【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

矢を受けた膝が痛んでな。




「――ようやく……たどりつい……たな――」

 開拓村エルに到着し、ログハウスが見えてきたところで俺は溜息混じりに言葉を紡ぐ。

 ――エンパスの町を出て野営をした翌日、俺は膝の痛みから目を覚ました
 そのあとは、痛みが治まらず少しずつ酷くなったのだ。
 今では、歩くのも辛い。
 奴隷に体を支えてもらって、ようやく歩けている。

 そんな時、ログハウスの扉が、開くと中からリルカとエルナが出てきた。
 二人とも俺の姿を見ると走ってくる。

「カンダさん! 大丈夫ですか? カンダさんの匂いがしたので……って!? 彼女達は!?」

 俺を支えていた奴隷を見て女だと気がつくとリルカが俺に詰め寄ってきた。

「ああ、彼女達は――くっ!?」

 矢を受けた膝の痛みが、より一層酷くなり奴隷に支えられていたが、俺はその場に膝をつく。
 
「くううううう」

 やばい!
 膝が痛いのに、膝から地面に膝を着いたら本末転倒だ!
 すごく痛い。

「カンダさん、しっかりしてください!」
「だ、だいじ……ぶ……」

 あまりの痛みから俺は意識を失った。
 
 
 
 ピチャピチャと水音が聞こえてくる。
 ゆっくりと体が軽くなっていくことを感じるたびに、意識がハッキリとしてくる。
 
「リ……ルカ……か?」
「大丈夫ですか? カンダさん」
「ああ、もう大丈夫だ――」

 膝を舐めているリルカの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに狐耳を動かすと、膝に這わせていた舌で自分の唇と舐めたあと「ごめんなさい」と語りかけてきた。

「どうして、謝る必要があるんだ?」

 俺の言葉にリルカは、耳を伏せる。

「カンダさんが、エンパスの宿場町に行って帰ってくるまでの時間計算を間違っていたから――」
「そうなのか……」
「はい、だから……ごめんなさい」
「気にすることはないよ。ひさしぶりに膝の痛みを気にせず歩けたからな。それにしても痛みが一気に来るとは聞いていたけど、気を失うほどとは……」
「私が、しっかりと……」
「ほら! だから、いいから!」 
 
 顔を伏せて泣いているのか涙声で語りかけてくるリルカを抱きしめる。
 こういう時には、スキンシップを取って相手を落ち着かせるのがいいだろう。

「――か、カンダさん!?」

 顔を真っ赤にして、瞳を潤ませたリルカが、俺に近寄ってくる。
 しまった!?
 リルカは発情期だった。

「エルナ!」
「干し肉でしゅ!」

 俺の言葉を聞いたと同時にエルナがリルカの尻尾を握った。



 リルカを正気に戻して、膝の痛みも無くなったところで――。

「あ、奴隷を忘れていた」
「――あ、カンダさん! あれは……彼女達は、奴隷なのですか?」
「ああ、奴隷商人の扱いが酷かったから購入してきたんだが――」
「まさか! 彼女達とするつもりですか!?」

 ログハウス内の囲炉裏近くに座っている俺にリルカが尋ねてきた。

「いや、そうじゃなくて――、きちんと開放するつもりだけど?」
「そうなのですか?」
「ああ、俺は奴隷制度とか好きじゃない」
「よかった……カンダさんが、そういう人じゃなくて……」

 そういう人って……。
 そんなに俺は女に飢えているように見えるのか? 
 
「リルカ、安心してくれ。俺が愛したいと思うのは一人だけだからな」 
「――え? それって……」

 俺の言葉に、リルカが耳まで顔を真っ赤にすると後ろを向いてしまう。
 何かあったのだろうか?
 
「カンダさんは……異種族の女性は、どう思っていますか?」
「――ん? どう思っているかって……」

 そりゃリルカもエルナも可愛いからな。
 40歳近い男から見たら娘みたいなものだ。
 酷い目に合っていたら守ってあげたくなるのが人情だろう。

「そうだな、とても大切な人だな」
「――そ、それって!? 女として大切だと? 一人の男性として私を見たときに! 一人の女性として見て守ってあげたいと思っているってことですか?」

 何か知らないが、ずいぶんとテンションを上げて問いかけてくる。
 そんな彼女に俺は肩を竦めて「何を言っているんだ?」と答えた。
 すると彼女は小さく体を震わせると「カンダさんは……私を守ってくれないのですか……?」と呟いてくる。

「リルカ、よく聞けよ? お前は、とても可愛い。そして40歳間近の俺から見たらお前は、とても眩しく映る」

 そう、その若々しさが、とても眩しい。
 
「だからこそ! とても大切で守ってあげたいと思っている」

 そう、俺から見たらリルカもエルナも子供だ。
 そして子供を守るのも大人の役目だ。

 リルカが後ろを向いたまま、床に敷いていた毛皮を弄りながら「そ……そうですか――」と答えてきた。
 
「カンダしゃん、今日からはカンダしゃんは、エルナのおにいしゃんなの!」
「――ん? どうしてだ?」

 エルナは俺の問いかけに答えずにログハウスの外に出ていった。

「カンダさん、私達も奴隷解放のためにいきましょう」

 リルカが俺の腕を両手で掴むとログハウスの外へと誘ってきた。
 あれ? 俺に触っても発情期にならない?

「なあ、リルカ――もう、大丈夫なのか?」
「はい! もう大丈夫です! 相手が決まればいつでも出来るので!」

 リルカが何を言っているのか良く分からないな。

 
 

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