Each other's backs
Eyes for the first time
暦の上ではもうすぐ秋になるのに、残暑と言うにはまだまだ程遠い。
「ねぇ雛ちゃん、今日お祭りあるんですって。尋ちゃん、 連れて行ったことないし、行ってみない?」
俺は久しぶりに休みが取れたと思ったら、面倒な調べ事をさせられる羽目になり、リビングで作業していた。
そういえば鯰尾はさっき百瀬に浴衣を着付けしてもらって長谷部と出ていったし、いつきと有賀も浴衣を着ていった。
作業の手を止めて、百瀬の方を見る。
「祭り?」
「そう、結構大きいみたいでね、最後に花火も上がるみたいだし、屋台もたくさん出るみたいなの。あの子達みんな行くみたいだし、私達も行きましょ?」
尋はというと昼寝中で、涼しい場所で百瀬がうちわで扇いでいる。
「それはいいけど、尋泣かないかな、花火で」
「大丈夫よ、雛ちゃんがいるもの」
「…どうしてそれが大丈夫だという証拠になるのか甚だ疑問なんだが…」
尋が昼寝から起きてから行こうという話になった。
「お祭りと言えば浴衣よね。雛ちゃんには前買ったのあったわよね、あれ出しましょうか」
「俺も浴衣着るの?百ちゃんは?」
「着るわよ?着ないわけないでしょ?買ったのあるもの。尋ちゃんのは確か甚平があったはずだし…」
と嬉しそうに考え出す百瀬を見ていると、何故か微笑ましくなる。
調べ事を終えると、百瀬は準備を始めた。
「雛ちゃん、先に着付けしちゃうわ」
「うん、わかった」
大人しく脱いで指示に従う。浴衣の方が涼しい。
「うん、似合ってる。しばらく尋ちゃん見ててくれる?あたしも着替えちゃうから」
そういうと百瀬は部屋に戻っていった。俺はしばらく尋をうちわで扇いだ。少しすると尋が起きた。
「おとーさん…?お洋服じゃない…」
「おはよう尋、起きたな」
尋を抱き上げてしばらくすると、百瀬が戻ってきた。
「あら、尋ちゃん起きたのね」
「少し前に起きたところ。…百ちゃん似合ってるよ」
百瀬は本当に女物が似合う。
抜襟で見えるうなじが綺麗だ。
「おかーさん…?おかーさんきれい!」
尋が目を輝かせて百瀬を見た。
「あら嬉しい、ありがとう尋ちゃん」
「尋のもあるぞー?」
「僕のも!?」
尋を下ろすと百瀬は手際よく尋に甚平を着せた。
「わぁ…!おとーさんおかーさん、似合う?」
「うん、似合ってる」
「可愛いわよ、尋ちゃん」
「じゃあそろそろ行こうか」
へへー、と嬉しそうに笑って抱っこをせがんでくる。
抱き上げて、俺と百瀬は下駄を履き、尋には草履を履かせて歩いた。
しばらく歩くと、人で賑わい、屋台がずらっと並んでいる通りに出た。
「すごーい…」
「すごい人ね、はぐれたら会えなくなりそうだわ」
「そうだな、じゃあこうしようか」
片腕に尋を抱き、もう片方の手で百瀬の手を握る。
少し驚いた様子の百瀬がそっと握り返してくれる。
「でもそうしたら雛ちゃん両手塞がっちゃってるじゃない」
「大丈夫だよ、お前とはぐれないようにするのが優先」
「なによそれ」
ふふっと百瀬が笑う。
「とりあえず回ってみようか。尋、食べたいものがあったら教えるんだぞ?」
「うん!」
人は多いものの、訓練しているせいかすり抜けるのは得意だ。手を繋いでいても、尋を抱いていても出来る。人の速さに合わせながらすり抜ける。
「おとーさん、あれなぁに?」
尋がりんご飴の屋台を指さした。
「あぁ、りんご飴っていうんだよ。尋が好きなりんごの飴なんだ」
「りんごの飴食べたい!」
「わかった」
りんご飴の屋台で小さめのりんご飴を買うと、屋台の人が尋に渡してくれた。
被せてある袋を取り、尋が一口舐める。すると尋は興奮したようだった。
「おいしー!りんご飴おいしいね!」
「美味しいか?よかったな」
「尋ちゃん、お母さんにもちょうだい?」
「はい!」
百瀬と尋のやり取りが一番平和だった。りんご飴を頬張る尋を百瀬は写真を撮っていた。ゆっくり歩きながら焼きそばを買ったり、射的をやったりしながら楽しむ。
「おとーさんあれほしい!」
尋が指さしたのはお面の屋台で、戦隊モノやキャラクターのお面、おかめや天狗、ひょっとこや、狐も売っていた。
「お面か、どれがいい?」
「んー…あれ!」
尋が指さしたのは猫のお面だった。
「猫さんでいいの?他にもあるわよ?」
「猫さんがいい!」
猫のお面を買って尋に斜めにかける。
「可愛いわよ、尋ちゃん」
「ほんと?」
「あぁ、可愛い」
その後は写真を撮ったり、屋台を回ったりした。
またしばらく歩くと、大きな音がした。
尋は案の定肩を跳ねさせて俺にしがみついた。
「尋、怖くないからお空見てごらん?」
「お空…?わぁ…!」
空には大きな花火が上がり、夏の夜空を彩っている。
…花火なんて、いつぶりだろう。
最後に花火を見たのは…いつだったかな。
「綺麗ね、雛ちゃん」
「…あぁ、綺麗だ」
ふと尋を見ると、尋の目に花火が映っている。
初めての花火に興奮しているのか、ただただ見上げていた。
花火が終わって家に帰る途中で、尋は寝てしまった。よほど楽しかったのか、寝顔は笑っているように見えた。
「尋ちゃん、笑ってるわ」
「楽しかったんだろうな。初めての夏祭りだったし」
「そうね」
百瀬の手を離すことなくゆっくり歩いた。
「…なぁ、百ちゃん」
「なぁに?」
「来年も、また行こうか。尋連れて」
微笑んでそう言うと、百瀬も笑い返してくれた。
「そうね。でもたまにはふたりでデートしたいわ」
「今度はどこに行きたい?」
「そうねぇ…」
百瀬と2人で次はどこに行こうかと話をする。
この先もずっと、こうしていくんだろうな。
夏の夜空を見上げて、俺達は幸せを噛み締めていた。
「ねぇ雛ちゃん、今日お祭りあるんですって。尋ちゃん、 連れて行ったことないし、行ってみない?」
俺は久しぶりに休みが取れたと思ったら、面倒な調べ事をさせられる羽目になり、リビングで作業していた。
そういえば鯰尾はさっき百瀬に浴衣を着付けしてもらって長谷部と出ていったし、いつきと有賀も浴衣を着ていった。
作業の手を止めて、百瀬の方を見る。
「祭り?」
「そう、結構大きいみたいでね、最後に花火も上がるみたいだし、屋台もたくさん出るみたいなの。あの子達みんな行くみたいだし、私達も行きましょ?」
尋はというと昼寝中で、涼しい場所で百瀬がうちわで扇いでいる。
「それはいいけど、尋泣かないかな、花火で」
「大丈夫よ、雛ちゃんがいるもの」
「…どうしてそれが大丈夫だという証拠になるのか甚だ疑問なんだが…」
尋が昼寝から起きてから行こうという話になった。
「お祭りと言えば浴衣よね。雛ちゃんには前買ったのあったわよね、あれ出しましょうか」
「俺も浴衣着るの?百ちゃんは?」
「着るわよ?着ないわけないでしょ?買ったのあるもの。尋ちゃんのは確か甚平があったはずだし…」
と嬉しそうに考え出す百瀬を見ていると、何故か微笑ましくなる。
調べ事を終えると、百瀬は準備を始めた。
「雛ちゃん、先に着付けしちゃうわ」
「うん、わかった」
大人しく脱いで指示に従う。浴衣の方が涼しい。
「うん、似合ってる。しばらく尋ちゃん見ててくれる?あたしも着替えちゃうから」
そういうと百瀬は部屋に戻っていった。俺はしばらく尋をうちわで扇いだ。少しすると尋が起きた。
「おとーさん…?お洋服じゃない…」
「おはよう尋、起きたな」
尋を抱き上げてしばらくすると、百瀬が戻ってきた。
「あら、尋ちゃん起きたのね」
「少し前に起きたところ。…百ちゃん似合ってるよ」
百瀬は本当に女物が似合う。
抜襟で見えるうなじが綺麗だ。
「おかーさん…?おかーさんきれい!」
尋が目を輝かせて百瀬を見た。
「あら嬉しい、ありがとう尋ちゃん」
「尋のもあるぞー?」
「僕のも!?」
尋を下ろすと百瀬は手際よく尋に甚平を着せた。
「わぁ…!おとーさんおかーさん、似合う?」
「うん、似合ってる」
「可愛いわよ、尋ちゃん」
「じゃあそろそろ行こうか」
へへー、と嬉しそうに笑って抱っこをせがんでくる。
抱き上げて、俺と百瀬は下駄を履き、尋には草履を履かせて歩いた。
しばらく歩くと、人で賑わい、屋台がずらっと並んでいる通りに出た。
「すごーい…」
「すごい人ね、はぐれたら会えなくなりそうだわ」
「そうだな、じゃあこうしようか」
片腕に尋を抱き、もう片方の手で百瀬の手を握る。
少し驚いた様子の百瀬がそっと握り返してくれる。
「でもそうしたら雛ちゃん両手塞がっちゃってるじゃない」
「大丈夫だよ、お前とはぐれないようにするのが優先」
「なによそれ」
ふふっと百瀬が笑う。
「とりあえず回ってみようか。尋、食べたいものがあったら教えるんだぞ?」
「うん!」
人は多いものの、訓練しているせいかすり抜けるのは得意だ。手を繋いでいても、尋を抱いていても出来る。人の速さに合わせながらすり抜ける。
「おとーさん、あれなぁに?」
尋がりんご飴の屋台を指さした。
「あぁ、りんご飴っていうんだよ。尋が好きなりんごの飴なんだ」
「りんごの飴食べたい!」
「わかった」
りんご飴の屋台で小さめのりんご飴を買うと、屋台の人が尋に渡してくれた。
被せてある袋を取り、尋が一口舐める。すると尋は興奮したようだった。
「おいしー!りんご飴おいしいね!」
「美味しいか?よかったな」
「尋ちゃん、お母さんにもちょうだい?」
「はい!」
百瀬と尋のやり取りが一番平和だった。りんご飴を頬張る尋を百瀬は写真を撮っていた。ゆっくり歩きながら焼きそばを買ったり、射的をやったりしながら楽しむ。
「おとーさんあれほしい!」
尋が指さしたのはお面の屋台で、戦隊モノやキャラクターのお面、おかめや天狗、ひょっとこや、狐も売っていた。
「お面か、どれがいい?」
「んー…あれ!」
尋が指さしたのは猫のお面だった。
「猫さんでいいの?他にもあるわよ?」
「猫さんがいい!」
猫のお面を買って尋に斜めにかける。
「可愛いわよ、尋ちゃん」
「ほんと?」
「あぁ、可愛い」
その後は写真を撮ったり、屋台を回ったりした。
またしばらく歩くと、大きな音がした。
尋は案の定肩を跳ねさせて俺にしがみついた。
「尋、怖くないからお空見てごらん?」
「お空…?わぁ…!」
空には大きな花火が上がり、夏の夜空を彩っている。
…花火なんて、いつぶりだろう。
最後に花火を見たのは…いつだったかな。
「綺麗ね、雛ちゃん」
「…あぁ、綺麗だ」
ふと尋を見ると、尋の目に花火が映っている。
初めての花火に興奮しているのか、ただただ見上げていた。
花火が終わって家に帰る途中で、尋は寝てしまった。よほど楽しかったのか、寝顔は笑っているように見えた。
「尋ちゃん、笑ってるわ」
「楽しかったんだろうな。初めての夏祭りだったし」
「そうね」
百瀬の手を離すことなくゆっくり歩いた。
「…なぁ、百ちゃん」
「なぁに?」
「来年も、また行こうか。尋連れて」
微笑んでそう言うと、百瀬も笑い返してくれた。
「そうね。でもたまにはふたりでデートしたいわ」
「今度はどこに行きたい?」
「そうねぇ…」
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この先もずっと、こうしていくんだろうな。
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