【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
獣人。
朝食の準備をしていると、丸太の上に敷いていた毛皮の上をリルカの妹エルナが意識もないのに、もそもそと這ってくると胡坐をかいている俺の膝の上に乗ってきた。
どうやら朝食の匂いに吊られてきたようだが、俺の膝の上が暖かいと思ったのだろう。
そのまま寝てしまった。
そんなエルナを見ているリルカは、「カンダさん、申し訳ありません」と頭を下げてきた。
別に俺としては、子供は嫌いなほうではない。
むしろ好きな部類だ。
「別にいい。減るものではないからな」
「そ、そうですか――」
まぁ、多少は体重が掛かるから膝に負担がくるのだが、そこまで重くはないから問題はない……と、思いたい。
「さてと、あとは塩で調整するだけだな」
本当は味噌とあればいいんだが、俺が転移して10年は探したが見つからなかったからな。
やはり日本人としては、米、醤油、味噌は欲しいところだ。
この世界の料理の基本的な味は、塩と胡椒だからな。
レパートリーが無さ過ぎる。
「よし、完成だ!」
「器の用意はできました!」
俺は、リルカが差し出してきた器に3人分のスープを注ぐ。
その間に、麻袋の中からリルカが黒パンと干し肉を取り出すと木の皿の上に盛っていく。
まぁ、ただ単に載せているだけともいうが、細かいことはいいのだ。
「エルナ、ご飯だぞ!」
俺は、キツネ族の金髪幼女エルナの頭の上に手を置くと撫でながら声をかける。
エルナの毛並も、ここ数日、毎日お風呂に入っているから艶もよく肌触りもいい。
それに、頭の上についている2つのキツネ耳も、硬い部分と柔らかい部分があり、微妙でいて、ずっと触っていたくなるような、不思議な感触だ。
「うーっ……ご飯にゃの?」
「そうだぞ、朝食だ」
「はーい」
寝ぼけた声で、まだ眠いのか瞼を一生懸命開けながら身体を伸ばすと、俺の膝の上にちょこんと座ってきた。
さっきまでは横になっていたから体重が分散されていたが座られると困る。
膝に、体重が一極集中してしまう。
おかげで矢を受けた膝が痛い。
「こら! 行儀が悪いわよ!」
リルカが、俺の膝の上に座っていたエルナを両脇から抱きかかえるように剥がす。
すると、エルナが「ふしゃー」と、小さく叫びながら尻尾をブンブンと振っていた。
たぶん、怒っているのか?
キツネ族というか獣人の感情の読み取り方が良く分からん。
すると俺が見ている前でリルカがエルナ首元を軽く噛んでいた。
すぐにエルナが「ふにゅあー」と、言いながら全身から力が抜けたように毛皮の上に倒れてしまった。
「えーと、何をしているんだ?」
俺の問いかけにリルカが、首を傾げながら「力や威嚇をしてきた目下の物に、礼儀を教える躾みたいな物です」と答えてきた。
言っている意味は分かるんだが……。
たしか親犬は言うことを聞かない子犬の首を噛んで躾すると聞いたことがある。
ただ、人と同じ姿をした獣人が、目の前でそれをすると目のやり場に困るんだが……。
どうやら、気にしているのは俺だけのようだからな。問題はないか……。
「お姉ちゃん、おはようでしゅ」
ようやく目が覚めたのか、エルナがリルカに挨拶をしていたが、倒れているエルナの頭をリルカが押さえつけると「エルナ、無闇に威嚇することは獣と同じですよ? 今度から気をつけなさい!」と、リルカが、怒鳴っていた。
俺からしたら――。
いや、二人とも獣人だろ? という突っ込みをしたかったのだが、そんなことを言ったら確定で、火の粉が飛んでくるだろう。
俺は無言で、リルカがエルナに獣人というのは誇り高い、獣とは違う種族! という話をエルナにしているのを見ながら、心の中で小さく溜息をついた。
食事が終わったのは2時間後。
実に1時間もリルカの怒りは収まっていなかった。
普段は怒るような女の子ではない。
今度から、怒らせないようにしように注意しておこう。
「それじゃ板を運んでくれ」
「はい!」
「はいでしゅ!」
俺の命令に二人は、加工した板の両端を持って持ち上げるとログハウスの中へと持ち運んでいく。
俺は床に敷いていた毛皮を回収しながら丸太の上に並べられていく板を、釘を使い丸太に固定していく。
全ての床板を貼り付け終わったあとは毛皮を床板の上に並べていき完成だ。
――作業が終わったころにはお昼時。
朝食と同じ内容の食事を摂った後、麻袋の中身を全部床の上に置く。
「カンダさん、この中身の入っていない袋を持っていけばいいのですか?」
「ああ、リルカとエルナは手分けして持ってくれ」
俺の言葉に頷いたリルカとエルナは、2つずつ麻袋を持つとログハウスの外に出る、
膝が痛い俺は、日本刀を背中に括り付けると、彼女達のあとに建物の外へ出た。
「リルカ。それじゃ、湖まで案内してくれるか?」
「わかりました。人族には、少し距離があると思いますので頑張りましょう!」
リルカは、ニコリと俺に微笑んで来たが俺としては嫌な予感しかしなかった。
何故なら、膝が痛いからだ。
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柴衛門
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