アホウドリのつがい

悠木 いと

つがいの村


空はぼんやりと明るくなってきた。

ユウ、、。」

呼んでも優はどこにもいない。

過疎化の進むこの村では子供は少ない。
小中学は同じ校舎で学び、皆兄弟のように育つ。

この村では、昔から容姿の整った子が多く産まれた。特に女の子に美人が多い事もあり、別名『天女村てんにょむら』と呼ばれていた。

不思議な事に、村では先に女の子が産まれると必ず同じ年に男の子が産まれた。
妊婦が一人しかいない年は男の子が産まれ、妊婦が二人いる年は先に女の子、次に男の子といった順番で産まれる。
その現象について村の人々は特に驚く事などなく

「今年は妊婦は3人だそうだよ。」

「どこどこの嫁さんは、5月に産まれるそうだから女の子だね。」

「あとはどっちが先に産まれるかね。どっちにしても男の子だね。」

と、言った会話が普通になされている。

妊婦が4人いれば、女の子、男の子、女の子、男の子の順で産まれ奇数なら男の子が多く産まれる。
村の中では順に産まれた男女を『つがい』として扱っていた。

 唯のつがいは優だ。本当の兄弟よりいつも一緒だった。

唯にとって優は特別な存在だ。
体の一部のような感覚。
分身のようで、全く違う。
影のように常に共にある。
同じように感じる痛みや悲しみ、双子のようでそれとも違う。
つがい同士でなければ分からない独特な繋がりがあった。
一緒にいない時間も側に優を感じた。
この先もずっと一緒にいるんだろうなと互いにそう思っていた。
ただ、恋人とか結婚相手と意識していたのかと言えば違う。

つがい=結婚相手ではない。 

実際、村の人々がつがい同士として育ったからと言って必ず結婚しているわけではなかった。
他の恋人を作って村を離れる者もいた。
もちろんつがい同士の結婚は圧倒的に多かったし、結婚すれば浮気や離婚はほぼ無く仲の良い夫婦ばかりだ。
ただ、つがい同士の結婚は他からの移住者が少ないこの村の人口を減少させていた。最近では、村以外からの移住者を増やす為の政策に力をいれている。その成果が出ているのか、ちらほら知らぬ顔を見かけるようになった。外から来た移住者同士ではつがいの法則は現れなかった。これからつがいは少なくなるのかもしれない。

つがい同士で結婚した夫婦は仲が良い。
普通はおしどり夫婦と言うのだろうけど、この村では『アホウドリ夫婦』と呼ばれた。
なんでも鳥の中でもアホウドリは一夫一妻、一生相手を変えない珍しく誠実な鳥だそうだ。
むしろ、オシドリは一度かぎりの関係で、メスが子供を産んでもオスは手伝わない。それどころか姿を消してまた新しいパートナーを探すそうだ。
小さい頃は、あそこの『アホウドリ夫婦』と大人達が悪びれる様子もなく話すのが可笑しかったが、今では、一生変わらず同じ相手を愛する鳥になぞらえるなら素敵な呼び名だなと思うようになっていた。

 学校でも唯と優はいつだってセットだった。
そもそも、2人しかいない同級生だから席が隣同士だったり出席番号が並びなのは当たり前だけど、仮に数人いたとしても学校内ではつがいが優先される。
実際、唯の弟たちは6人同級生がいるが、6人はそれぞれにつがいで席が決められていたし、出席番号も五十音順ではなく、誕生日が早いつがい順だった。
さすがに休み時間や放課後になれば、それぞれ好きに過ごしていたし、家に帰ればつがいは関係ない。
つがいとして一緒なのは学校や村の行事、村の中での認識だけだ。
他の学校ならかなり特殊な事だとは思うが、先生も普通に受け入れていた。むしろつがいのどちらかが休んだり、連絡や用事ある時にどちらか片方に頼めば良かったので都合が良かったかもしれない。
つがいに関して、冷やかされたり揶揄からかわれる事も無い。
村に住む多く人も昔からそれぞれにつがいがいたし、他所よそでは特殊な状況でも、ここでは当たり前と言う感覚なのだ。

 こんな奇妙な村であったのに、この事がメディアに取り上げられたりSNSで話題になったりする事は無かった。
神がかった昔話や伝奇がある訳でもないからか、美形の子供が多い事やつがいで産まれて来る不思議な現象も、村人達にとってはなんら珍しくも驚く事でもない。長く続いている事にとりたてて騒ぐ者などいなかった。
いっそ話題にでもすれば、人口ももっと急激に増えるかも知れないが、そんな事すら思いつかないほど村では日常的だった。







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