One’s day off-Sakura-
Various valentine
もうすぐあの日が来る。
年に一度の、女性から男性へチョコレートが贈られる日。
…と言っても、俺たちの周囲には男しかいないが。
バレンタイン前日、俺と有賀と長谷部はロビーで顔を突き合わせていた。
誰が話すでもなく沈黙が続いたので、仕方なく俺が沈黙を破った。
「なあ、今年のバレンタイン…それぞれのメサイアからチョコ渡されるのか?」
そう問いかけると、二人はこう答えた。
「俺のところはいつきが毎年手の込んだものを渡してきますよ、チョコではありませんけど。」
「流石いつきさん、といったところですね。
でも、鯰尾も中々凝ったものを渡してきます。
雛森さんだって、メサイアじゃなくても百瀬さんから毎年もらってますよね?」
「まあ、もらってるけど…だんだんクオリティが高くなってきてて、ホワイトデーで何を返すか超悩むんだよな。」
そう言うと、長谷部も有賀も腕を組んで黙った。
しばらくして有賀が口を開く。
「…そうなんですよね。いつきは元々料理が得意ですけど手先が器用なのでお菓子も作れるからだんだん腕を上げて、こっちも良いものを返さないとって気になってきて…」
「その点では俺はまだ楽かもしれないですね、鯰尾の送ってくるものはハイクオリティというよりいかに俺を驚かせるかですから。」
「…それはそれで悩むだろ。」
それから数日後、バレンタイン当日いつもの事ながら俺は百瀬からチョコをもらった。
百瀬曰く、
「雛森は甘いものを好まないから、ビターにドライフルーツを混ぜたわよ!感想待ってるわねー。」
とのことだった。
今年はまだシンプルでよかった…これならあまり悩まないで済む。
安心しつつ廊下を歩いてロビーに向かっていると、前の方を歩いている有賀が見えたので声をかけた。
「よう有賀、いつきからもらったか?」
ゆっくりと振り返った有賀は、いつもは鉄面皮で表情がほとんど見えないのに今はどんよりという言葉しか当てはまらない表情だった。
「…どうした、有賀?
ハイクオリティだったか?」
「…いや、その…まだ中身は見てないんですけど、見るからにチョコじゃないんですよ。」
有賀は俺の目の前にケーキらしきものが入るような箱を掲げて見せた。
確かにこれは中身はチョコじゃない。
「それで、くれた時にいつきこう言ったんですよ。
『涼はチョコ得意じゃないから趣向を変えてみたよ!あ、でも手抜きだから期待はしないでね。』
と…この箱の時点で手抜きじゃないですよね。」
「…ま、まあ開けてみなきゃわかんないだろ!
長谷部も呼んでロビーで見せ合おうぜ!」
ということで、長谷部も呼んでそれぞれにもらった可愛らしい袋がテーブルの上に並ぶ。
「よし、じゃあ開けるか!
せーのでいくぞ?せーのっ!」
俺の号令に合わせて一斉に開けると、有賀は突っ伏した。
何が入っていたのか気になって覗き込むと、白いムースの上にラズベリーらしき赤いソース、その上に薔薇をかたどったチョコが乗っていた。
長谷部のはいつもよりシンプルなデザインで、表面はホワイトチョコでハートの柄が入っていて下はダークチョコのようだ。
俺はというと、ドライフルーツが混ぜてあるホワイトとダークチョコが3つずつ。
「…いつきからのはいつも通りハイクオリティだとして、長谷部のはシンプルだな?
一個食べてみろよ。」
「そうですね…鯰尾、俺に渡して捨て台詞みたいな感じで
『一個にちょっと仕掛けがあるから!』
って言ってたんで少し怖いんですけど…。」
そう言いつつ長谷部が一つ手に取り口に入れると、少しして眉間に皺をよせた。
「…どうした、なんか変な味でもするか?」
「…いえ、なんか入ってます。金属…?」
長谷部が取り出してみると、その手には金に輝く小さなコインが乗っていた。
「それ、フランスの伝統菓子ガレット・デ・ロワを参考にしたんだな。
本当はデカいケーキやパイに一つだけ入れといて、大人数で分けた時に当たった人に幸せが訪れるってやつなんだけど。
初っ端から当たるなんて運良いじゃん。」
「そんなものがあるんですね…俺もなんかサプライズ用意しないとかな…。」
長谷部は平和に済んだからいいとして、有賀は…やっと復活したか。
「ほら有賀、せっかくいつきが作ってくれたんだから食べてやれよ。返すのは大変だろうけど…。」
「…そうですね、俺のためにいつきが作ってくれたものですから。」
有賀が一口食べたのを見て俺も一つチョコを口に放り込んだ。
流石百瀬、上手くできてる。
さて、どんなのを返すか今から考えとかないとな。
…今年くらいは作ってやるか。
…いつきに特訓頼もう。
年に一度の、女性から男性へチョコレートが贈られる日。
…と言っても、俺たちの周囲には男しかいないが。
バレンタイン前日、俺と有賀と長谷部はロビーで顔を突き合わせていた。
誰が話すでもなく沈黙が続いたので、仕方なく俺が沈黙を破った。
「なあ、今年のバレンタイン…それぞれのメサイアからチョコ渡されるのか?」
そう問いかけると、二人はこう答えた。
「俺のところはいつきが毎年手の込んだものを渡してきますよ、チョコではありませんけど。」
「流石いつきさん、といったところですね。
でも、鯰尾も中々凝ったものを渡してきます。
雛森さんだって、メサイアじゃなくても百瀬さんから毎年もらってますよね?」
「まあ、もらってるけど…だんだんクオリティが高くなってきてて、ホワイトデーで何を返すか超悩むんだよな。」
そう言うと、長谷部も有賀も腕を組んで黙った。
しばらくして有賀が口を開く。
「…そうなんですよね。いつきは元々料理が得意ですけど手先が器用なのでお菓子も作れるからだんだん腕を上げて、こっちも良いものを返さないとって気になってきて…」
「その点では俺はまだ楽かもしれないですね、鯰尾の送ってくるものはハイクオリティというよりいかに俺を驚かせるかですから。」
「…それはそれで悩むだろ。」
それから数日後、バレンタイン当日いつもの事ながら俺は百瀬からチョコをもらった。
百瀬曰く、
「雛森は甘いものを好まないから、ビターにドライフルーツを混ぜたわよ!感想待ってるわねー。」
とのことだった。
今年はまだシンプルでよかった…これならあまり悩まないで済む。
安心しつつ廊下を歩いてロビーに向かっていると、前の方を歩いている有賀が見えたので声をかけた。
「よう有賀、いつきからもらったか?」
ゆっくりと振り返った有賀は、いつもは鉄面皮で表情がほとんど見えないのに今はどんよりという言葉しか当てはまらない表情だった。
「…どうした、有賀?
ハイクオリティだったか?」
「…いや、その…まだ中身は見てないんですけど、見るからにチョコじゃないんですよ。」
有賀は俺の目の前にケーキらしきものが入るような箱を掲げて見せた。
確かにこれは中身はチョコじゃない。
「それで、くれた時にいつきこう言ったんですよ。
『涼はチョコ得意じゃないから趣向を変えてみたよ!あ、でも手抜きだから期待はしないでね。』
と…この箱の時点で手抜きじゃないですよね。」
「…ま、まあ開けてみなきゃわかんないだろ!
長谷部も呼んでロビーで見せ合おうぜ!」
ということで、長谷部も呼んでそれぞれにもらった可愛らしい袋がテーブルの上に並ぶ。
「よし、じゃあ開けるか!
せーのでいくぞ?せーのっ!」
俺の号令に合わせて一斉に開けると、有賀は突っ伏した。
何が入っていたのか気になって覗き込むと、白いムースの上にラズベリーらしき赤いソース、その上に薔薇をかたどったチョコが乗っていた。
長谷部のはいつもよりシンプルなデザインで、表面はホワイトチョコでハートの柄が入っていて下はダークチョコのようだ。
俺はというと、ドライフルーツが混ぜてあるホワイトとダークチョコが3つずつ。
「…いつきからのはいつも通りハイクオリティだとして、長谷部のはシンプルだな?
一個食べてみろよ。」
「そうですね…鯰尾、俺に渡して捨て台詞みたいな感じで
『一個にちょっと仕掛けがあるから!』
って言ってたんで少し怖いんですけど…。」
そう言いつつ長谷部が一つ手に取り口に入れると、少しして眉間に皺をよせた。
「…どうした、なんか変な味でもするか?」
「…いえ、なんか入ってます。金属…?」
長谷部が取り出してみると、その手には金に輝く小さなコインが乗っていた。
「それ、フランスの伝統菓子ガレット・デ・ロワを参考にしたんだな。
本当はデカいケーキやパイに一つだけ入れといて、大人数で分けた時に当たった人に幸せが訪れるってやつなんだけど。
初っ端から当たるなんて運良いじゃん。」
「そんなものがあるんですね…俺もなんかサプライズ用意しないとかな…。」
長谷部は平和に済んだからいいとして、有賀は…やっと復活したか。
「ほら有賀、せっかくいつきが作ってくれたんだから食べてやれよ。返すのは大変だろうけど…。」
「…そうですね、俺のためにいつきが作ってくれたものですから。」
有賀が一口食べたのを見て俺も一つチョコを口に放り込んだ。
流石百瀬、上手くできてる。
さて、どんなのを返すか今から考えとかないとな。
…今年くらいは作ってやるか。
…いつきに特訓頼もう。
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