Each other's backs

有賀尋

Gift of fate

「おとーさん!おかーさん!見てみて!」

久しぶりの休みに公園ではしゃぐ息子を見て大きくなったなぁとしみじみ思う。

「どうしたの尋ちゃん?」
「アリさん!」
「あら、ほんとね」

息子は俺達を本当の両親だと思っている。自分の生い立ちは、息子にとって知らない方がいいのだ。





あれは東京では珍しく雪が降った年の瀬。
下部組織が襲撃を受けたと連絡が入り、俺達は郊外に向かっていた。年の瀬はこういったことがやたらと多い。

「せっかくの年の瀬なのになー」
「仕方ないじゃない、緊急なんだもの」

向かう車の中では、コンビを組む百瀬が隣に座っていた。大体、下部組織の襲撃に俺達が手を加えることはほとんどないはずだ。

「まず、なんで俺達が行かないといけないんだ、ほとんど手を加えないのに」
「情報によると、組織のトップが襲撃を受けたらしいのよ。流石に見過ごせないからって一嶋さんが言ってたわ」
「なに、トップと一嶋知り合いなわけ?」
「そんなこと知らないわよ。とにかく行ってきてくれって言われたんだもの、行くしかないじゃない」

そうしてしばらく車に揺られて古い3階建ての建物の近くに車が止まる。
車を降りて中に入っていくと、既に1階は血の海になっていた。その中には襲撃を受けた側なのか襲撃した側なのかわからない人間が転がっていた。部下が1人の首筋に手を当ててしばらくしてから首を横に振った。

「ここは終わってるみたいね」
「そうだな。とりあえず上に向かうぞ」

2階も1階と同じような風景が広がっていた。どうやらここも既にやられたあとだったらしい。

「…ここも終わってるわ」
「…そうだな」
「雛森さん」

先に3階に進ませていた部下が戻ってきて状況を報告し始めた。

「どうだった」
「3階もダメです、既にやられた後で、トップとそのご婦人も既に亡くなっています。死後数日経っていると思われます」
「情報操作されていたか…」
「一足遅かったわね…」

一嶋に報告していると、どこからか赤ん坊の泣き声がした。

「あら?赤ちゃんの泣き声ね」
「見てきます」

部下が探しに向かい、俺たちも探した。そういえば、最近とある知り合いに子どもが生まれたって話を一嶋が何故か嬉しそうに話をしていた事を思い出した。

「雛森さん…百瀬さん…」

奥の部屋から部下が何かを抱えて戻ってきた。
あれは…

「あら、赤ちゃんじゃないの。泣き声はこの子ね、貸して」

百瀬が部下から赤ん坊を受け取り、なだめ始めた。

「どこで見つけた?」
「机の下で見つけました。こんな書き置きも…」

渡された紙には、名前、誕生日が書かれていた。
誕生日からして、まだ1歳にもなっていなかった。
最後に、『この子をよろしくお願いします』とも。

「どうしますか、雛森さん」
「どうするもなにも、保護するしかないだろ」
「そうね、このままにしておけないし、赤ちゃん衰弱してるから早く処置しないといけないし、何にせよ一嶋さんに報告しないといけないし」

「まずはここを離れるぞ、話はそれからだ」

建物から離れ、車に乗り込んだ。赤ん坊は百瀬の腕の中で穏やかに寝息を立てていた。

「お腹空いてたみたいで、ちょっと拝借してミルク飲ませたら落ち着いたわ。オムツも替えたし。あとは抱っこしてるからね。貴方も抱っこしてみたら?」
「いや、俺はした事ないし…」
「教えるわよ」

百瀬に抱き方を教えてもらい、そっと抱く。すると赤ん坊が目を開けて俺の方を見て手を伸ばしてきた。
百瀬が小さな手に指を持っていくと、指を握った。

「可愛いわね、ほっぺも柔らかいし。そういえば、この子名前あるの?」
「あぁ、尋だそうだ」

百瀬にメモを渡した。車の中で尋はずっと俺の腕の中で眠っていた。
チャーチについて、尋は部下が医務室のドクターの所へ、俺と百瀬は一嶋のところへ報告に向かう。

「…そうですか…あのご夫婦が…」
「赤ん坊が残っていました。衰弱していましたが、元気なようです」
「赤ちゃんは保護して、今は医務室にいます」
「わかりました、報告ありがとうございます。下がってください」

報告を終えて廊下を歩く。

「ねぇ、尋ちゃん見に行かない?」
「なんで」
「いいじゃない、何もないんでしょう?」

引っ張られて医務室へ行くと、チャーチでは普段なら絶対にしない赤ん坊の泣き声がする。

「おぉ、お前らいいところに来たな」

ドクターが抱きながらあやしていたが、泣き止む様子は一向にない。逆に酷くなっていく。

「尋ちゃん泣き止まないじゃない。ドクター怖いからじゃないの?」

と、百瀬がドクターから尋を受け取ってあやすと、落ち着いたのか泣き止んだ。

「いい子ね、泣き止んでくれたわ」
「お前を母親と思っているのかもな」
「ほら、雛森抱いてあげて」
「だから俺は…」
「いいから早く」

百瀬が尋を俺に渡すと、尋はニコッと笑った。

「あら、雛森が抱くと笑うのね。可愛い」
「お前を父親と思ってるのかもな」
「そんなわけないだろ、やめてくれ」
「あら、なかなか抱っこしてる姿板についてるわよ。貴方の尋ちゃんを見る目優しいし、お父さんって感じよ」
「一嶋さんに報告しといてやるよ」
「やめろって…!」

俺と百瀬はしばらく医務室に通う日々が続いた。医務室に通い続けて数日経つと、尋が俺と百瀬を本当の両親だと思い始め、医務室に行けば俺の事を「おとーさん」、百瀬の事を「おかーさん」と呼ぶもんだから、チャーチの中でもそう呼ばれるようになった。数日後、俺と百瀬は一嶋に呼び出された。
俺は命令の内容を聞いて驚愕した。

『百瀬とダミー夫婦になって尋を育てろ』と。

百瀬は乗り気だった。懐いているのは本当だったし、俺も悪い気はしなかった。不安なのはやったことのない子育てを出来るのかという事くらいだ。

「尋ちゃんと一緒に暮らせるなんてね。雛森も満更でもないんでしょう?」
「まぁ…そうだな」




百瀬と夫婦になって、尋が息子になって2度季節が回った。
百瀬が見守る中、尋が俺の袖を引っ張っていた。

「尋、どうした?」

俺は尋に目線を合わせて問いかけた。

「抱っこー!」

腕を広げて早く抱っこしろと言わんばかりの目線を投げてくる。

「はいはい」

俺は尋を抱き上げて百瀬と3人で公園を出た。

俺の手を離れるまでは、守っていこう。

改めて心にそう誓い、家に向かった。

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