【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

青いウサギ




 ログハウスの中でゴロゴロとしていると、何だが自分がニートな気持ちになってくる。
 まぁニートな訳だが……。
 本当に、俺はこんな風にリルカに頼りきりでいいのだろうか?
 
「そういえば……、トラというのは雌が餌を運んでくると聞いたことがあるな。たしかメインの仕事は家族を守るためだと前に本で読んだことがある」
「カンダしゃんは、獣人の仕来りも知っているでしゅか?」

 何気なく呟いた言葉にエルナが反応すると、瞳の色を輝かせて俺のお腹の上に乗ってきた。
 
「お前、ずいぶん軽いな」
「狐族は、兎族と同じくらい軽いでしゅ!」
「兎族か……」

 エルナの言葉に、俺はバニーガールのような姿を想像する。
 恐らくだが、間違っていないはずだ。
 
「でも、兎族はメンドクサイでしゅ!」
「面倒くさい?」

 俺の問いかけに、エルナが「そうでしゅ! メンドクサイでしゅ! それに兎族は相手にしてあげないと、死んじゃうでしゅ! だから、兎族はメンドクサイでしゅ!」
「そ、そうなのか……」

 青いウサギかよ!
 たしかに兎族は面倒くさそうだな……。
 心の中で盛大に突っ込みを入れておく。

「そうでしゅ! でも見た目が獣人の中では、一番良いからって人間に捕まっているでしゅ! だから野良兎族は殆どいないはずでしゅ」
「なるほど……」

 そんな種族が俺の村に来たら絶対にリルカが怒りそうだ。
 あまりゴタゴタは困るからな……。
 まぁ、野良兎族は殆どいないとエルナが言っているのだ。
 今まで、獣人関係に関して外れたことをエルナの意見は正しかったし、俺の村に野良兎族が来ることはないだろう……こないよな?
 
「エイジさん、いま戻りました!」

 大きな荷物を地面に置く音が聞こえてくると同時にログハウスの扉が開く。
 そこには息を切らせて、頬を硬直させたリルカの姿があった。
 彼女は、最初は笑顔で俺に話かけてきたのに、すぐに顔色を真っ青にすると走ってきてエルナの首を掴んで俺から持ち上げると怒った口調で「エルナ! エイジさんに何をしているの!」と、叱っていた。

 まぁ、俺も血の繋がっていない異性の腹の上に乗ってくるのは、女性としてははしたないと思っていたし、リルカが怒る気持ちも分からないでもない。
 
 ――ここは、きちんと叱っておいてもらうべきだろう。
 
「リルカ、じつはな……」
「エイジさん、何でしょうか? 妹が! 何か! 問題でも起こしました! でしょうか?」

 口調は丁寧だが、眼が据わっている。
 どう見ても怒っているのが言葉の端々から分かってしまう。
 言っていいのか迷ってしまうが、エルナの教育上、心を鬼にして言った方がいいだろうな……。

「じつはな、エルナが自分のことを第二の番って言っていたんだ」
「…………そう……です……か……」
「ああ、リルカが俺の妻になるんだからエルナは義理とは言え俺の妹になるわけだろ? そういうのはな……」
「……わかりました。私の方からきちんと妹には言い聞かせておきます……」

 リルカが静かに、エルナの襟首を掴んで持ち上げたまま部屋の隅に移動する。
 よかった。
 どうやら、リルカは少しばかり常識がズレているようだが、さすがに妹が俺と関係を持つのは不味いと理解してくれたようで――。

「よく聞きなさい。エイジさんは、群れ単位での行動に慣れてないのよ? いきなり、そういう事をして嫌われたら他の獣人の子にも迷惑でしょう?」

 よくは聞こえないが、きちんと叱ってくれているようだ。
 時折「わかったでしゅ」という声が聞こえてくることから、さすが姉と言ったところか……。
 男の俺には注意し切れない部分もあるからな。

「そういえば、カンダさん。塩を取ってきましたので確認して頂けますか?」
「ああ、わかった」

 どうやら妹への注意は終わったらしいな。
 俺はリルカの後を着いて行きログハウスから出る。
 すると、目の前には麻袋10袋分――つまり400キロの塩が袋に入って置かれていた。
 6人で行ったとしても一人、70キロ近く運んだ計算になる。
 やはり獣人は力があるなと感心してしまう。

「リルカ、良く頑張ったな!」

 俺は、リルカの頭を無意識に撫でていた。

「――ハッ!?」

 思わず手を引いてしまう。
 日本で美少女に中年がこんなことをしたら即逮捕されてしまう案件だ。

「どうかしたのですか?」
「いや、別に――」

 俺の言葉にリルカは尻尾を揺らしながら機嫌良く訪ねてくる。
 さすがは異世界。
 中年には優しい世界だ。
 はじめて異世界に転移して来てよかったと思った。

「塩は、このくらいでいいから全員の家を建てようとしようか? みんな、手伝ってくれ」

 俺は、獣人の頑張りに答えるためにログハウスの建築を提案したのが「えー」という声が聞こえてきた。
 俺、何かおかしな事を言ったのか? 





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