【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

村長就任(中編)




 リルカを共だってログハウスから出ると、俺の姿を見た獣人達が立ち上がると近づいてきた。
 10人の獣人に瞳には、怒りという感情が潜んでいるようには見えない。
 何か問題行動を起こすようには思えないことから俺は内心ホッとする。

「えーっと、俺の名前は神田栄治と言う。エイジもしくはカンダと言ってくれ」

 俺の言葉に、一人の赤い長髪の女性が手を上げて「あの……」と小さな声で語りかけてきた。
 視線を向けると、女性は20歳前後と言ったところに見える。
 頭の上には猫耳がついていることからおそらくは山猫族で間違いないはずだ。

「どうかしたのか?」
「はい、リルカさんからお話は伺いましたが、私達を解放するというのは――」
「……ん? 何か問題でもあったのか?」
「いえ……態々購入された奴隷を解放されたのは何故かなと思いまして……」
「そんなことか……」

 安心した。
 てっきり、何かこちらが対応できない内容の話しを持ちかけられると思っていた。
 奴隷を解放することの説明を求められるくらいなら特に問題はない。

「そうだな――」

 俺は、如何にも何かがありそうに振舞う。
 あまりにも何も考えずに開放したと言うと何も考えていないように思われる可能性があるからだ。
 実際には衝動で奴隷を購入したから何も考えていなかったりする。
 ただ、それを察せられるわけにはいかない。

「やはり、魅力的な女性が理不尽に奴隷として扱われているというのは、あまりいい気持ちはしないからかな?」
「カンダしゃん!?」

 俺の言葉を、横で聞いていたリルカが驚くような声色で俺の名前を呼んでくる。
 さらには、かなり慌てて俺の名前を呼んだからなのか、きちんと俺の名前を言いきれていない。
 ちなみに獣人の女性たちも俺の言葉を聞いて顔を赤らめる者が多数いたが俺にとっては20歳近く年の差がある。
 俺にとっては子供みたいなものだ。
 リルカに関しては、男女の関係については少しは考えないといけないが、彼女らについては、そこまで考える必要はないだろう。

「そうですか……リルカさんの言うとおりですね」

 俺に質問をしてきた女性は、納得したように頷く。
 
「リルカからは話は聞いていると思うが、別に無理してまで、何もない村に居る必要はないぞ? 帰りたいところがあるなら食料とテントは購入してきたからな。背負い袋に必要なだけ入れて帰ればいいぞ?」

 全員に向けて、俺は告げると彼女らは全員首を横に振ってくる。
 どうやら、獣人は、かなり義理堅いようだな。
 俺なら、奴隷にされたら二度と奴隷にされないように、さっさと逃げるが物好きなのもいるものだ。

「お前たちの覚悟は分かった」

 俺は小さく溜息をつく。
 彼女らの意思が固いなら俺がとやかく言う必要はないだろう。
 あまり言っても、それは押し付けになってしまうからな。

「分かった。とりあえず開拓村エルの一人の人間として、君たちが逗留することはいいとしよう」

 俺の言葉に10人の獣人の女性が笑顔を見せてくる。
 成人女性から幼女まで様々いるが、どの子も体が汚れていて早く風呂に入ってほしい。

「とりあえずだ、まずは風呂に入ってくれ」
「お風呂ですか?」

 俺は彼女たちに頷いたあと、リルカやエルナや俺が普段入っている風呂を生活魔法で巨大化してから、「リルカ、風呂の使い方を教えてやってくれ」と伝えログハウスに戻った。
 ログハウスに入るとエルナが囲炉裏近くで横になって寝ていた。
 その表情は幼女特有のもので、とてもかわいらしい。

「さて、人数分の食事でも作るとするか……」

 俺は部屋に置かれていた食料を選び獣人達が風呂から出てくる前に食事を作り終えることを目的に料理を始めた。

 




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