【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

農耕を始めよう(2)




 さっそく食事の用意を始めることにする。
 
 まずはログハウスに向かう。
 俺とエルナ、そしてリルカが一緒に暮らしているログハウスの中には、多くの麻袋が置いてあり、その中には乾物や黒パンに干し肉がたくさん入っている。

 エルナの状況から見るに料理を作る余裕はないだろう。
 まずは干し肉を少しずつ渡しながら水を飲ませて食事が出来るまでの繋ぎにするのがいいな。
 干し肉が入っていた麻袋と、乾物が入った麻袋、そして黒パンが入った麻袋を一袋ずつ建物から出していく。
 すると狼族の女性が「エイジ様! 私達もお手伝いいたします」と語りかけてきた。
 いつもは、俺に直接的には接触してくることが無かった彼女達であったが、始めて彼女達から話かけられた気がする。

「ああ、お願いできるか?」
「はい! お任せください!」

 彼女は黒パンが30キロ近く入った麻袋を担ぐとジッと俺を見てきた。
 何か他に言いたい事があるのだろうか?

「どうかしたのか?」
「――あ、あの……私は、コローナと言います」
「そうか、俺の名前はエイジだ。それを持ってエルナとリルカに食べさせてやってくれ。ついでにソルティにも黒パンを与えてやってくれ」
「分かりました!」
 
 頭の上に茶色い犬耳を生やした女性は頭を垂れたあと、麻袋をもったまま、エルナのほうへ走っていく。

「結構、若かったな……」

 年齢的には18歳くらいだろう。
 スタイルも、それなりによく中々の美人さんであった。
 まぁ、俺にはリルカがいるから問題ないが……、日本で道を歩いているのを見たら10人中9人くらいは振り向くレベルであった。

「あ、あのご主人様……、私もお手伝い致します」

 考え事をしていると、今度は山猫族の女性が話かけてきた。
 おそらく、俺が開放した奴隷の中では最年長の20歳前後の女性――。
 
「そうか? 悪いな。そしたら乾物を鍋に入れて戻しておいてもらえるか?」
「はい。それで如何ほど?」
「13人……、いや14人いるからな、その麻袋に入っている乾物をとりあえず全部戻しておいてもらえるか?」
「はい! お任せください!」

 彼女も麻袋を担ぐと、俺をジッと見てきた。
 なんだろう? 獣人の中では、男をジッとみてくる伝統でもあるのだろうか?
 もしかしたら命令されたら開いてを見てないと駄目とか?

「私の名前はディアナと言います。ぜひ! この雌猫が! と命令してください!」
「……こ、この――、めすねこが! さっさと仕事をしないか!?」
「はいにゃ!」

 俺の言葉を聞いたディアナが乾物の入った麻袋を担ぐ。
 それにあわせるように山猫族達が協力して石で竈を作りあげて鍋を置いたあと「ご主人様、お水を頂けますか?」と話かけてきた。
 俺は生活魔法で水を出したあとエルナやリルカがどうなったのか確認のために視線を向ける。
 すると、エルナが千切るのすら困難な硬く焼いた黒パンを頬張って食べていた。
 ただ、御自慢の金髪の耳や髪は、灰色のままであった。
 どうやら、栄養が足りないらしい?
 狐族は、良く分からないな……。

「エルナ、大丈夫か?」

 俺は、干し肉が入った麻袋を担いだまま近づきエルナに話かける。
 すると、黒パンを齧ってリスのように頬を膨らませていたエルナが俺の方を空ろな眼差しでみてくる。
 まるで、ゾンビのようだ。

「に……」

 エルナが、発した最初の言葉は「に!」であった。
 その後に続くことばも容易に想像がついてしまう。
 何せ、俺が担いでいる麻袋に、空ろな眼差しは向けられていたから。

「にくううううう」

 エルナが俺に飛び掛ってきた。
 すかさずエルナの頭を掴む。
 すると、両手をぐるぐると回し始めた。
 もちろん、視線は干し肉が入った麻袋にロックオンされている。
 そして、エルナの空ろな眼差しの中に、肉のマークが存在していた。
 よほど、肉が好きなのだろうと、無理やり俺は自分で自分を納得させながら、麻袋に入っていた干し肉を数切れ取り出す。

 正直、干し肉の価格は結構する。
 だが栄養価は黒パンの十倍以上はあるだろう。
 エルナは、俺が取り出した干し肉ではなく干し肉が入った麻袋を掴むと、干し肉は飲み物! の、ごとく食べていく。
 そして、干し肉を食べれば食べるほどエルナの灰色に変化していた狐耳や狐尻尾などが金色に変化していく。

「もうお腹いっぱいでしゅ!」

 麻袋をもったままエルナは後ろから倒れこんだ。
 どうやら満足したようで何よりだったが……。
 13人で食べる一ヶ月分の干し肉を一日で食べられたのは想定外であった。




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