G線上の終焉歌
第一話 始まり
どこの学校でもやはり入学式というものは存在し、校長の挨拶はねむいものである。ウテラウツラと船をこぎながらオレは思いを侍る。明日から、いや今日からの楽しいなどというものとは遠く離れたものになるであろう学校生活について。
「そもそも魔法とは神が我々に与えた能力でー」
オレは今日からこ魔法魔術国立第十学院に通うことになった。まあここは所謂エリート校なわけで。本来オレみたいなのが来るべきところではない。
だが、父から、引いてはもっと上、国からの命令だ。仕方がない。せめてまともな教育を受けさせよう、差別は良くない?けっ。ずいぶんと建前も進歩したもんだな。たけどオレはよーく分かってる。オレ以外の奴がオレを忌むべきものと認識するのも一つの教育ってわけだ。
「魔法使いは社会のためにー」
「あなた、やる気あるの?」
そこまで考えたところで隣の女が思考を邪魔して来る。へえ、こいつはそうとうな実力があるな。その同年代にしては大人びた美貌にもロングストレートの赤髪にも全く目もくれずオレはそう考えていた。
「当たり前じゃないですか。でも僕みたいなクズが頑張ったって無駄なんですよ」
「やる前から諦めちゃダメよ!」
めんどくせえ女だ。人に自分の画一的な思想を押し付けんな。大体やったあとで諦めきってるんだろおが。もっともやったのはオレではなく先祖だが。いつも足掻いて抗って結局押し流されて。
「そうですね。でも僕は魔力が弱いんですよ。努力じゃどうにもなりませんよ」
こういうやつには現実を見せる必要がある。どうにもならないことは絶対に存在し、どうにもならないことの方が世の中には多いのだ。
少女は考えているようだ。オレにやる気を持たせるのだろうか?どうにもならないことを変えることだろうか?どちらでもいい。
「団結することが、不可欠である」
校長の話が終わり式も終わったようなので、そそくさと席を立つ。早く自分の部屋に戻るとしよう。確か寮塔は白虎だったはずだ。これはクラスもかねている。
皆は相部屋のようだがオレだけ一人だ。そりゃ危険だもんな。てっきり監視要員的なのが来ると思っていたのに意外だった。正確には予想の斜め上をいっていた。
「お帰りなさい。ご主人」
人が扱うには危険過ぎる存在だったのかよ。まあロボットなら気を使わなくてすむとはいい・・・なぜ見た目を美少女にしたんだ?しかもメイド服にメイドカチューシャとは。茶色いツインテールがピコピコと揺れているし。親父の趣味か?吐き気がするな。まあどうせ一人なんだからかまわないか。これまでもこれからも。
「はあ。お前、名前は?」
「はい、モエと申します!ご主人は珍しい人ですね」
「・・・何がだ?」
「私にそんな普通の質問を普通の人はしません。どう動くのかとか魔術なのか科学なのか、とか」
「興味が無いからな」
まあ言われなかったらたぶん聞いていたけど。
おそらく体内にある水晶か何かに込められた魔力で動いているのだろう。
「そうですか・・・」
表情までこんな精密なのかと驚くぐらいしょげている。女を泣かせるのはいい気分じゃない。場合にもよるが。
「・・・安心しろ、オレもだ。魔法使いとしてはもちろん、まともに人間扱いなんてしてもらった試しがねえ。まあ納得はしてるがな」
「ではご主人。お名前は?」
もうとっくに知っているだろうことをコイツは嬉しそうに聞く。フッとそのアホさに苦笑し、応える。
「呪われた橘家の白夜だ。よろしくな、モエ」
「はい!さっそくですが、荷物が届いているようです」
「おお。どこだ?」
「約1km程北の門入ってすぐのところです」
「・・・そうか。部屋に、じゃないんだな」
夜でいいか。人に、魔法使いに会いたくない。
コンコンと部屋の戸を誰かが叩く。
「入るわよ、橘白夜」
「はい、なんでしょうか」
言う前にその女は入ってきた。何だコイツ?黒髪ボブくらいで、気の強そうな目をしている。
モエはオレが何も言ってないのに茶を入れている。
「私は貴方の担任兼監視役。名前はティアナ。貴方が馬鹿な先祖のせいで悪魔の力を持つもの、ねえ?もっと期待してたのに。もし力が暴走するようなことがあったらソレがなんとかするとは思うけど、私も鎮圧しなきゃなんないから、一応挨拶ね。もちろん周りの皆には隠すようにしなさいね。何か不十分な点とかある?」
へえ、監視員もいたって訳か。担任っていうわりに凄い若いな。ホントにオレを鎮圧できんのか?
でも良かったな、隠さなくていいタイプの数少ない人間だ。だったら言わせてもらおうか。先祖を馬鹿にされるのは構わない。オレ自身、殺したいほど憎んでる。
だがしかし。
「二つほど、な。もっともオレが言うことでもないが。一つ、コイツをソレとか呼ぶな、絶対に。二つ、茶を貰って礼も言えねえのか、貴族も落ちたもんだな」
「なっ!」
「なんか間違ってたか?あ、もしかして貴族じゃないとか?」
その言葉を引き金にキレたティアナが詠唱を始める。よほど偉い貴族なのかな?
これは・・・聞いたことのない詠唱だな。なんだ?まあどうでもいい。
「やめろ」
静かにオレが呟く。殺気と共に。
「ヒッ!なっ、何を」
魔法の詠唱ってのは乱されると失敗しやすいからな。一番乱れやすいところにこちらの尋常じゃない殺気でほぼ確実に成功する。多少なりとも「先生」に期待していたオレが馬鹿だったな。
「わ、私は貴方のお父さんの所から来たのよ!」
「へえ。だから?」
もう一度殺気を出す。
「だ、だから。え、えっと・・・あれ?う~。白夜の意地悪!」
涙目になってオレを睨みつけたのち、部屋を出ていく。オレはその背中を意地の悪い笑みを浮かべ見送った。
部屋を出てドアを閉めてから少女は呟く。
「人ならざるもの・・・ね」
ティアナは結局紅茶に口を付けていなかった。利口な判断だな。オレでも初対面の相手にだされたものをすぐに口にはしないだろうし。そんなことを考えているとモエが向かいに座り、紅茶を飲み始めた。
「ご主人。私はそんなこと聞いておりませんが」
「そうなのか?」
ティアナが少しだけ焦がしたカーペットの煤を手で拾う。
「ご主人、そのようなことは私が」
「じゃあ頼もうか。荷物取りに行ってくるな」
初日でこれかよ、と言うような学院生活が始まった。
「そもそも魔法とは神が我々に与えた能力でー」
オレは今日からこ魔法魔術国立第十学院に通うことになった。まあここは所謂エリート校なわけで。本来オレみたいなのが来るべきところではない。
だが、父から、引いてはもっと上、国からの命令だ。仕方がない。せめてまともな教育を受けさせよう、差別は良くない?けっ。ずいぶんと建前も進歩したもんだな。たけどオレはよーく分かってる。オレ以外の奴がオレを忌むべきものと認識するのも一つの教育ってわけだ。
「魔法使いは社会のためにー」
「あなた、やる気あるの?」
そこまで考えたところで隣の女が思考を邪魔して来る。へえ、こいつはそうとうな実力があるな。その同年代にしては大人びた美貌にもロングストレートの赤髪にも全く目もくれずオレはそう考えていた。
「当たり前じゃないですか。でも僕みたいなクズが頑張ったって無駄なんですよ」
「やる前から諦めちゃダメよ!」
めんどくせえ女だ。人に自分の画一的な思想を押し付けんな。大体やったあとで諦めきってるんだろおが。もっともやったのはオレではなく先祖だが。いつも足掻いて抗って結局押し流されて。
「そうですね。でも僕は魔力が弱いんですよ。努力じゃどうにもなりませんよ」
こういうやつには現実を見せる必要がある。どうにもならないことは絶対に存在し、どうにもならないことの方が世の中には多いのだ。
少女は考えているようだ。オレにやる気を持たせるのだろうか?どうにもならないことを変えることだろうか?どちらでもいい。
「団結することが、不可欠である」
校長の話が終わり式も終わったようなので、そそくさと席を立つ。早く自分の部屋に戻るとしよう。確か寮塔は白虎だったはずだ。これはクラスもかねている。
皆は相部屋のようだがオレだけ一人だ。そりゃ危険だもんな。てっきり監視要員的なのが来ると思っていたのに意外だった。正確には予想の斜め上をいっていた。
「お帰りなさい。ご主人」
人が扱うには危険過ぎる存在だったのかよ。まあロボットなら気を使わなくてすむとはいい・・・なぜ見た目を美少女にしたんだ?しかもメイド服にメイドカチューシャとは。茶色いツインテールがピコピコと揺れているし。親父の趣味か?吐き気がするな。まあどうせ一人なんだからかまわないか。これまでもこれからも。
「はあ。お前、名前は?」
「はい、モエと申します!ご主人は珍しい人ですね」
「・・・何がだ?」
「私にそんな普通の質問を普通の人はしません。どう動くのかとか魔術なのか科学なのか、とか」
「興味が無いからな」
まあ言われなかったらたぶん聞いていたけど。
おそらく体内にある水晶か何かに込められた魔力で動いているのだろう。
「そうですか・・・」
表情までこんな精密なのかと驚くぐらいしょげている。女を泣かせるのはいい気分じゃない。場合にもよるが。
「・・・安心しろ、オレもだ。魔法使いとしてはもちろん、まともに人間扱いなんてしてもらった試しがねえ。まあ納得はしてるがな」
「ではご主人。お名前は?」
もうとっくに知っているだろうことをコイツは嬉しそうに聞く。フッとそのアホさに苦笑し、応える。
「呪われた橘家の白夜だ。よろしくな、モエ」
「はい!さっそくですが、荷物が届いているようです」
「おお。どこだ?」
「約1km程北の門入ってすぐのところです」
「・・・そうか。部屋に、じゃないんだな」
夜でいいか。人に、魔法使いに会いたくない。
コンコンと部屋の戸を誰かが叩く。
「入るわよ、橘白夜」
「はい、なんでしょうか」
言う前にその女は入ってきた。何だコイツ?黒髪ボブくらいで、気の強そうな目をしている。
モエはオレが何も言ってないのに茶を入れている。
「私は貴方の担任兼監視役。名前はティアナ。貴方が馬鹿な先祖のせいで悪魔の力を持つもの、ねえ?もっと期待してたのに。もし力が暴走するようなことがあったらソレがなんとかするとは思うけど、私も鎮圧しなきゃなんないから、一応挨拶ね。もちろん周りの皆には隠すようにしなさいね。何か不十分な点とかある?」
へえ、監視員もいたって訳か。担任っていうわりに凄い若いな。ホントにオレを鎮圧できんのか?
でも良かったな、隠さなくていいタイプの数少ない人間だ。だったら言わせてもらおうか。先祖を馬鹿にされるのは構わない。オレ自身、殺したいほど憎んでる。
だがしかし。
「二つほど、な。もっともオレが言うことでもないが。一つ、コイツをソレとか呼ぶな、絶対に。二つ、茶を貰って礼も言えねえのか、貴族も落ちたもんだな」
「なっ!」
「なんか間違ってたか?あ、もしかして貴族じゃないとか?」
その言葉を引き金にキレたティアナが詠唱を始める。よほど偉い貴族なのかな?
これは・・・聞いたことのない詠唱だな。なんだ?まあどうでもいい。
「やめろ」
静かにオレが呟く。殺気と共に。
「ヒッ!なっ、何を」
魔法の詠唱ってのは乱されると失敗しやすいからな。一番乱れやすいところにこちらの尋常じゃない殺気でほぼ確実に成功する。多少なりとも「先生」に期待していたオレが馬鹿だったな。
「わ、私は貴方のお父さんの所から来たのよ!」
「へえ。だから?」
もう一度殺気を出す。
「だ、だから。え、えっと・・・あれ?う~。白夜の意地悪!」
涙目になってオレを睨みつけたのち、部屋を出ていく。オレはその背中を意地の悪い笑みを浮かべ見送った。
部屋を出てドアを閉めてから少女は呟く。
「人ならざるもの・・・ね」
ティアナは結局紅茶に口を付けていなかった。利口な判断だな。オレでも初対面の相手にだされたものをすぐに口にはしないだろうし。そんなことを考えているとモエが向かいに座り、紅茶を飲み始めた。
「ご主人。私はそんなこと聞いておりませんが」
「そうなのか?」
ティアナが少しだけ焦がしたカーペットの煤を手で拾う。
「ご主人、そのようなことは私が」
「じゃあ頼もうか。荷物取りに行ってくるな」
初日でこれかよ、と言うような学院生活が始まった。
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