【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

農耕を始めよう(13)




 ――ニードルス伯爵邸を出てエルナを含めた獣人達と合流を果たす。

 俺を含めて一週間近く何十キロもある塩などを背負って移動してきたこともあり、その表情には疲れが見え隠れしている。
 ニードルス伯爵スザンナが、石鹸を作る条件とは言え部屋を用意してくれたのは、正直に言えば助かった。
 13人も泊まれる宿を見つけるのは、かなり難しいこともあったが、村を発展させていくためにも食料の購入にも資金が必要だ。
 出来るなら節約をしたいと思っていた。
 そこに、伯爵が全員分の部屋を用意してくれると提案してくれたのは、かなり助かった。

 合流した後、しばらく宿泊する予定の伯爵邸を見上げていると、リルカが神妙な顔つきで「エイジさん、私には罠があるような気がします」と、語りかけてきた。

「罠?」

 俺はリルカの言葉に首を傾げる。
 ニードルス伯爵は、「兎族は対象外なのですか!?」と、意味不明なことを言っていたが、ソドムの町を良くしようと思っているように感じた。
 そんな悪いような人間には見えなかったし大丈夫だとは思う。
 
「はい。私は思うのです。あのスザンナというメス。エイジさんの体を狙っていると――」
「俺の体を!?」

 リルカの言葉に俺は唾を飲み込みながら考える。

「エイジさん?」
「たしかに、リルカの言うとおりなのかもしれないな……」

 そう、最初にニードルス伯爵は、とても怒っていた。
 そして、俺を狙うという言葉の意味を考えたならおのずと答えは見えてくる。

「命を狙われるということか……」
「どういう理屈で命を狙われているという発言に辿りつくのは分からないでしゅ」

 俺の独り言に、エルナが突っ込みを入れてきたが、俺はエルナの言葉をスルーする。
 そもそも商談に関しての経験はサラリーマンをしていた俺の方が圧倒的にエルナよりも高い。
 それは、商談に関する問題にも正確に把握し理論的に答えを導きだすことにも繋がる。
 ただ、よくよく考えてみると伯爵家当主であるスザンナが俺の命を狙ってくるとは考えられない。
 商談をしていても、理知的に見えたからだ。
 それに石鹸を作るすべを持つ俺の命を狙って作れなくなったら、それこそ問題だろう。
 
「いや――、まてよ?」

 俺はサラリーマン時代に培った大人の絵本――、その情報を総動員する。
 そして、答えを導きだす!

「なるほど……」
「エイジさん?」

 全ての謎は解けた。
 そう、解けてしまった。
 
「たしかにリルカの言うとおり、俺は狙われている可能性があるな……」
「はい! ですから――」
「大丈夫だ!」

 俺はリルカの言葉を遮る。
 考えが正しいなら、間違いなく今夜! 疲れている今日に攻めてくるに違いない。
 相手の取る行動が予測できるなら後は、行動に移すだけだ。

 考えごとをしていると、「神田栄治様、お待たせ致しました。メイドのグレーテルと申します。スザンナ様の命によりお部屋まで、ご案内いたします」と、一人のメイドが話かけてきた。
 俺が頷くと案内されたのは一人一部屋用意された別館のような場所で――。

「こちらが、スザンナ様がご用意したお部屋になります。12室御座いますので獣人の方には、こちらをご用意しました」
「――ん? 12室?」

 俺とリルカが一部屋として、残りが山猫族5人、狼族が5人にエルナが一人。
 合計12部屋で足りる計算になるのか……。

「はい。お一人一部屋ですので、神田栄治様には、石鹸作成を含めて特別にお部屋を用意しております」
「……なるほど……」

 つまり俺が一人になったところで行動に移すということなのだろう。
 俺の命を狙う――。
 なるほど、よく考えたものだ。
 だが、俺はすでにその問題を看過している。
 相手が部屋を用意するというなら、その部屋でそれなりの対応をさせてもらうじゃないか。

「エイジさん、危険です! 間違いなくて狙っています!」

 リルカが、眉間に皺を寄せてメイドを睨みながら俺に語りかけてきた。

「大丈夫だ、俺も元冒険者。俺も俺なりに対応の仕方を心得ている」
「そう……なのですか?」
「ああ、だから心配しなくてもいい」

 そもそも石鹸を作るまで俺の命を奪う事なんて出来ない。
 納品が無くなってしまうからな。
 それなら現実的選択肢として残されたのは、せいぜい俺を軟禁して某寿司チェーン店のごとく地下で石鹸を作らせるくらいだろう。
 もちろん給料が、きゅうり1本より酷くなる可能性があるが――。

 まぁ、相手もこっちが一人の方が油断するだろう。
 なら、俺のために用意された部屋にいくのも方法の一つだ。

「――あの……、神田栄治様のお部屋に案内させて頂いて宜しいでしょうか?」
「頼む」
「畏まりました」

 俺は罠が待っていると思われる部屋に案内される。
 扉を開けて入った部屋を見た瞬間、俺は目を疑った。
 そこは調度品から何から何まで相当なお金をかけて作られた部屋であった。
 
 




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