【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

奴隷商人。




「思ったより早くついたな」

 開拓村エルを出てから1日少しで宿場町エンバスが見えてきた。
 2日ほど掛かると思っていたが、思ったより疲れなかったから夜通し歩き通した。
 膝が痛まないのが素晴らしい。
 もしかしたら膝を痛めている間に、俺は新たなる歩法を手にいれ! ……それはないな……。
 そんな物語の主人公みたいな補正がついていたら、転生したらハーレムパーティを形勢していただろうし、膝に矢を受けて辺境開拓の仕事を請けることもなかったはずだ。
 
「しかし、宿場町か……」

 俺は、数日前にここを通ったときに、道先案内人のアンガスからある程度の話を聞いていた。
 宿場町エンバスは、新興の開拓村であり人口は2000人ほどだと。
 まぁ、いまの新興開拓村は俺とキツネ姉妹の3人が暮らしているエルと言うことになるんだろうが、村人が3人しかいない村を果たして村と言っていいのか……。

 ちなみに宿場町エンバスは、周囲の丸太を積み上げて作られた壁で覆われている。
 外敵つまり魔物が攻めてきたときは丸太壁が防壁となる仕組みだ。
 ただ魔物相手だと、ほとんど時間稼ぎにならないのが問題だな。
 そしてエンバスの入り口には兵士が2人立っている。
 そのうちの一人が近づいてきた俺に語り掛けてきた。

「お前は、たしか……カンダだったか?」
「ああ、俺はカンダだが俺のことを知っているのか?」
「もちろんだ。開拓村エルの村長になるかも知れない男の顔くらいは覚えておかないと門番として失格だからな」
「ちょっと、待て!」
「――ん? どうしたんだ?」
「どうして俺は、開拓村の村長になると思っていたんだ?」
「いや、だって……ほら、お前――何も聞いていないのか?」
「ああ、出来れば詳しく教えてほしいんだが?」

 そこで俺は男の容姿にようやく目を向けた。
 男は西洋風の顔つきをしていて、髪は茶髪の青い瞳――、身長は170近い俺よりも少し高いくらい、年齢は20歳前半といったところだろう。
 そんな男が、もう一人の兵士に視線を向けていた。
 どうやら、開拓村エルには何かがあるようだな。
 アンガスが即効逃げたことといい、きちんとした説明や情報がほしいところだ。
 
 しばらく年配の男が頷くのをみると俺を見てきた。

「カンダ、日が沈んで門が閉まったら一杯どうだ? 再会の記念ってことで」
「――!」

 これは……隠語か?
 俺は周辺に意識を張り巡らせることはせず自然体を維持することを心がける。
 おそらくだが、俺達の話しは盗聴されている可能性があるからだ。
 そうじゃないと、二人の兵士の話しの持って行き方が不自然すぎる。

「分かった。どこで待ち合わせをする?」
「そうだな……【酒場ロリっこ】でどうだ?」
「酷い名前の酒場だな――」
「そうか?」

 よくは知らないが、この世界は日本語が通じるし公用語が日本語だ。
 まぁ、漢字が使われていないから、ひらがなとカタカナだけだが……。
 もしかしたら日本や地球と繋がりがあるのではと思って、一時調べたことがあったが、魔法なんてある 非常識な世界が、地球の延長線上とは、とても思えないことから初日で断念したことがある。
 もちろん、そのあとも継続して調べたが、日本国という名前は出てこなかった。
 色々と謎の多い世界だ。

「分かった。その酒場で集合するとしよう」

 俺は、門番の許可を得て村の中に入る。
 すると何人もの人間が俺を見ていたことに気がついた。
 すぐに生活魔法である観察を発動させる。
 
「……なるほど――」

 何人もの町人が聞き耳――つまり聴覚拡大の魔法を使っていた。
 恐らくだが、開拓村エルには何かあるのだろう。
 それを知られたくないから情報統制としている言ったところか?
 しかしな……。
 村というのは人口が増えなければ意味が無いと言うのに、情報統制や情報規制をして何を考えているのか……。

 もしかしたら――。
 獣人を追っている貴族と繋がりがあるのかも知れないが、今は放置しておいたほうが無難だろう。
 それに、余計なことをしなければ向こうから関わってくることも少なそうだしな。

「おい! そこの冒険者! ちょっと面を貸してもらおうか?」
「それにしても、エンバスの町並みは何というか……幌馬車に乗って移動していたときは気がつかなかったが、田舎だな……」
 
 道は未舗装のままだし、大きめの石は取り除かれているが、あとは踏み固められただけの道だ。
 それに家々も両端に建っているが、全て木造であり窓ガラスすら使われていない。
 一応、開き扉式の窓は採用されているが、それだけだ。
 
「お前! 俺の話しを聞いているのか!」

 ただ、町の通りには、それなりに人が歩いており俺の方をチラチラ見てくる。
 こんな中年を見ていて何が楽しいのか……。

「無視するなよ! お前だよ! お前!」
「何かようか?」

 俺は振り返り男を見る。
 太った体型に首から下げている符丁といい、見るから商人と言った風貌だ。

「お前は、開拓村エルの村長なのだろう?」
「まぁ、そういうことになったみたいだな」
「開拓村エルには、お前しかいないんだろ?」
「……そうだな――。で、何か俺に用事なのか?」
「ああ、奴隷を買わないか?」
「奴隷?」

 こいつ奴隷商人だったのか?

  



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