【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

リルカ VS リムル

「カンダさん……いいえ、私の目を見てください」
「どういう……こ……と……」

 リムルの紫色に光り輝く瞳。
 その瞳を見ていると、何か知らないが彼女がとても愛おしく思えてきてしまう。
 むしろ、その肢体を貪りたいという原始的な欲求が、心の奥底から自分の思考を塗り潰してくるのが分かる。

「リムル……、お前、一体――」
「すごいですわ、まだ意識が残っているなんて! この淫魔王の力を宿した結晶を使っているというのに……」
「まさか……お前」

 言葉が続かない。
 それよりも目の前の女性を、魅惑的な肢体を持つ彼女の体を本能赴くままに貪りたくなる。
 彼女の体に触れるだけで、体中が沸騰するような感覚が脳裏を駆け巡る。

「ふふふっ、さあ! カンダさん! 私を貪って! 快楽の果てに私の操り人形となるのよ!」

 もう彼女が何を言っているのか理解できない。
 分かっているのは、彼女の肢体を本当赴くままでに抱きたい! という本能だけ。

 ――彼女の肌に触れるか触れないかと言ったところで、突然、何かが弾けた。

 それは、致命的なまでの何かで……。
 理解する前に。
 考える前に。
 俺は……。

「ぐああああああ」

 膝が、膝が痛い!
 俺の上に圧し掛かっていたリムルを跳ね除けると自分の膝を両手で押さえながらベッドの上を転がる。
 超絶な痛みから先ほどまで感じていたリムルが狂おしいほど愛おしいという感情が木っ端微塵に! 跡形も無く消し飛ぶ!

 膝に矢を受けた傷跡! その傷後からの膝からの痛みが! ヤバイ! 

「ど、どういうことなの? 淫魔王の力を宿した結晶の……結晶の力が彼には効かないと言うの? そんな……、バカなことが……」

 リムルがショックを受けているようだが、俺としてはそれどころではない。
 ここ数日間の膝の痛みが一気に襲ってきているのだから。
 それと同時に、現状を冷静に判断している自分もいる。
 
「リムル! お前、その淫魔王の結晶が危険なモノだと知っているはずだろ! 俺達冒険者が迷宮から取ってきた危険な結晶を、王宮に提出して破壊するのも冒険者ギルドの役目だったはずだろ! 何でお前が持っているんだ!」

 俺は痛みに耐えながらもリムルへ問い掛ける。
 すると彼女は、先ほどまでの申し訳なさそうな表情から一変させ俺を睨みつけてきた。

「決まっているでしょう? そんなの私の……いいえ、すべての無能な冒険者の悲願! 高潔な冒険者ギルドを作るためよ! そのために必要なのよ!」
「どういうことだ!?」
「うるさいわね!」

 痛みのあまりベッドの上で臥せっている俺の頭を、リムルは素足で踏んでくる。

「いいこと? 私は全ての冒険者を管理して、この国を変えるの! それが私に与えられた使命なの! 天命なの! そのためには、貴方の力が必要なの!」
「国を変える? そのために冒険者と国の規約を破るっていうのか?」
「分かってないわね。私はみんなの代行者なの! 自分勝手に我侭に振舞う冒険者を崇高な考えを持った私が導いて使ってあげるのよ? 使い道のないゴミを使えるゴミにしてあげるのよ? それの何が不服なの? まったく……グローブも私を裏切って逃げ出すわ……」
「なるほど……な」

 ここまで酷いやつだとは思ってはいなかったが、やっぱり酷いやつだったか!
 まったく少しでも話を聞こうとした俺が馬鹿だった。

「――なら、リアもソフィアも無事ってことだな?」
「あら? それは残念」
「ま、まさか……」

 最悪な予感が脳裏に駆け巡る。
 リアもソフィアも、リムルとは仲が悪い。
 もし、リムルの邪魔をしていたら……。

「二人とも性奴隷として他国に売り飛ばしてあげたわ! アーハハハハッ」
「――くっ、そっ……」
「その顔よ! その顔が見たかったのよ! まぁ、本来なら私の人形にして石鹸だけを作らせても良かったのだけど……」
「なるほど……、つまり俺に事情を全て話したのは……」
「ええ、もう十分楽しんだから。淫魔王の結晶の力を最大まで引き上げて私の僕にしてあげるわ! 意識だけは残してあげるから感謝するようにね!」

 ベッドの上で蹲っている俺の髪を掴むとリムルは俺に口付けしようと顔を近づけてくる。
 聞いたことがある。
 異性問わず、口付けした対象を隷属させる力が淫魔王の結晶にはあると――。
 そのために王国からは危険物ということで指定されていて、冒険者ギルドに持ち込みがあった場合は、すぐに王宮へと届けることになっている。
 俺とリムルの唇が触れるか触れないかというところで――。
 
 ――突然、201号室に繋がっている壁が吹き飛んだ!
 
 俺とリムルは、壁が吹き飛んだ衝撃波でそれぞれベッドの上から転げ落ちた。
 もちろん、膝に矢を受けた痛みは継続中だ。

「――一体、何者!?」

 俺も同じことを思ってはいなかった。
 こんなことをする人間というか獣人には一人しか心当たりがない。

 201号室に通じる壁が粉砕され埃により室内の視界が奪われていたが、少しずつ煙が晴れていく。
 そして、壁のところに立っていたのは3つの影。
 一人は、1階に居たメイド姿の女性。
 一人はエルナ。
 最後の一人は、体中から金色のオーラを迸らせて、片手をリムルに向けているリルカであった。
 
「私の旦那様を寝取ろうとするメスはお前か!!」
「へ? 旦那様?」

 リルカの怒りの咆哮が部屋の中を満たす。
 それと同時に呆けていたリムルの顔面に、リルカのコブシが突き刺さった。





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