G線上の終焉歌

ノベルバユーザー202594

第四話 起床

 5時に目を覚ます。どんなに遅く寝ようと関係ない。そもそも寝ると言っても意識を完全に切る訳ではないしな。

「ふわあぁぁ。おはようございます。ご主人様マスター

 モエが腕を上に伸ばしながらベッドから出てくる。目をグシグシと擦っている。

「おはよう。…起こしたか?」

「はい。起こされました」

「…」

 いや。そこは嘘でも起きてましたっていう所だろう?

「まあ、良いですけど」

「悪い。いつもこうだから」

「それ体大丈夫なんですか?」

「生まれた時からこれ以上無いくらいに壊れてるからな」

 またそんなことを言って、などとブツブツ言いながら隣室へと向かう。あそこは彼女の部屋になったらしい。
 昨日の米が残っているから使うように言っておこう。また黒焦げがたくさん出来ても困るしな。

「おいモエ」

 ガラガラ

 ドアを開けてすぐ、肌色が目に飛び込んでくる。ちょうどパジャマを脱いでメイド服を手にしている。…オレは何を観察してるんだ。

 ピシャン

 着替えていたのか…悪いことをした。まあ昨日見た─見せられたばかりだけどな。

 ガラガラ

「ま、ますたぁ」

 心なしか声が震え、顔が赤いようだ。
 いやでも昨日とか結構誘ってただろう?乗る気は一ミリも無かったが。
 あれか。
 自分からは大人ぶって誘うけど、用意の無いところにされるとひどく恥ずかしいものなのか。

「オレが悪かった」

 ノックをする、も何もそんなに人と関わったことが無かったんだ。言い訳に過ぎないが。

「その。…やっぱり私もロボットでも女の子ですので」

「本当に悪かった」

「うぅ。で、何ですか?」

 その後、朝食についてご飯だけでなく色々と説明していたら遅くなってしまった。
 モエがずっと上の空で恥ずかしそうにしていたので居たたまれなくなって、オレは玄関から朝の鍛錬に向かうことにした。

 悪魔が暴走した時のために元々広く作られているフロアだ。オレとティアの部屋しかなく、その分空きスペースが多い。刀を振るくらいならできるだろう。ちなみに学校の公式の鍛錬場もあるらしいが絶対行かないな。…アスカとか行ってそうだな。

 そんなことを思いながら廊下にでて改装中─という名文で空けてある─に辿り着き、先客がいると感じる。先手を打たれた??
 なんの感情もこちらへ向けられていないことが逆に不気味である。敵意、害意、殺意。それらを全て、統べて、押し殺している?
 遅くなったとはいえこんな朝早くから鍛錬を、しかもこの13階─オレ対策フロア─でしているヤツならきっと、オレが来たことに気付いているはずだから。

「あら、おはよう」

 ソイツは平然とそう言った。黒い髪を赤い彼岸花の髪飾りで右上でくくっている、ティアだった。

「…おはよう。今日から授業だな。こんな朝早くからなんだ?」

 失策で失言だった。同じことを聞かれるのは当然なのに。

「白夜こそ、なぜ改装中の所に来るのよ?立ち入り禁止だよっ。学校の鍛錬場があるでしょ?」

 オレがここへ来ようとした目的は恐らくコイツと同じだ。鍛錬というだけでなく、重要な。
 出遅れたのか?だが、いつから?

 そうか、騙されたのか。
 昨日のあのマヌケな印象に。

 警戒が高まる。

 コイツハテキダ

 意地の悪い笑みを浮かべ、ティアは言う。そう見えるのはオレの考えのせいだけかもしれないが。

「朝食でも食べに行くっ?。ここは危ないし~」

 今回は、負けたな。

「いえ、家で作りますので」

 一瞬少し残念そうな顔になる。
 パチッとウインクをしながらティアが言う。

「そう…遅れないようにしないとダメだぞ☆」

 授業にも、そして戦いにも。
 例えいつ始まるか分かっていなくとも。いや、違うか。
 勝手に始まってないと思っていても、だな。

 オレはその痛烈な皮肉に何も言えずにしばらくそこに立ちすくんでいた。

 オレはポケットに手を突っ込みダルそうに部屋に戻り始める。敗北者に見えるように。
 だが。今のところは一勝一敗、だぜ?正確には少しリードとさえ言える。流石に強がりが入るかな?

 それにしても…驚きだ。もしオレの想像通りならあんなに優秀なのが父さんの下にいたことになる。この呪いの橘の配下に。

 協力するとしても他の呪家だろうし。棘か魁の者か…?
 だがそれもないか。
 魔術はともかく呪いの強さは橘の右に出る者はいない。最上位の悪魔だからな。つまり呪家にすら忌み嫌われる。普通は傷の舐め合いをする彼等も橘は避けて通る。
 そもそも魔術学校に忌避物として入学は出来ても、絶対に雇われることはないだろう。呪家というのはそれくらい信用が無く、嫌われている。

 結論。そんなに優秀な人材がいるはずもなくオレの杞憂だろう。願望が入り過ぎてるかも知れないが。オレの想像の半分くらいならどうにでもなる。
 だが一応油断はするまい。最悪の事態に備えよう。

 そんなことを考えていると─オレは考え事をしながら歩くのが好きだ。思考が纏まる。─家に戻ってきた。
 朝食の良い匂いが伝わってくる。
 ?良い匂い?モエ(アイツ)が?


「あら、お帰り~」
「お帰りなさいませ、ご主人様マスター

「なんでお前がここにいる?」

 朝から美少女二人に出迎えられるというのは普通嬉しいものらしいがこの場合は例外だろう。さっきまで対策を練っていた警戒対象ティアがいたのだから。
 あと年齢は幾つかしらないがティアは美少女だろう。美人には入れがたい。

「帰りに変な匂いがしたから寄ったら、この娘ががんばってるんだもん。手伝ってあげよーと」

「へえ。モエ。勝手に人を家に入れるな」

「いえ、むしろ勝手に入ってきたといいますか」

「そんなことないよ~。ご飯ちゃんと出来たしっ!」

 確かに上手にスクランブルエッグとベーコン、サラダまで出来ていた。

「材料がアレだから、まあこんなもんよ」

 なんかティアは威張ってるが誰が頼んだというのだ。

「いいのよ。要らなかったら捨てれば」

 言ってることと反対にそんなことしたら絶対に許さないと顔に書いてあるんですが、それは。

「いや。食べ物に罪はないしな。せっかく作ってくれたのなら有難く頂こう」

「うんっ」

 なんだかモエの視線が冷たいが仕方ないだろう。コイツが昨日と同じようにマヌケに見えるのがどこまでホントなのかを確かめたい。
 毒は…作っているところを、モエが見ているから大丈夫だろう。

「感想は?」

「上手い」
「おいしいですね」

「やったっ!」

 ガッツポーズまでして喜んでいる。

「でね。すこーし話があるんだけどっ」

「なんだ?」

「学校では私に敬語を使いなさい、いや使え」

「あー?別にいいけど」

「…そんな簡単に納得されるとは思ってなかった」

「処世術だろ、そんなもん」

「そうだねっ、貴方の得意な」

「代わりに。オレの強さもバラすなよ?」

「もちろんよ。バラしても誰も信じないしねっ」

 確かに。橘は気持ちの悪い、呪いで魔術も使えない雑魚扱いだしな。それを工夫することが出来るとは考えないらしい。ラッキーだ。損な取引か。

 あと結局どこまで演技か分かんねえな。オレの杞憂で全部ホントっていうのは…いささか楽観的だろうな。

 朝食を終え、別々に登校した。呪わしい学校生活の始まりだ。 


 






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