【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

メリア王女side

 エルダ王国の王都リーズ。

 そこは、港町カルーダから馬車で3日の距離に位置する人口10万人が暮らす城砦都市であり開拓村エルまでの距離は10日以上を要する。

 その城砦都市の赤茶色い煉瓦が敷き詰められた大通りを、遠征から戻ってきた兵士達が現在、闊歩していた。
 ただ、その足並みは重く、疲労が色濃く表情から安易に読む取れることから、かなりの強行軍だということは、市民の目からも明らかに読み取れてしまう。

 そんな兵士達に護衛されるかのように、一台の馬車は王城へ向けてゆっくりと走っていた。

「ようやく戻ってこられましたわ」

 私は、移動をしている馬車から外の光景を見ながら小さく言葉を紡ぐ。
 王都リーズの建物は、基本的に全て赤茶色の煉瓦で作られている。
 それは、平原に王都を作ったため建築資材として木材の確保が難しかったと以前に習ったことがあった。

「習わなくても分かるのですけどね……」

 まだ国民は理解していないし、エルダ王国も発表はしていない。
 ただ、ここ数年――、多くの河川の水量が減ってきている。
 そのため、食料確保が年々難しくなってきているであった。

「――それにしても……」

 私は、羊皮紙を広げて視線を落とす。
 そこには、複数人の人間から仕入れた情報が記載されている。

「神田栄治。異世界から来た人間――、無尽蔵とも言える生活魔法の発動。さらに大神官すら足元にも及ばないほどの回復魔法の使い手。私達が有しない無数の技術と知識を持っていて石鹸を作った人間……」
「どうでしょうか?」
「ええ、十分よ」
「それは、よかったです」

 私のねぎらいの言葉に目の前の淫魔に転生したリムルと呼ばれていた女性は頭を下げてきた。
 彼女の首には赤いチョーカをつけてある。
 それは、私が他国から仕入れることが出来た数少ない強力な魔物すら隷属する首輪。
 一目で見ても分からないように、形状は変えてはいるけど、その効力は健在。

 目の前のリムルという女性の姿は、人間の頃と大差がない。
 男を色々な意味で貪る淫魔は人間の姿に擬態できるのだ。
 そんな彼女には、私が用意させたメイド服を着用させている。

「リムル、分かっているわね? 貴女を拾ってあげたのは私なのですから、仕事はきちんとこなしてもらうわ」
「はい。なんなりと……」
「それにしても淫魔王の力を持った淫魔。強力な手駒を手に入れることが出来たのは大きいわね」
「それと貴女の祖父でしたか? ギルドマスターの何とかって人。彼には、貴女の罪を全て含めて死罪となってもらいます。よろしいですわね?」
「…………祖父に関しては、どこか別の大陸に行かせるというのは?」
「何を言っていますの?」

 私は首を傾げる。
 今回、エンパスの町で起きた問題は、責任の所在を曲がりなりにもハッキリとさせなければ王国としても示しがつかない。
 だと言うのに彼女は何を寝ぼけたことを言っているのか。

「いえ、そうではなく……、祖父は少なくとも多くの冒険者に顔は効きますので殺してしまうのは、もったいないと思っただけです。少なくとも神田栄治の足かせとして使えれば――」
「なるほど……。そういうことね。つまり、これから発展する可能性がある開拓村エルに冒険者ギルドを設立し、そこの責任者に据えることで神田栄治の動きを封じると?」
「……はい……」
「中々、いい案ね。それで行ってみましょう」
「私のような者の意見を聞いて頂きありがとうございます」
「気にすることはないわ。貴女……、とても素晴らしいわ。本来なら隷属の首輪は言うことを聞かせるために思考を停止させるのよ? そのことを踏まえて、今後も私に仕えることね」

「はい、もちろんです。メリア王女様の理想とする世界に私も賛同したのですから」

 彼女の言葉に私は微笑む。
 今までは、私の言葉を理解する人間はいなかった。
 だけど、彼女は違う。
 リムルは、愚民がどれだけ国を腐敗させるのかを理解している。
 最初は、国王陛下であるお父様から冒険者ギルド内で起きた賄賂や、着服の対応を命じられたときは面倒な任務だと思っていた。
 でも、彼女と出会った事は幸運であったと言える。
 
 私は、つい嬉しくなる。
 私の理想を誰かに話すことなんて無いから。 

「そうね。私の理想とする国――。それは、優れた選ばれた人間による統治」
「はい、すばらしいお考えです」
「ふふっ……、リムル。貴女にお願いがあるのだけど?」
「なんなりと――」
「お父様を殺してもらえないかしら? あれは獣人と仲良くしようとしている俗物だから王族として恥以外の何者でもないのよね? 貴女なら分かってくれると思うのだけど?」
「……よろしいのですか? 血の繋がった家族では……」

 彼女は、何か勘違いしている。

「貴女は勘違いしているようだから言っておくわね。王族というのは、歴史や血統が大事なのは確かだけどね……愚物はいらないのよ? 無能な人間に国を運営されると厄介でしょう?」

 彼女は、私の言葉に首肯すると「……わかりました」と答えてきた。
 やはり彼女は素晴らしい。
 私の理想とする世界を作るために彼女の力は役に立つ。
 使えなくなれば処分すればいい。

「――そうね……、暗殺するのは二人のお姉さまが不慮の事故で無くなられてからでいいかしら? 相次いで娘が他界したことに心痛めた王は衰弱死したとすれば、貴族たちも追及はしないと思いますし、貴女も性を補充できていいでしょう?」
「……」

 彼女は、無言で私を真っ直ぐに見てくる。

「まだ淫魔に転生したことを後悔しているのかしら?」
「――いえ……」
「よかったわ、理解してもらえなかったら、あなたを処分しないといけないところだったから。それにしても金貨を与えて開放してよかったのかしら……、ソフィアとリアやベックも処分しておいた方が、後々問題なかったのではなくて?」
「いいえ、あの者達は、神田栄治と仲が深い者です。下手に詮索されるよりかは、いまは――」
「わかったわ。平民の考えることは今一理解できないわね。平民なんていくら消費しても有象無象と補充されるものを――」
「メリア王女様、到着したようです」
「そうね、リムル。あなたの立場は私の侍女とするわ。お父様には、後ほど紹介するから分かっているわね?」
「……」

 私の言葉に彼女は頭を縦に振ってくる。
 さて、まずは獣人融和政策の撤廃をお父様に申請しないといけないわね。
 獣人なんて穢らわしい存在を生かしておくだけでも不快なのに、私の妹リリアナを嫁がせるのだから、獣人の処分は国を挙げて行わないと。

 
 


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コメント

  • ノベルバユーザー211219

    カンダエイジ、頑張っているようだけど、知らぬ間にハーレム状態なんて美味しいことばかり!、じゃないですかね

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