花贈りのコウノトリ
8
「待って!」
と呼びかけたのは早乙女さんだった。女の子の手が止まる。
早乙女さんがこんなに大きな声を出せるとは…すっかり驚いて早乙女さんを凝視していると、はっと我に返った早乙女さんは慌てたように僕と女の子を交互に見つめ耳まで真っ赤にして俯いた。
「ごめんなさい!その…大きな声出して…」
蚊の鳴くような声でそう謝り、両手で顔を覆った早乙女さんを女の子は扉を閉めてじっと見つめた。
大声を出してまで女の子を呼び止めた早乙女さんは、女の子に何らかの事情があると察したのだろう。だとしたら、このまま帰す訳にはいかない。僕は咄嗟にアレンジメントの籠を足元から出した。
「うちの店はお客さんの欲しいアレンジメントを何でも作れるんやに。どんなんがいいか言うてごらん。入れて欲しい花あったらそれに合わせて作ってあげるし」
僕の言葉に一瞬呆気に取られると、たちまち女の子はきらきらと目を輝かせた。さっきまでの落ち込んでいた様子はどこへやら、ぼんやりと立ちすくんでいた早乙女さんの腕を引いて切花のキーパーまで弾むような足取りで歩いて行く。
勿論、嘘はついていない。サービスの一環として存在はしている。母の日の時みたいにこちらが黙っていてもこんなアレンジメントが欲しい、なんて言い出す人も少なくない。
けれど大半はアレンジメントコーナーにふらっと立ち寄ってもそのまま帰ってしまう人が多かったりする。「欲しいアレンジメントが無ければ作る」って書いておけばもっと集客出来るんだろうなあ。
一番小さなアレンジメントの用意をしながらちらりと切花のキーパーの方へ目をやると、早乙女さんが女の子とどの花を使うかなんかを話している。白がいいだの、ピンクを入れろだの、一度口を開いてしまえばなかなかに喧しい。
選んだ切花を自ら持ってきた女の子は、半ばはしゃぎ気味にカウンターの上へ切花を広げると
「ねえ、ケーキみたいにして!」
と店中いっぱいに声を響かせた。さっきまであんなにしょぼくれていたのに、まるで別人になったみたいだ。
店長が疲れた顔で帰ってきたころには彼女のわがままをすべて詰め込んだアレンジメントが出来上がっていた。白を基調とした「ケーキのような」アレンジメント。白のトルコキキョウをメインにレースフラワー、白のミニバラを散りばめ、アクセントに薄いピンクのミニバラとカーネーションを飾ったのだが。
全体的に色が薄く、イマイチぱっとしない。予想外のものができてしまったのか、女の子も首を傾げている。
「…ケーキっぽいっちゃあ、ケーキっぽいな」
苦笑いしながら店長が呟く。思っていたのと違うようで、女の子もあの元気はどこへやらまた項垂れてしまっている。
あとはメッセージカードだったり飾りだったりを追加することも出来るけど、そうなると別途料金がかかって彼女の予算を大幅に上回ってしまう。でもこれ以上色を足せばケーキらしさがなくなってくどくなるような気がする。
「あ…あの」
どんよりした空気を断ち切るように早乙女さんが恐る恐る声を掛ける。みんなの視線が早乙女さんに集まると落ち着きなくもじもじした後、
「…す、ストロベリーキャンドルとか…その…昨日、沙苗ママが花束に使ってたからどうかな…って…」
ストロベリーキャンドル。真っ赤で先が尖っているら細かい花の付いた花だ。クローバーと近い花で、時期的には春頃のものだけどまだ今も取り扱っていたのか。
成程、と手を打ったのは店長だった。
「いいアクセントになるじゃないか。それにショートケーキのイチゴとか蝋燭の火みたいになるから、ケーキみたいなアレンジメントを作るにはピッタリの花だな!よく思いついたね」
珍しく早乙女さんがベタ褒めされている。僕が思わず微笑むと、目が合った早乙女さんも恥ずかしそうに、それでもどこか嬉しそうに頬を赤らめた。
と呼びかけたのは早乙女さんだった。女の子の手が止まる。
早乙女さんがこんなに大きな声を出せるとは…すっかり驚いて早乙女さんを凝視していると、はっと我に返った早乙女さんは慌てたように僕と女の子を交互に見つめ耳まで真っ赤にして俯いた。
「ごめんなさい!その…大きな声出して…」
蚊の鳴くような声でそう謝り、両手で顔を覆った早乙女さんを女の子は扉を閉めてじっと見つめた。
大声を出してまで女の子を呼び止めた早乙女さんは、女の子に何らかの事情があると察したのだろう。だとしたら、このまま帰す訳にはいかない。僕は咄嗟にアレンジメントの籠を足元から出した。
「うちの店はお客さんの欲しいアレンジメントを何でも作れるんやに。どんなんがいいか言うてごらん。入れて欲しい花あったらそれに合わせて作ってあげるし」
僕の言葉に一瞬呆気に取られると、たちまち女の子はきらきらと目を輝かせた。さっきまでの落ち込んでいた様子はどこへやら、ぼんやりと立ちすくんでいた早乙女さんの腕を引いて切花のキーパーまで弾むような足取りで歩いて行く。
勿論、嘘はついていない。サービスの一環として存在はしている。母の日の時みたいにこちらが黙っていてもこんなアレンジメントが欲しい、なんて言い出す人も少なくない。
けれど大半はアレンジメントコーナーにふらっと立ち寄ってもそのまま帰ってしまう人が多かったりする。「欲しいアレンジメントが無ければ作る」って書いておけばもっと集客出来るんだろうなあ。
一番小さなアレンジメントの用意をしながらちらりと切花のキーパーの方へ目をやると、早乙女さんが女の子とどの花を使うかなんかを話している。白がいいだの、ピンクを入れろだの、一度口を開いてしまえばなかなかに喧しい。
選んだ切花を自ら持ってきた女の子は、半ばはしゃぎ気味にカウンターの上へ切花を広げると
「ねえ、ケーキみたいにして!」
と店中いっぱいに声を響かせた。さっきまであんなにしょぼくれていたのに、まるで別人になったみたいだ。
店長が疲れた顔で帰ってきたころには彼女のわがままをすべて詰め込んだアレンジメントが出来上がっていた。白を基調とした「ケーキのような」アレンジメント。白のトルコキキョウをメインにレースフラワー、白のミニバラを散りばめ、アクセントに薄いピンクのミニバラとカーネーションを飾ったのだが。
全体的に色が薄く、イマイチぱっとしない。予想外のものができてしまったのか、女の子も首を傾げている。
「…ケーキっぽいっちゃあ、ケーキっぽいな」
苦笑いしながら店長が呟く。思っていたのと違うようで、女の子もあの元気はどこへやらまた項垂れてしまっている。
あとはメッセージカードだったり飾りだったりを追加することも出来るけど、そうなると別途料金がかかって彼女の予算を大幅に上回ってしまう。でもこれ以上色を足せばケーキらしさがなくなってくどくなるような気がする。
「あ…あの」
どんよりした空気を断ち切るように早乙女さんが恐る恐る声を掛ける。みんなの視線が早乙女さんに集まると落ち着きなくもじもじした後、
「…す、ストロベリーキャンドルとか…その…昨日、沙苗ママが花束に使ってたからどうかな…って…」
ストロベリーキャンドル。真っ赤で先が尖っているら細かい花の付いた花だ。クローバーと近い花で、時期的には春頃のものだけどまだ今も取り扱っていたのか。
成程、と手を打ったのは店長だった。
「いいアクセントになるじゃないか。それにショートケーキのイチゴとか蝋燭の火みたいになるから、ケーキみたいなアレンジメントを作るにはピッタリの花だな!よく思いついたね」
珍しく早乙女さんがベタ褒めされている。僕が思わず微笑むと、目が合った早乙女さんも恥ずかしそうに、それでもどこか嬉しそうに頬を赤らめた。
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