【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

責任(前編)




「エルナ、どういうことだ?」

 俺はログハウスの外に出ると、リルカの妹の頭を掴んで話しかける。

「どういうことって――、カンダしゃん、エルナおねえちゃんにプロポーズしたの」
「なん……だと……」

 エルナの言葉に動揺しながら口に手を当てて考える。
 そんな話は一切、無かったと思うのだが……。
 
「カンダしゃんが、俺が愛したいと思うのは一人だけだからなって言ってたでしゅ」
「――言ったが……、それは……奴隷は、そういう対象では見ないと言っただけで――」
「そのあと、おねえちゃんは異種族の女性はと問いかけていたでしゅ」
「たしかに……、ただ、俺は異種族だから偏見が無いと言っただけで……」
「そのあと、一人の女性としてって聞いたときに大切で守ってあげたいって言ったでしゅ!」
「……いあ、それは――」
「獣人は、群れを作って動くでしゅ! その時に雌を守るのは男の役目でしゅ! 大切で守ってあげたいということは群れのリーダーとして俺の番になれって意味でしゅ!」
「……なん……だ……と……!?」

 ――つまり……。

「相手が決まればいつでも出来るって意味は……」
「番になれば、いつでも発情を発散できるでしゅ! 無理に襲わなくても良くなったと心に余裕ができたからカンダしゃんが触っても大丈夫になったでしゅ!」
「そ、そうか……」
「ところで――リルカ、どうして俺が群れのリーダーになっているんだ?」
「それは食料をとってくるのが群れのリーダーの役目だからでしゅ! カンダしゃんは、私やお姉ちゃんに、ご飯をくれていたから――」
「つまり、俺に協力的だったのも……」
「そうでしゅ! でも、誰でもいいわけではないでしゅ!」
「なるほど……」
「ちなみにプロボーズは勘違いでしたと言ったら……」
「群れの雄――リーダーから捨てられた雌は命を絶つのが獣人の規則でしゅ!」
「……わかった。エルナ、ありがとう」
「はいでしゅ! おねえちゃんには黙っておくでしゅ? 干し肉でしゅ?」
「――お、おう……。あとで干し肉をやる」
「商談成立でしゅ!」
 
 ちゃっかりしているな……。
 それよりも、どうしたものか。

 俺はリルカの方をチラリと見ると、彼女は不安な表情で俺の方を見てきていた。
 心の中で溜息をつきつつ、今後の対応について頭を抱える。
 自分が、もう40歳近いというのに高校生くらいの女性を婚姻相手にするのは、問題だろう。
 論理的に――。
 ただ、命を絶つと言われるとな……。

「仕方ない――」

 自分が言った言葉だ。
 責任を持つことも重要だろう。
 どうせ、俺を好いてくれる異性なんて居るわけがないからな。
 棚からボタ餅――、いや猫から小判――、いや豚に真珠か?
 俺にとって超絶美少女のリルカは、もったいないと思うが、ここは大人として責任を取るべきあろう。

「リルカ。どうかしたのか?」
「妹との会話が断片的でしたが聞こえましたので――、もしかしてカンダさんは、私みたいな女性は嫌いですか?」
「そんな事ないぞ? 番の話だよな?」
「――は、はい……」

 俺の言葉に、リルカが耳まで真っ赤にして頷いてくる。
 やはりエルナの話には信憑性がありそうだ。
 そうすると、やっぱり勘違いでしたという話はしないほうがいいな――。

「自分の言った事には、きちんと責任は取るから安心してくれ」

 俺はリルカの頭を撫でながら話かける。
 俺は、鈍感系主人公とは違うのだ。
 まぁ俺は物語の主人公ではないが、きちんと対応はとろう。

「リルカ、お前に一つ聞いておきたいことがあるんだが――」
「――は、はい! なんでしょうか?」
「俺は、もうすぐ40歳なんだが……俺みたいのでもいいのか?」
「はい! 獣人は200歳までは生きられますので!」

 ――ん? 何だか話しが噛みあわない気がするんだが……。
 まぁいいか――。

 そこで俺は、ようやくおかしなことに気がついた。

「リルカ、どうして購入してきた獣人がずっと立ったままなんだ?」
「意識が封印されたままの奴隷は、最初の主が決めた状態で待機するのです。おそらく、最初の主人が直立不動と言うことにしたのかも知れません」
「なるほど……」

 奴隷達は空ろな眼差しのまま、ずっと立っていたのだろう。
 足が震えているのが見て取れる。

「リルカ、俺はどのくらい寝ていたんだ?」
「――え? えっと……」
「日が沈んで日が昇るくらいでしゅ!」

 リルカの代わりにエルナが答えてきた。
 俺は空を見上げる。
 昨日、帰った時と同じくらいまで、空の日は昇ってきているのが分かる。
 つまり、俺は丸一日寝ていたということだ。
 
「もしかして一日、ずっと立ったままだったのか?」
「ごめんなさい! 私、カンダさんが倒れたことに動転してしまって……それに、カンダさんしか命令が出来ないので――」
「そうだったのか……」

 ベックは何も言っていなかったからな。
 もっと詳しく聞いておけばよかった。

「それで、奴隷の解放の仕方は分かるのか?」
「はい。奴隷は、首に奴隷の首輪をつけているので、それを外したあとに【開放】と告げれば、それで奴隷から開放されますが、まずは奴隷の首輪を外すだけにしておいてください」
「なるほど……、それじゃ3人で手分けして外すとするか――」
「それは無理です。カンダさんが――ご主人様として登録された人しか、首輪を外すことは出来ないのです」
「そうな……のか? いや、たしか……誰でも外せたら奴隷として成り立たないか……」

 俺は一個ずつ奴隷の首輪を外していく。
 外していくと言っても、地球でいうところの犬の首輪のようなものだから、外すのは訳ない。
 問題は、犬の首輪のような物が拘束力あるほうが不思議でならない。
 全員の首輪を外したところで、リルカが近づいてくると「カンダさん、奴隷の首輪を外したら【解放】と告げれば、それで奴隷から開放されますが、先ほどお伝えしたとおり、もしかしたら不測の事態になるかもしれませんので、一度、少し離れていてください」と話かけてきた。




「【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く