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Each other's backs

有賀尋

Darkened confession

今年の夏も任務が舞い込んできてあっという間に過ぎ去ろうとしている。単独任務が主で、なかなか構ってやる暇もなかったし、寂しい思いをさせていた。
ちょうど休みが取れた日、暑いのに膝に乗って来たがったいつきを膝に乗せて調べ物をしていた時に夏祭りがあることを知って、たまにはいいか、と誘ってみる。

「なぁ、いつき。夏祭り行かないか?」
「夏祭り?」

振り向いて首を傾げる。

「そうか、お前知らないのか。今日この近くであるらしい。行ってみないか?」
「夏祭りかぁ…楽しそう、行ってみたい!…あ、これ着てみたい」

指さしたのは、浴衣だった。
小さい頃に1度だけ着た覚えがあるだけの浴衣であまり思い出のない俺だったが、いつきにとっては初めての夏祭りになる。任務で会えなかった分、わがままに応えるのもいいだろう。

「ん、わかった。でも俺持ってないしなぁ…」
「母さんとか持ってないかな…。聞いてみようか」

立ち上がってリビングに向かうと、百瀬さんは尋を抱いて寝かしつけていて、雛森さんはPCで作業をしていた。

「母さん、浴衣ない?」
「浴衣?何するの?」
「今日夏祭りあるみたいで、いつきにとっては初めての夏祭りだから浴衣着ようって話になったんです」
「あら、そうなの?2人分よね、あったかしら…」

と、百瀬さんは考え込んでしまった。

まずい、困ったお願いしたかな…。

「ないならいいですよ、レンタルあるし…」
「俺のでいいなら1着着てないのがある。それでいいならやるよ」

雛森さんがPCから目を離さずにそう答えた。

「…確かあったはず…尋ちゃん寝たら探すからちょっと待っててくれる?」
「うん、大丈夫。それまで俺達部屋にいるよ」
「分かったわ」

部屋に戻ると、いつきはソワソワしていた。

「どうした?」
「え?」
「落ち着きがない」
「楽しみでさ。初めての夏祭りが涼と一緒に行けるなんて嬉しくて」

しばらくして百瀬さんが浴衣を2着持って部屋に来てくれた。

「遅くなってごめんなさいね、探したらあったわ。どちらを着ても似合いそうだけど、どっちがいいかしら?」

と、浴衣を見せてくれた。
1着は黒、もう1着は紺色で確かにどれを着ても似合いそうな気がしていた。

「こっちの黒いのは雛森で、紺色は私のよ。どちらがいいかしら?」
「俺こっちがいいな、この紺色のやつ」
「似合うと思うわ、着付けしてあげるから脱いで」

いつきは指示に従って服を脱ぎ、百瀬さんが手際よく着付けしていく。紺色の浴衣はいつきに似合っていた。

「あら、似合うじゃない。その浴衣あげるわ。長く着られそうだし」
「いいの?やった!」
「次は有賀君ね、服脱いで」
「あ、はい」

俺も服を脱ぐ。そして浴衣を着せてもらう。

「あら、有賀君も似合ってるわ。雛森あげるって言ってたし、貰っちゃいなさい」
「涼かっこいい…」
「ありがとうございます、お言葉に甘えます」
「やっぱり2人とも似合うわね。私の捨てないでいて正解だったわ。流石に下駄はないから途中で買ってちょうだいね」
「うん、わかった。涼、行こう!」

財布を持っていつきが手を引く。引っ張られてサンダルで向かう。途中で下駄を買って履き替えて川沿いに向かうと、屋台がずらりと並んでいる。

こんな雰囲気も久しぶりだ。

いつきと手を繋いで歩くと、いつきは目を輝かせながらあたりを見回していた。

「すごい…色々あるんだね…!」
「食べたいものとかあるか?」
「えー…どれも美味しそう…」

見事に祭りマジックに引っかかっているいつきを見て思わず笑ってしまった。

でも、いつきが楽しそうで何よりだ。

しばらく見て回ったり食べたりして時間を潰す。すれ違う人が俺達を振り返っていく。だがそんなことはお構いなしにする。いつきと一緒で何が悪い。
休憩で土手に座りながらゆっくり話をする。たまにはこんなふうに過ごすのも悪くない。

「ありがとう、誘ってくれて」
「いや、俺も全然構ってやれなかったしな」
「仕事だし、仕方ないよ。確かに寂しかったけど…」

その時、目の前が明るくなり、直後に腹の底に響くような低く大きな音が鳴る。
夜空に咲く火花の華。すぐそばの川の水面には花火が揺らめいて映る。花火を見たのは久しぶりだ。

「すごい…綺麗だ…」

初めて花火を見たいつきはここに来た時よりもさらに目が輝いていた。そっといつきの手を繋ぐ。繋ぐのが当然と言うように、繋ぎ返してくれる。
しばらく花火を見あげた。1人で見る花火よりも、こうして見る花火は一段と綺麗で、儚く見えた。

「…まるで、俺達みたいだね」
「…は?」
「俺達ってさ、死ぬ時はサクラの様に散るでしょう?花火もそうだなと思って。たった一瞬綺麗に輝いて、消えていくのは俺達と同じだなと思ってさ…」

花火のように散るのは一瞬。
俺達サクラの死に際と同じだ。
だからこそ、俺は後悔したくない。

「…なぁ、いつき」
「…なに…?」

花火が上がってしまう前に。伝えたいことがあるんだ。いつきを見つめると、見つめ返してくれた。

「俺、お前の事がー」

ちょうど大事な言葉に被せるように今までよりも一段と大きな音が鳴る。声に出していたのに。ただの口パクになってしまった。

「大きい…!すごいね、涼!」
「あ、あぁ、そうだな…」

なんてタイミングの悪さだ。なんでこうなる。

内心聞こえなくてよかったと思う反面、タイミングの悪さに頭を抱えた。
あの花火がフィナーレの初発だったようで、夜空にたくさんの花火が打ち上げられた。しばらく見上げ、最後の花火が打ち上がり、ぱっと光って儚く散る。

「すごかったね…感動した…」

家に帰る道すがら、手を繋いで歩く。

「初めての夏祭り楽しかったか?」
「うん!ありがとう、涼」
「どういたしまして」

にっこり笑ってくれるいつきを見ると、連れて行ってよかったと思った。

「あ、ねぇ、涼」
「ん?」
「あの時なんて言ったの?最後の方花火で聞こえなかったから、もう1回言って?」

ー言えるか、あんな事。

「…言わない」
「え?」
「教えねぇ」
「えー、涼のケチ」
「ケチで結構」

ーお前の事が好きだ。ー

教えてよ、とせっつかれても俺は言わないとだけ言っておいた。

…まだこの関係のままで。

無惨にも消された告白は、夏の終わりを告げるとともに、秋の訪れを呼び込んだのだった。

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