アナザーサイトファインダー

ひがさ

疑惑の目

 『この力』が目覚めたのは10歳の頃だった。
 触れられない、干渉できない、ここではない『ずれた次元を見る』能力。
 なんの前触れもなく、僕の視界には別世界の物語が展開される。

「…なんで、こんなものが」

 廃工場で魔法少女達の戦いを鑑賞した翌朝、視界の隅で揺れる『地縛霊』を尻目に億劫そうにため息をつく。

 思えば初めてこの力で見たものがこの幽霊の類だった。当時小四だった僕は死ぬほどビビっていた。(その時はすぐに見えなくなったから本当によかった)

 部屋を漂う地縛霊を無視して着替えを始める。どうせあちらに僕は見えていないし、僕も触れることはできない。部屋に置いてある動く人形とでも思った方がいいだろう。(それもなかなかホラーだが)

 軽い朝食を終えて学校に向かう。その間また何体かの幽霊を見た。今日は幽霊が見える日…朝から気が重い。正直帰って明日まで寝たい気分だが部屋にもまた1人アイツがいるため、アイツと1日過ごすハメになる。

 ほんと、見えるって不便だ。見えるってのに触れることも話すこともできやしないからもっと不便だ。

 最悪の気分で足を進めていると学校に到着。校門の前で挨拶する生活指導の教師と柔道部の坊主頭達に適当に「あ゛ぁ゛す…」と唸って(挨拶のつもりだ)教室へ。

 2年2組の教室にはもう半分くらいの生徒が来ていた。

「おはよーさんっ!…うおっ!?今日も酷い顔してんなおい…」

「るせー…アレだ。昨日2時間しか寝てないの」

 挨拶するやいなや僕の顔を見てぎょっとするこいつは羽島国光はしまくにみつ。茶髪をピンで留め、爽やかで整った顔立ちと取っ付きやすい軽い性格で女子にも男子にも人気がある。こいつとは小学校から一緒だ。

「んで、また例の幽霊でも見たっての?怖くて寝れなかったか?」
「違うっての。だからあん時は幻覚見ただけだってば」
「怖いこと言い出すんだもんなぁ急に。『人が!血まみれの人が!』って必死に青ざめた顔で言ってんだもんな。いやー怖いよなぁ…ぷくくっ…」
「笑ってんじゃねぇか!?」

 こんな感じで、俺の力を信じている人間はいない。たとえ長年の付き合いであっても、親ですらも知らないし、信じない。(というか親に言ったらヤバめの病院に連れていかれた)

「…おっ、顔色戻ってきたか」

「怒らせて赤みを取り戻すとは荒療治じゃねぇか国光先生…」

「なんだよ怒るなよ。小さい頃なんて誰だって笑えるような時期あるもんだからよ」

「それを無闇に掘り起こす必要は無いよな?」

「思い出ってのはたまに起こしてやらねぇと消えていっちまうものだからな…」

「切なげに言うな。あともう消してやれ。俺のために」

 キーンコーンカーンコーン…
 電子的なチャイムがスピーカーから鳴る。ホームルーム開始5分前の予鈴だ。見ればクラスメイトはだいたい揃っていた。

「っと、もうこんな時間か。悠太、今日の宿題なんかあったっけ?」

「忘れるなよ…昨日英語の課題出てたろ?」

「やっべ!?完全に忘れてた…見せて!」

「僕の黒歴史をこれ以上掘り返さないと誓え」

「誓いますっ!だから急いで!?」

「よろしい。過去は忘れても課題は忘れるな」

「ありがとっ!!」

 そう言って自分の席で大急ぎで僕の課題を写し始める国光。
 冗談はキツいが、気楽で愉快でいい奴だ。

「いい奴なのに…な」

 昨日の廃工場を思い出す。そこには先程話していた羽島国光の姿があった。

 少女を追い詰める、悪の組織の幹部として。

 …そう。僕が見るのは『ここではない別次元』。同じ像に重なった別世界だ。そこには人がいるし、同じ顔をした別次元の同一人物だって存在する。

 爽やかだった顔に狂気の笑みを浮かべ、動けない少女に銃を向ける姿があった。

 頭を振って嫌な考えを振り払う。確かに別次元の同一人物であっても、異なる世界を歩んだ別の『彼』。同一存在ではないのだ。そして僕の友達は、そんな顔は浮かべない。

「ほんと…嫌な目だ」

 友達の見方すら変えてしまうような。そんな酷い目が僕の能力だ。

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