【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

ぺろぺろ。




 ログハウスの中、囲炉裏を囲んで寝ていると朝を告げる早朝鳥の囀りが聞こえてきた。
 
 エルリダ大陸には、多く分けて2つの魔物が存在する。
 
 一つは害獣と呼ばれる人を襲う魔物。
 もう一つは、人の役に立つ魔物。

 日が昇ると同時に、朝を告げるために囀る鳥は早朝鳥と呼ばれていてエルダ王国内の王都を始めとして、多くの宿場町や村などでも飼われている。

 テントとは違って、ログハウスの中は囲炉裏からの火の熱で適度に暖められていて寝ていて心地いい。
 俺はまどろみの中、「……んっ――」と言いながら寝返りを打つ。

 これなら冬が来ても何とか生きていくことは出来るだろう。
 それよりも、さっきから水が滴り落ちるような……ピチャピチャという音が聞こえてくる。
 今日は、雨か何か降っているのだろうか?
 よく考えたら、ログハウスを作ったのはいいが屋根には隙間がある。
 今度、粘土でも掘ってきて埋めないとダメだな。
 俺は、小さく欠伸をしながら目を開ける。
 すると目の前には左右に揺れている銀色の尻尾が――。

「……」
 
 ――ま、まま、待てよ?
 一体! 何が! どうなって! いる!?

 俺は目を閉じる。
 そして、たった今! 起きている事実だけを頭の中で整理していく。

 何を言っているか分からないと思うが、朝、目を覚ましたら目の前には銀色の尻尾が存在していた。
 そしてリルカは俺の上に乗っかってきて屈んで必死に、俺のモノを舐めている。
 時折、ビクッ! と体が動いてしまうのは生物としては仕方が無い!

「リルカ、お前は俺の上に乗って何をしているんだ?」
「カンダさん、起きたのですね?」

 これ以上、状況確認という描写を考えていると色々と問題になる可能性もあったので、俺は彼女に問いかけた。

「じつはですね、ぺろぺろ――」
「――うっ!」
「カンダさんは、今日から近くの町に一人で行かれるのですよね? ぺろぺろぺろ」
「だから、それで何で……舐めているんだ? そこは敏感なんだ……」
「くすっ、カンダさんの弱いところを発見です」

 朝、起きてからというもの、ずっとリルカに主導権を握られたままだ。
 俺の敏感な場所を舐められていて、強い刺激から彼女に強く言えないのも問題だろう。

「いあ、弱いって言っても……、そこは矢を受けた膝だから……ずっと痛みがあったから、舐められるだけでも過剰に反応――くっ!」
「ふふっ――」
「リルカ、また発情しているのか?」

 俺の言葉に彼女は、瞳の奥に一瞬黒い影を見せたあと、「違います、そろそろヒーリング効果が切れますから……それと町まで行かれるのですから、多めにペロペロしているだけです。途中で効果が切れると今までの痛みが一気に襲ってきますので……」と語りかけてきた。

「――え!?」
「ヒーリングペロペロは、痛みを一時的に無くすことは出来ます。――でも……その痛みは蓄積していくのです」
「――なにそれ怖い!?」

 それって、蓄積しまくってヒーリング効果が切れたら一気にダメージというか痛みが来るってことだよな?
 下手したら痛みで俺、死んじゃうんじゃね? 

「大丈夫です! 安心してください! 私が、ずっとカンダさんと居ますから! そうすればずっと痛みを感じずに暮らしていけますから!」
「……」

 なんと言うか、いいのだろうか?
 このままではリルカに主導権を握られた状態になってしまうような気がしないでもないんだが――。

 するとリルカが、小さく何かを呟いている。
 俺には超人的な肉体や五感があるわけでもないから聞き取れない。
 辛うじて聞き取れた言葉の断片は、「私の匂いを……けば、他の雌も近づいて……きま……」くらいだ。
 何か男を狙う魔物か何かがいるのだろう。

 スライムやローパーは女を狙うが、オークやそのへんの魔物は男を狙う。

 以前、オークが男を狙うなど知らなかった俺、リア、ソフィアの3人組はオーク討伐を受けたことがある。
 リアとソフィアが受注しにいき、俺が旅の支度のため市場に買出しにいっていたこともあり、冒険者ギルドの受付嬢は女性だけが依頼を受けると思って許可を出した。

 ちなみにオークという種族は雌しか存在しない。

 何故かは知らないが、偉い冒険者の話によると雌オークはすごいらしく雄オークは色々あって絶滅したらしい。
 ただ、生物は種族繁栄のために生きている。
 そして、オークの雌は人間の男を襲うようになった。
 女性に対しては完全スルー。
 攻撃をされたら反撃するくらいだ。

 ちなみに俺は、オーク雌に追いかけられた。
 捕まったら、色々な意味で社会的に死んでしまう。
 荷物を捨てて逃げて逃げて、その間にリアとソフィアが一匹ずつ倒して行って夕方になる前にはオーク討伐依頼を何とか終わらせることが出来た。

「ほ、他の女が襲ってくる可能性があるのか――」

 いやな思い出がフラッシュバックするように脳裏に浮かび上がってくる。
 今回は、リアもソフィアもいない。
 助かる可能性は非常に低いだろう。
 本当、恐ろしいファンタジー世界だ。

「分かった。遠慮なくペロペロしてくれ!」
「はい!」

 俺の言葉にリルカが嬉しそうな表情を向けてきたが、俺としてはオークには出会わないことだけを心の中で祈った。



 それから1時間後、俺は最も近い宿場町エンバスに向かって痛みが取れた膝を軽く擦ったあと、歩きだした。
 背中には塩を30キロほど担いでいるから2日ほどで到着するだろう。





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