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Each other's backs

有賀尋

The gift instead of chocolate

立春を暦の上で過ぎても、春の兆しは一向に訪れを感じない。

そんな時でも、この日はやって来る。

そう、バレンタインデーだ。

「涼!おはよう!はいこれ!」

朝、涼が自分の家を出る時に箱を渡した。
もちろんそのまま持って行ってもらうため。涼はチョコが得意じゃないから今年はムースにした。もちろん、チョコに比べればかなりの手抜き。

「…は?え?なんだよこれ」
「いいから持ってって!涼はチョコ得意じゃないから趣向を凝らしてみたよ!あ、でも手抜きだから期待しないでね!」
「あ、あぁ…ありがとう…?」

訝しげに箱を受け取って涼はチャーチに向かった。今日は瑠衣との手合わせだと言っていた。

そして、もう1つ。
前は涼が運転で飲ませてあげられなかったから、今日は大いに飲んでもらおう。

ー涼、行かない?

一応メールを送ってみる。返事が早い方ではない涼だから、少し気ままに待ってよう。そう考えて、しばらく返事を待った。手合わせが終わるまでは来ないだろう。
2時間待って、ようやく端末が鳴った。

ー分かった、先に行く。いつもの場所でいいか?
ーえ、一緒じゃないの?
ーここから行った方が早い
ーそっか、わかった

多分涼は今日が何の日なのかを忘れているはずだ。
朝だって不思議そうに箱を受け取ったくらいだし。
だって、こういう事に興味が無いんだもの。
だからきっかけはいつも俺で、言われないと気がつかないし興味もない。もう少し興味持ってくれてもいいんじゃないかなとは思うけれど、強いるのもな、と思うし、強いらないようにしている。

涼はチャーチから行った方が早いと言った。

大して家から距離変わらないんだけど。

でも都合がいい。プレゼントがバレなくて済む。
俺達の行きつけのバルは家から少し離れていて、電車でも行けなくなはいけど大体終電を逃してしまう。最初は父さんが送迎してくれると言ってくれたけど、尋がどうにも離してくれなくて、長谷部が送迎しますよ、と申し出てくれた。

「ごめんね長谷部」
「いえ、お気になさらず。楽しんできてください。終わったら連絡いただければ迎え来ますから」
「わかった。長谷部は鯰尾からなにか貰った?」
「俺は鯰尾から嗜好の凝らされたチョコでした。雛森さんに聞いたら、フランスのお菓子をちょっと変えたやつだって言ってました。チョコにコイン入ってて」
「あぁ、ガレット・デ・ロワね。鯰尾『長谷部を驚かせるんだ!』って頑張ってたから」
「去年のロシアンルーレットよりマシですよ。お返し俺も考えないとなぁ…。着きましたよ、ここでしたよね」

俺達の行きつけのバルの前に着いて、俺は車を降りる。

「じゃあ後で連絡するね」
「分かりました」

長谷部が戻るのを見届けて、俺は店の中に入る。
少し見回すと、奥の席に見慣れた背中を見つけた。
飛びつきたい気持ちを抑えて、俺はそっと近づいた。

「涼しい風が吹きますか?」
「…任務じゃないぞ、バカ」

涼と外で会う時の合言葉。よく任務で使っているのだけど、たまにこうして使ったりもする。怒られるけど。

「ごめんね、待った?」
「待ってない。今来たところだ」

机の上にはまだ何もなかった。本当に今来たのか、何も注文せずに待っていたか。涼の事だ、多分しばらく待っていてくれたんだろう。
いつもの通りに注文する。
涼はハイボール、俺はカクテル。つまみは唐揚げやチーズ。

「とりあえずお疲れさま」
「お前もな」

グラスを合わせて乾杯する。

「そういえば、食べてくれた?」
「あぁ、美味かった」
「ならよかった!」

お菓子作りは嫌いじゃない。涼が食べてくれるから。
それに、涼が言ってくれる「美味かった」が聞ければいい。

「ところで、どういう風の吹き回しだ?」
「何が?」
「お前から誘ってくるなんて珍しいからな。なんかあったのかと思って」

既にグラスを空にして、唐揚げをつまんでいる。

「あぁ、別に、何かあったわけじゃないけど…。この間涼飲めなかったし、どうかなって」
「けど、あの後飲んだだろ」
「家でね。でも俺潰れたしさ。たまにはゆっくりふたりで話したいなって」

最近まで涼は単独任務に行っていて、なかなか連絡も取れなかったし、家に来ない日が続いていたから正直寂しかったのもある。

「話すって言っても、特に話すことなんか…」
「最近仕事ばっかりだったじゃん、その話聞きたい」
「…あー…その話か…」

ぽつぽつ飲みながら話をしてくれた。もちろん、聞いた人には普通の会話に聞こえるような感じで。
ナンパもあるけど、涼がすごい形相で睨むから、相手がすごすごと帰っていく。

「…ねぇ涼、今日何の日か知ってる?」
「ふんどしの日」

なんでそんな日だけは覚えてるんだろう。

「そっち?」
「嘘だ、バレンタインだろ」

覚えていたことに少し驚く。

「覚えてたんだ?」
「手合わせ終わってから瑠衣がチョコを求めてチャーチの中を走り回ってたのを見て思い出した。あのムースもバレンタインだろ、ありがとう。あの後珀さんが来てチョコ配っていった」

…やっぱり。

いつもあとから思い出すんだから。
でも、珀さんが来てたんだ…。
行けばよかった。

「あのさ、涼…」
「ん?」
「実は…これ…」

俺は涼に包装された包みを渡した。
しばらく驚いた顔をしていたけど、受け取ってくれた。

「ありがとう。…開けていいか」
「…うん」

涼が箱を開けると、また更に驚いた顔をしていた。
俺が涼にあげたのは、俺のタグと、俺と涼の名前が入ったタグ。

「お前…これ…」
「涼のタグは俺がずっと持ってるでしょ?でも、俺のタグ渡してなかったなって思って。それに、鯰尾と長谷部が2人の名前が入ったタグ持ってて、いいなって思ってもいたから…」

涼がタグをくれたのは「決意」だと言った。なんだか俺に決意がないように思えて悔しかった。お互いに背中を合わせて戦っているのに。俺にそんな決意がないと思われたくない。

だから。

「遅くなったけど、俺も涼にタグ預けるよ。決意だと思って預かってくれる?」
「それは…いいけど…こっちは?」
「そっちは単純に涼は俺の涼だって思わせたいだけ」
「なんだそれ」

ふっと笑うと、涼は両方のタグを首から下げた。

「ありがとう、お前の決意受け取る」
「うん!じゃあ飲もう、潰れても大丈夫なようにしてあるし」

こうしてバレンタインの夜はどんどん更けていった。
結局あの後は2人で酔いつぶれて、長谷部に迎えに来てもらった。

君の背中は俺が守る。

揺れる車の中で、俺は隣にいる涼の肩に頭を預けた。

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