【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

リムルあらわる!

 どんな毎日でも、一日というのは日が昇ってから沈んで星空が見える。
 そして、朝日は一日を誰にでも均等に降り注ぐのだ。
 ――と、肉体と精神に鞭を打ちながら心の中で俺は詩人のごとく言葉を紡ぐ。

「日差しが黄色いな……」

 極度に運動をして疲労した後というのは、朝に昇る太陽の光が黄色く見えるらしい。
 そう――。
 俺も、宿の部屋窓から見える太陽の光が黄色く見えていた。

 朝焼けの太陽の日差しは、エンパスの町を静かにだが、ゆっくりと照らしていく。
 その中には、もちろん俺が泊まっているホテルも含まれる。
 日差しは窓から入ってくると、キングサイズのベッドの上で寝ている裸のリルカとエルナの白い肢体を如実に浮かび上がらせた。

「ふう……」

 俺は、木を削って作られたカップの中に生活魔法で水を作りだして注ぐと一気飲みして一息つく。
 さすがラブホテルシステムを採用しているだけあって、リルカもエルナもすごかった。
 朝まで俺を寝かせてくれなかったくらいだ。
 おかげで、塩を運んできた疲れがまったく取れない。
 
 それにリルカもエルナも若いだけあってすごかった。
 もう少し俺は年を取っていたら死んでいただろう。

「さて、少し出かけるか――」

 昨日の夜から朝方まで二人ともすごく激しかったからな。
 目を覚ますのは当分、先になるだろう。
 俺は、リルカもエルナの魅惑の肢体を見たあと、布団をかけると部屋を出た。

 念のために部屋の扉に鍵を閉めて階段を下りる。
 階段を下りてまっすぐ西方向へと通路を歩くと左手にカウンターが存在していて、カウンターには昨日の女性が座っていた。
 まだ、朝早いというのにご苦労なことだ。
 俺の姿を見た女性は、「チェックアウトですか?」と問い掛けてきたのですぐに頭を振るう。

「いや、連れが疲れていてな。もうしばらく借りることになる」
「なるほど、なるほど……それはそれは……」

 女性は茶色い瞳を俺に向けてくる。
 その瞳には好奇心という文字が書かれているように感じられてしまう。
 さらに彼女は、「どうやら、役に立ったようですね!」と親指を立ててアピールしてきた。

「余計なお世話だ」
「でも、したのですよね? いたしたのですよね? あの部屋には獣人なら思わず獣になって交尾するくらいの濃密な御香が炊いてあるのですよ! お客さんついていましたね! そんな部屋が空いていて!」
「はぁー……」

 俺は思わず大きな溜息をついた。
 
 なるほど、ようやく合点がいった。
 
 部屋の扉を閉めたあと、すぐにリルカとエルナが空ろな目をして素っ裸になった理由が。
 そして「エイジさーん」とか「カンダしゃーん」とか言って襲ってきた理由も。

「お前のおかげで俺は、朝まで求められてずっと眠れなかったんだぞ?」
「でも、おかげで良かったんですよね?」
「……」

 こいつは俺をどんな風に見ているのだろうか?
 まぁ多くの顧客を見て来たのだから、そういう男もいるかも知れない。
 だが、俺は開拓村エルの村長であり食料・衛生面や治安も考えると、とてもではないが、安定した生活をリルカに与えられるとは思っていない。
 もっと生活環境を整えて、安定した稼ぎを手に入れてから家族を作るというのは、日本人であり男の思考だとは思うが、俺は自分の考えを曲げるつもりはない。

 そう、養う余裕がないのにそういうことをしたらいけないのだ。

 おかげで昨日の夜に裸になった二人を毛布や布団でグルグル巻きにして縛るはめになった。
 そして、興奮した二人が落ち着いて寝るまで様子を見ていたら、朝になっていた。
 本当に迷惑な宿屋だ。
 今後、2度と使わないようにしよう。

「そうですか…・・・口に出来ないほど良かったと……」
「誰も、そんなことは言っていない」

 よく見れば、俺と会話している女性は20歳前後と若かった。
 紺色のワンピースの上に、フリルがついたエプロンドレスを着ているがスタイルが良いのは、服の上からでも一目で分かるし、顔つきも整っている。
 ただし、口元を手の平で隠して意味深に微笑んでいるのは査定としては大幅なマイナスだ。

「いいんですよ! やっぱり幼女は最高だぜ! ――でしたか?」
「はぁー……、もうそれでいい」

 昨日から一睡もしていない俺は疲れていたこともあり弁明することをやめた。
 どうせ、今日の夕方には宿を引き払うことになる。
 人の話を聞かなそうな奴に、詳しく話す必要など時間の無駄だ。

「リルカと……、俺の連れには市場にいくからと伝えておいてくれ。夕方には宿に戻ってくるから、それまでは自由に行動してくれとも……、頼めるか?」
「分かりました。二人ともお疲れなんですね。フフフフッ――」

 やれやれ、どうやらトンでもない宿屋に泊まってしまったようだ。
 俺は塩が入った袋を担ぐ。

 宿から出ると朝早いと言うこともあり人通りは少ない。

「まぁ、市場は朝早く開くからな……」
「カンダさん!」
「――ん?」

 宿から出て少し歩いたところで、どこかで聞いたような声色が聞こえてきた。
 振り返ると、港町カルーダの冒険者ギルドの受付嬢リムルと、新人受付嬢の女性の姿が見えた。
 リムルは、笑顔で「カンダさん! 見つかってよかったです!」と手を振ってきていた。





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