投げというやつであったが、意識してやったわけではない。
何故か知らないが自然と高校で習った技のひとつを無意識に出していた。
呆然としている俺とは真逆に、エルナは怒りに顔を赤く染めて立ち上がってくる。
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