【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

村長就任(前編)




「どうやって奴隷になるかでしゅか?」
「ああ、それで購入した奴隷が、どういう風に扱われていたのかが分かるだろ?」
「……それは、獣人ならたぶん大丈夫でしゅ」
「――ん? どういう……」
「カンダしゃん! ――は、話が終わったみたいでしゅ!」
「もう終わったのか?」
 
 エルナの言葉に俺は外を見る。
 外では、リルカが獣人と会話をしていてまだ終わってはいない。

「エルナ、まだ話は終わって――ん? エルナ?」

 部屋の中を見渡すと同時に、外に通じる扉が閉まるのが見えた。

「何か急用でも思いついたのか?」

 俺は首を傾げながら外を見る。
 すると、エルナが小走りでリルカの元へと近づくと何やら話しをしていた。
 獣人なら聞こえる範囲なのかも知れないが、俺にはリルカとエルナが何を話しているのか聞き取ることが出来ない。

「どうするか……」

 エルナが言っていた話が終わったという意味が分からない。
 おそらくだが、エルナが出て行っても問題ないくらいに話が終わったという意味だろう。
 問題は、俺が出て行っていいかどうかだが――。

「判断がつかないな……」

 下手に俺が出ていってややこしくなっても仕方ない。
 とりあえず、しばらくこのまま待機しておくのがベストだろう。
 どうせ説明が終われば俺を呼びにくるはずだからな。

 俺はジッと丸太の窓に両手を置いたまま、リルカと獣人達の会話が終わるのを待つ。
 1時間が経過して2時間が経過して――。

「一体、何時終わるんだ?」

 時折、俺のほうを獣人の女性たちがチラチラと見てくる。
 おそらくだが……ここからは俺の妄想だ。
 きっと彼女らは「あそこに人間がいるわ! 私達を奴隷にした人間の! キーッ」とか思っているに違いない。
 なるほど……。
 そう考えると全ての辻褄が合うな。

 とくに20歳を超えていると思われる4人の猫耳と犬耳の獣人なんて頬を赤く染めて、潤んだ瞳で俺を見てきている。
 あれは間違いなく、「くっ! この人間の雄め! よくも辱めてくれたにゃん!」とか思っているに違いない。
 ――って、にゃんって何だよ……。
 そんな言葉使いをしたら間違いなく黒歴史になっちまうだろ。
 とりあえず、心の中で呟くだけにしておく。
 誰かに聞かれでもしたら、中年の癖にとかでも言われたら社会的に死んでしまう。

「はぁ……、まぁ、見ている限りエルナとリルカには被害はいかなそうだな。それに、どうやら……獣人の奴隷は俺の方に興味があるようだ。おそらく人族が嫌いなんだろう。耳まで真っ赤にして、俺を見てきているからな。やれやれ、どうやらリルカの説得は時間がかかるようだ」

 俺は溜息交じりに床に座りこんで壁に背中を預ける。
 それと同時に急速に眠気が襲ってきた。
 どうやら、思っていたよりも疲れているみたいに感じられる。

 何というか――、あれだ、寝ても疲れが取れていないという感じだ。
 おそらく膝から受けた痛みが思ったよりも酷くて体が睡眠を欲している。

「とりあえず……リルカに任せるか――」

 俺は床の上に寝そべると瞼を閉じた。



「カンダさん、カンダさん」

 鈴の音を鳴らすような美声が聞こえてくる。
 ゆっくりと瞼を開けると、頭の下には柔らかい感触が――。
 頭を少し動かして上を見ると二つの膨らみが見えて、その上に彼女――リルカの可愛らしい顔が見えた。

「ひざまくらか……」

 彼女にやってもらいたいランキングなら、上位に入る膝枕。
 現在、俺はリルカに膝枕をされていた。
 俺の言葉を聞いたリルカが首を傾げながら「ひざまくらってなんですか?」と答えてきた。
 なんということだ。
 どうやら、異世界には膝枕という文化はないらしい。
 これは、文化的損失ではないだろうか?
 きちんと伝えて、膝枕ブームを巻き起こさないといけないかもしれないという馬鹿なことを一瞬考えてしまった。

「もう、奴隷――彼女達には説明は終わったのか?」
「はい」
「そうか……、それで彼女達は?」
「外で、カンダさんが来るのをまっています」
「なるほど……」
 
 俺は、内心で小さな溜息をつく。
 どうやら、俺から直接的に話しを聞きたいらしいな。
 本来なら、開拓村エルの住民が増えるのは望む展開なのだが、無理矢理に住民にしてもいい事は無いし何より意識を奪われていた彼女達に、村人になってもらうように強要するのも良くない。
 それに塩の売買もリックがいるから、定期的な稼ぎにはなるはずだ。
 まぁ、次も購入してくれるかどうかは分からないが。

「リルカ」
「はい?」
「食料と衣服、テントは彼女らの分も購入しておいたから、彼女達には人間が嫌いなのは分かるが、なるべくでいいから人間には危害を加えないように立ち去ってくれるように伝えてくれないか?」
「――え?」
「人間である俺が、彼女達の前に顔を出すのは、よく無いだろう?」
「……大丈夫です。きちんと説明しましたから! それに、彼女達は救ってくれた恩を返したいからと、ここに残るそうです」
「……そう……なのか? 復讐とか考えたりしていないのか?」
「カンダさんは、獣人をどんな目で見ているのですか? すぐに復讐に走るのは一部の獣人だけです。私を見てください。集落で問題があっても復讐には走ってないですよね? 獣人は、そんなに短絡的には動かないのです」
「……」

 リルカの言葉が信じられない。
 俺だったら奴隷にされて意識を奪われたら、その種族を許すことはないと思うが……思ったよりも獣人達は、理性のある種族なのかもしれない。
 問題は発情期の獣人だけってことか……。
 
「カンダさん、何か言いたそうです」
「気のせいだ。さて、獣人が残るというなら話をしておかないといけないだろうな」

 俺は、追及されることを避けるために起き上がりログハウスの外へ出た。




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