【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

膝に矢を受けてしまってな。




 前衛を続けていること、数年が経過したある日、俺達はダンジョン内で宝箱を見つけた。
 そこには、リアやソフィアには見慣れない物。
 ただ、俺には故郷を思い起こさせる日本刀入っていた。
 基本的に日本人の筋肉と言うのは、押す力よりも引く力に特化していると科学的に証明されている。
 日本刀は俺にとって最適な武器であった。
 俺の戦力が劇的に変わったわけではないが、多少は攻撃力が上がりダンジョンに入った際の稼ぎも増えた。
 回復を使い戦う騎士が聖騎士であるなら、さしずめ俺は侍神官と言うところだろう。
 ただ、俺は忘れていた。
 冒険者というのは危険と隣り合わせの職業だということを……。
 


 考え込んでいると「カンダさん、少しよろしいですか?」と、先ほどの新人とは違う妙齢の女性が俺に話し掛けてきた。
 その女性には見覚えがある。
 俺とは、あまり仲が良くない女だ。

「リムルか、さっきの子は?」
「あの子は昨日、冒険者ギルドに入った新人。それより――」

 リルムは、カウンターの上に一枚の用紙を置いてきた。
 俺は提示された仕事を見て、眉を顰める。

「エルダ王国辺境村での開拓民募集?」

 俺の問いかけに「はい。いまのカンダさんに任せられる仕事はありません。ですので、これなど、どうですか?」とリムルは、眉一つ動かさず言葉を紡いできた

 俺は肩を竦めながら「一つ聞きたい。どうして、俺には任せられる仕事は無いと言った?」
と、リムルに声を問いかける。

「あら? 貴方のお仲間のグローブさんが言いふらしていたけど?」
「……」

 あの野郎――。
 アイツが、ダンジョンの罠解除をミスらなければ、俺が膝に矢を受けることも無かったのに……。

「聞いていますよ? 走れないということを。そんな方に回せる仕事があるとでも?」

 どうやら、以前のことを根に持っているようだ。
リムルは、少し前に不正をした。
 簡単に言えば、クエストの依頼料の一部を懐に入れていたのだ。
 ただ、ギルドマスターの血縁とかで一度だけだったからと不問にされていたが、俺は指摘した。
 何せ、何十人もの冒険者の依頼料が計算と会ってないからだ。
 ただ、この世界の識字率はとても低い。

 結局、問題を提訴することは出来た。
 だが、冒険者ギルドマスターが裏金でも蒔いたのだろう。
 証人であるはずの被害者の冒険者たちは、一斉に口を閉ざした。
 おかげでリムルは、いまだに冒険者ギルドに在籍している。
 今回、俺が、冒険者が出来なくなったのは、この女にとって仕返しをする絶好の機会だったのだろうな。

 考え込んでいると、後ろから「カンダの旦那、無理はいけませんぜ?」と男が話し掛けてきた。

「グローブか……、何の用だ?」

 俺は、同じパーティに所属している男に話かける。
 何の用で俺に話かけてきたのか、いやな予感しかしない。

「これにサインもらえないかと思いまして――」
「……」

 俺は無言で渡された羊皮紙を受け取る。

「お前は、これが何を意味しているのか理解しているのか?」

 俺は立ち上がってグローブの襟元を掴むと持ち上げる。
 伊達に10年も冒険者を――前衛をしていたわけではないのだ。
 男一人くらいは、片手で簡単に持ち上げることは出来る。

「――だ、旦那……。これは……」
「黙っていろ! リアやソフィアは、許可を出したのか? 加入したばかりのお前に……」

 実際、グローブが加入してからは、まだ2ヶ月も経っていない。
 そんな奴に、10年近く冒険者パーティを組んでいる俺達に関して干渉されるのは感情的に、非常に苛立つ。

「旦那の怪我が酷いからって――。冒険者パーティから脱退してといってたんですよ!」
「……なん……だと……」

 俺は、グローブに渡された書類に視線を向ける。
 それは、俺が登録している冒険者パーティから脱退をするという申請書。
 
 たしかに、怪我をしてから疎遠になっていたのは認める。
 だが、何の通知もなしに……一方的に――。

「旦那あれを……」
 
 グローブが震える手で冒険者ギルド内の一角を指差す。
 グローブが指差した方向へ視線を向けると、テーブル席にリアとソフィアが座っている姿があった。
 そして二人は、20歳くらいと思われる年若い男と話をしていた。
 
「つまり、新しい神官を入れるから俺は要らないってことか? そう言いたいのか?」
「そう言っていましたぜ」

 グローブが震える声で、俺の言葉を肯定してきた。

「そうか……」

 俺は右手から力を抜く。
 すると、グローブは床の上に落ちた。
 ずっと襟首を掴まれていたからなのか、グローブは苦しそうな表情で息をしている。

 薄々、理解はしていた。
 俺には利用価値があるから、彼女達は語りかけてきたのだということを。
 最初に彼女らは言った。
 俺に神官としての才能があったから話し掛けてきたと……。

「潮時か……」
「さすが旦那、理解が早くて助かる」

 俺は、最近加入してきた盗賊であるグローブに答えずにリアとソフィアを見る。
 二人とも先祖に亜人の血が混じっているらしく、出会ったころから10年経った今でも10代と通じるくらい若々しい。
 それと比べて俺と来たら、異世界に来たのが20台後半。
 10年が経過しているから、もうすぐ40歳だ。
 肉体的にも厳しくなってきていた。
 だから、グローブが解除し損ねた矢を回避しきれずに膝に矢を受けてしまったのだ。
 そのことを八つ当たりしても仕方がないだろう。

「分かった……」

 ソフィアもリアも、いい神官を見つけたのだろう。
 彼女らの笑顔が、それを物語っている。
 そもそも、俺は彼女らに助けてもらった身だ。
 彼女らに何か言うのはお門違いと言ったところだろう。

 それに、ある程度、貯蓄は出来たしエルダ王国の市民権も購入することが出来た。
 田舎で暮らす分には十分だ。

 俺は受け取った用紙に名前を書いていく。

「これで、いいだろ?」

 グローブに、脱退志願書を差し出す。
 すると、グローブは志願書を受け取ると「旦那、あばよ」と、笑みを浮かべながら立ち去っていった。

「……それでカンダさん、どうしますか?」
「……開拓民で――」

 まぁ、田舎で暮らすのもいいだろうな。
 どうせ、都会だと物価が高くて大変だろうし……。
 俺は、エルダ王国辺境村での開拓民募集の仕事を受領すると、冒険者ギルドから出る。
 そのときに、最後――。

 ソフィアとリア。
 二人と目が合った。
 彼女ら二人は、楽しそうな表情で俺に手を振ってきた。
 
「今までありがとな」

 うまく笑顔で最後の言葉を紡げただろうか?
 二人が何かを言っていた気がするが、冒険者ギルド内の雑多な音に紛れて聞き取ることはできなかった。 

 ただ、彼女らの幸せな表情を見ていると罪悪感とともに苛立ちもあり、逃げるようにして俺は冒険者ギルドの建物を出た。




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