One’s day off-Sakura-

嘉禄(かろく)

What is the flower of this year?

少しずつ、俺の誕生日と定められた日がまた近づいてきている。

俺は普通の人間と違って母親の胎内にいた訳じゃないから、最初から槽の中にいた。
つまりは外にいたということだ。
だから、俺の誕生日も少し特殊だ。
この目を開いて、世界を初めて見て…数日経って一嶋さんから『加々美いつき』という名を与えられた日が俺の誕生日。
そのあと涼と出会って、任務をこなしながら仲を深めて…そうして二人で迎える一度目の俺の誕生日が近づいてきたある日、涼は俺に何が欲しいかと聞いてきた。
その質問は、俺にとってかなり返答に困るものだった。
俺は涼さえいてくれればいいから、他に望みも欲しい物も無かった。
でも、大切な人の誕生日には贈り物をするという習慣があるのも知っていた。
俺は悩んだ末に『花が欲しい』と言った。
当然ながら涼には『物でなくていいのか』と聞かれたが、俺は頷いた。
それから俺は涼からどんな花をもらえるかが毎年の楽しみになっていた。

今年もきっと悩みに悩んでいるんだろうと思いながら、俺はその日をワクワクして待った。
そして、誕生日当日。
家で父さん母さんと尋、鯰尾に長谷部、涼が俺の誕生日を祝ってくれた。
豪華な料理に大きなケーキ、みんなからのプレゼント…この世界に生まれた時は何のために生きていくのかわからなかったけれど、俺はその意味を見つけた。
だから、誕生日を祝われて嬉しくない訳はなかった。
生きていていいんだ、とわかるから。
…こう思っていることは絶対に言わないけど。

そして、食事も終わって落ち着いた時に涼から目の前に花束が差し出された。


「いつき、誕生日おめでとう」
「ありがとう…!きれいだね…」


白と淡緑の花びらが俺の視界を埋める。
その美しさと、今年も涼とこの日を迎えられたという嬉しさに俺は微笑んだ。


「あらアングレカムじゃない、いつきにぴったりね。」


母さんがそう言ったことで俺はこの花の名前を知った。アングレカムっていうんだ、あとで意味調べよう。
取り敢えず生けないと…。


「母さん、花瓶どこかにあったよね?」
「あとで生けてあげるわよ」


そうして今年の誕生日も賑やかに過ぎていった。
翌日涼は任務だったから帰っちゃったけど、ベット脇に花瓶を置いてくれたから俺は幸せな気分で眠った。


翌日の昼に花言葉を調べてみて俺はつい微笑んだ。

『祈り』『いつまでも一緒』

なるほど、母さんが俺らしいと言ったのはこういうことだったんだ。
そう思って生けてあるアングレカムを見て、俺はある事に気付いた。
一本だけ、紫色…アングレカムには紫は無いはずだけど…?
そう思って近づくと、それはチューリップだった。
俺は紫色のチューリップの花言葉は元々知っていた。

『不滅の愛』

…涼にしては粋な計らいだな、ともう一回微笑んで俺は作業に向かった。
来年はどんな花をもらえるかな…。
来年だけじゃない、これからもずっと…。



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