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Each other's backs

有賀尋

Promise is a mezzanine BAR

ー いつもの場所で待ってる

大体このメモが渡される時は百瀬の潜入任務の時だ。
お互いメサイアを作らない俺と百瀬がよくこうして一緒に任務について、メサイアでもないのに助け合っていいのは特例中の特例だし、外でダミー夫婦として暮らしているのは一嶋も黙認しているし、むしろ一嶋の命令だからでもある。
詳しい任務の内容は後から聞くとして、俺は百瀬とすれ違いざまにメモを渡す。すると、次にすれ違う時に任務の内容が書かれたメモが入ってくる。

「今回の任務は…」

任務の内容を見て溜息をつく。

まぁ、百瀬だ、当然なんだろう。

時間の前に家に戻っても、百瀬はとっくにいなくなっていた。ここで着替えてもいいが、スーツは流石に目立つ。家で着替えるのをやめ、外で着替えることにする。
指定された時間通りに指定された場所に行く。そこはよく取引に使われるBARだ。
その中でカウンター席の端から1つ席を開けて座っている、背中がおおきく開いている赤いドレスを着て、長い黒髪に髪飾りのついた遠目から見ても一際目立つ女性だと思われる後ろ姿がある。それが百瀬だ。こう言うのはなんだが、百瀬はどちらかと言うと女に近い顔をしているし、メイクをすれば完全に女に化ける。

というか…あからさまに目立ちすぎだろ!

周りの目が百瀬に釘付けになっている。わかりやすくていいが、毎回声をかける俺の身にもなってくれ。

「お姉さん、おひとりですか?」

若めの男が百瀬に声をかけていた。よくあることだ。

「いいえ?人を待っているの」

まぁこれもいつものこと。
百瀬には、自衛用として指輪を渡してある。もちろんダミー夫婦を演じているからだ。俺にもある。しかし、チャーチでつけっぱなしにしているのを見た事がある。もはや自衛になっていない。

「じゃあその間俺と飲みませんか」
「嬉しいお誘いだけど…ごめんなさいね、旦那を待ってるの」

と、百瀬は指輪を見せていた。

仕方ない、そろそろ行くか。

俺はあたかも今来たかのように百瀬に近寄って、男に肩を組む。

「俺の妻に何してんの?」
「あら遅いじゃない」
「ごめんね、道路混んでて。…俺の妻をお前ごときが口説いていいと思うなよ」

男に耳元で低く囁くと男は真っ青になって離れていく。それもそのはずだ。俺は俗に言う美形らしく、女装している百瀬と並べると美男美女の周囲を圧倒するカップルに見えるらしい。

「今日も綺麗だね、百ちゃん」
「当然でしょ?貴方も素敵よ、私の見立てに間違いはなかったわ」
「さて、仕事の時間だ。行こうか」

百瀬の手を取り、エスコートして店を出る。すぐに人気のない裏路地に入り、歩きながら百瀬はドレスを、俺はスーツを脱ぎ捨てて仕事の服装になる。

「あーあ、もう少し着ていたかったわ」

残念がる百瀬を横目で見ながら、俺はサクラコートを直す。

「また着るだろ、移動であれは目立つ」
「ほんと嫌になっちゃうわね、一嶋さんセレクトよ、あのドレス。着るの大変なのに」
「あの人の性癖が垣間見える」 

移動した先は、裏路地を何本か歩いたところにある雑居ビル。百瀬の潜入任務が始まる。俺は何かあった時のヘルプだ。
横を見ると既に百瀬は着替え終えていて、また元のドレス姿に戻っている。

「ちょっと、後ろで首の紐結んでくれる?」
「はいはい」
エクステの黒髪を持ち上げて首の紐を結ぶ。女性と比べて体格はいいが俺と比べて線は細い。スポーツをしている女性と言っても怪しまれることはない。
首元のネックレスも、もちろん盗聴仕様になっていて、俺も聞こえるようになっている。

「はい、完成」
「ありがとう、さすが雛ちゃんね」
「なんかあったらすぐ呼べよ」
「分かってるわよ、じゃあ行ってくるわ」

颯爽とドレスを翻して中に入っていく百瀬を見送り、俺は物陰に隠れた。百瀬は完全に女になりすましている。相手にそっちの趣味はないはずだ。
しかし、しばらく経っても百瀬は出てこなかった。

おかしい。

いつもならもう任務を終えて出てきてもいいはずだ。
まさか、サクラだということがバレたのか?
最悪の場合を考えて、俺は銃を構え見つからないように進んでいった。
百瀬がいるであろう部屋の扉は不用心にも開いていて、そっと中を伺う。
百瀬はターゲットに組み敷かれていた。百瀬はたぶん女を装えという命令を忠実に守っている。そして、俺がここでこうして見ていることも、恐らく百瀬の計算内だ。
俺は静かにターゲットの正面に回り込んで銃を構えた。

「…いい加減離れろ」

俺は低く呟いてターゲットの脳天を撃ち抜く。後ろに綺麗に弧を描いて倒れ、俺は銃を下ろした。

「あたし1人で出来るから呼ばなかったのよ?」

ドレスを直して起き上がりながら百瀬が言った。

「遅いんだよ。大体、押し倒されてただろ」
「命令に従っただけよ、女を装えって言われたんだもの」

予想通りの答えに、俺はため息をついた。

「だと思った」
「ま、物は回収出来たし、ターゲットも殺れたし、任務終了ね」

帰りましょ、と百瀬はドレスを翻して歩き始めた。
なんでもないように見える百瀬の歩く姿。いいや、普通じゃない。

「百ちゃん、ちょっと」
「何よ?」

立ち止まったのをいい事に、俺はつかさずお姫様抱っこで抱きかかえた。

「ちょっと!雛ちゃん何すんのよ!」
「何すんのよってさ、百ちゃん怪我してるでしょ。モロバレ。右足庇いすぎ。捻挫したんでしょ」

いいからそのままつかまってて、と一方的に宣言してビルの階段を降りていく。

「ちょっと、おろして!」
「やだね。これ以上俺の奥さんに傷つけるの嫌だし」

そう言った後、急に百瀬は黙り込んでしまった。暗くて良く見えていないが、恐らく顔が赤くなっているんだと思う。

「…百ちゃん?」
「な、何言ってるのよ…!」
「いや、何って当然の事を言っただけなんだけど?ていうか、自分の奥さん傷ついて嬉しいやついないからね?」

そう言っても無言で叩いてくる百瀬の抵抗に耐えながら俺はビルの外に出た。

「今度飲み直すわよ」
「いいよ、付き合う。俺は飲めないけど」
「あたしこれ着たいのよね。雛ちゃんもあのスーツ着てくれるわよね?」
「えっ、本気?」
「たまにはいいじゃない、付き合いなさいよ」

任務が終わって数日後、新たにメモが渡された。

ーいつもの場所で待ってる。

指定された通りに行くと、そこには一際目立つ赤いドレスを身に纏った百瀬がいた。

「今日も綺麗だね、百ちゃん」

後ろから声をかけると嬉しそうに振り向いて笑ってくれたのだった。

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