異世界をギルティ&フェイムで人生謳歌

深谷シロ

三話:感謝 - Appreciate

僕とメルは市内にいた。日も暮れてきているので宿を探さなければ行けないが……後払いにして欲しい。出世払いというやつだ。


今、僕は1文無しだからね。


それはそうと。トボトボと僕の後について来ているメル。彼女にどう話しだそうかな……。


「あの!」「あのさ」
「「あっ……。」」


先程からこんな感じである。


「少し良い?」
「はい。」


良かった。やっとだ。今度こそ話すとしよう。


「君は……まだ盗賊じゃないよね?」
「……!何で分かるんですか?ナイフで殺されそうになったんですよ?」
「僕には少しばかり・・・・・特殊な能力ちからがあるんだ。それで君の職業が盗賊見習い・・・だという事を確認させてもらったんだ。」
「そうなんですか……。その時に名前も?」
「あ……うん。ゴメンね。」
「あ、いえ大丈夫です。助けて頂き、ありがとうございます。」
「どういたしまして。それで君はどうするの?」
「……」


行先は決めていなかったようだ。


聞くとメルはいつの間にか僕の後を付いてきたらしい。自分でも無意識だそう。


「僕は宿を取るつもりなんだけど……1文無しなんだ。」
「…………え?」


いや、驚くのは分かるけどさ。そんな露骨に顔に出さなくてもいいじゃないか……。


「あ、ごめん。」


メルは慌てて取り繕ったがもう遅い。僕の心は傷付いた。気にしてないけど。


「フフフ」「ハハハ」


互いのだらしなさに思わず笑いが込み上げてしまった。僕は1文無し。メルは盗賊の濡れ衣だ。似たもの同士だな。


「まずは君の名前を教えて?」
「僕の名前はミカサ・ミナトだよ。好きに呼んでもらって構わない。」
「じゃあ、ミナトって呼んでいい?」
「うん、いいよ。」
「私の事は……」
「名前と職業とスキルぐらいしか。」
「……意外と知ってるんだね。」


あ、ホントだ。うん。プライバシーの侵害だね。謝っておこう。


「ゴメン……。」
「いや、大丈夫だよ?私が助けてもらったんだし。それより私の……こんなだけど大丈夫?」
「もう1回言って?」


しかし、メルは首を振った。そして、人差し指で路地裏を指差した。


「話しにくい内容だから向こうで……いい?」
「分かった。」


出来るだけ警戒するとしよう。本当の盗賊だった場合は、何らかの対処が必要だろう。


ナイフは僕が奪ったままだけど、もう一本隠し持っている可能性だって十分にある。


路地裏に行くのは果たして吉と出るか、凶と出るか……。


「ここら辺でいい?」
「あ、うん。ここら辺なら聞こえないね。」


彼女は右手を懐に────ではなく、フードへ持っていき、フードを外した。


そこから見えるのは元はとても綺麗で可愛らしかったのだろうが、今となっては右半分が火傷で悲惨な事になってしまっている顔だ。


「私はさっき門番に言われたように顔が火傷でこんな事になってるの。ミナトが私と一緒にいると街の人から冷たい目線を浴びせられるかもしれない……。」


メルの表情には影が差していた。恐らく過去に実際に冷たい視線を何度も浴びせられたのだろう。もう少し話を聞いてみることにする。


「どうしてそんな傷を負ってしまったんだ?」
「私が小さい頃に盗賊に攫われた事があるの。それが私がつい最近まで一緒だった盗賊団なんだけど、攫われた時に私が脅されたの。盗賊に入れってね。」
「メルの盗賊系スキルのせいか。」
「多分ね。……その盗賊に私が嫌だと言ったら、私に火の魔法で攻撃したの。その時に顔に当たって出来た火傷。」
「という事は……もう何年もの間?」
「……うん。もう治らない、と思う。盗賊達からはそう言われていたから。」


いや、違う。それは盗賊達の戯れ言だろう。治ると言われれば、逃げ出して治療されては困るからでは無いだろうか。


「いや、それは違うと思うよ。」
「……どうして?」
「盗賊は君に逃げられたくなかったんだよ。君のスキルが貴重だったから。」


そう僕が言うと、彼女は表情を明るくした。


「……本当に?」
「100%とは言えない。だけど今の技術なら治せると思う。」


あくまでも可能性であることを告げておく。僕はまだこの世界について詳しくない。断言してはいけないのだ。


「うん……そうかも。うん。ありがとう!ミナト!」
「元気になったのなら良かった。……それでどうするの?」
「何処かの宿に泊まるんだけど……。」


メルもこの市内の事はあまり知らないらしい。じゃあ、聞いてみるか。


「【ヘルプ】。」


お馴染みの<補助プログラム>が起動した。僕は空中にAR表示されたキーボードで高速でタイピングをする。


メルが「あっ。」という声を出しているが、それは後回しだ。検索っと。


◇◇◆◇◇


【検索結果】


検索内容:シュナー市の宿屋一覧
検索結果:


シュナー市には3つの宿屋がある。
ここから近い順に
<メーシャの宿屋>
<メルセト宿>
啄木鳥キツツキの止まり木>


◇◇◆◇◇


僕は最後の<啄木鳥の止まり木>にした。


理由は簡単。一つだけ宿名が単純ではなかったからだ。


メルに伝える。


「僕は<啄木鳥の止まり木>という宿屋に行くんだけど、メルも行く?」
「あ、うん。……それよりさっきの何?」
「言ったじゃないか。僕の特殊な能力って。」
「スキルか何か?」
「そんな感じ。取り敢えず行ってみない?」
「分かったよ。」


僕は再度、<補助プログラム>で検索した。検索内容は『<啄木鳥の止まり木>までの地図』だ。


それを頼りに宿屋に辿り着く。


「ここみたいだね。うん、看板が掛かってる。」


扉横の看板には<啄木鳥の止まり木>と書かれてある。<自動翻訳>ですぐさま翻訳された。


「中に入ろうか。」
「うん。」


2人は中に入った。中は冒険者達だろうか、沢山の人で騒然としていた。宿屋の1階が食堂が付いているらしい。


入口付近で待っていると宿屋の女将と思われる美しい女性が声を掛けてきた。


「宿泊ですか?」
「はい。」
「1部屋ですか?」
「はい。」
「えっ!?」


隣で何か言ってるけど気にしない。


2部屋・・・でお願いします。」


再度、強調する。何かを期待しているメルには言葉を掛けない。


「わ、分かりました。では2階の奥の2部屋を使われてください。」
「ありがとうございます。」


宿屋の女将さんが多少引いていたが、それも気にしない。無表情を貫く。これぞポーカーフェイス!


『スキル<表情偽装ポーカーフェイス>を手に入れました。』


あーこんな感じで手に入れれるんだ。覚えておこう。


「じゃあ、メル行くよ?」
「……あ、うん。」


メルは見るからに表情が暗い。そして、気のせいか湿度が上昇している。段々とジメジメと……。


「……メル?」
「……」
「おーい、メル?」
「……」
「……」
「……なに?」


あ、聞いていたんだね。気づいていないのかと思ったよ。無視されている方が嫌だけど。


「今、湿度が急激に上昇しているんだけど、メルの魔法?」
「あ……ゴメン。」


メルが言った直後に湿度が急激に下がった。元の湿度と同じだ。メルは水の魔法を使うようだ。


「メルは水魔法を使えるの?」
「うん。水魔法については人並みに使うことが出来るよ。ミナトは?」
「まだ、どの魔法が使えるか調べたことが無いな。」
「……嘘でしょ?」
「いや、本当。」
「……嘘だよね?」
「いやいやー本当だよ。」
「……はぁ。」


仕方無いじゃないか!今日転生してきたばかりだよ?どうやって自分の使える魔法を調べるんだよ……。まあ、転生したなんて言えないけどさ。


「僕の生まれ育った家庭が魔法を嫌っていたからさ……。」
「じゃあ、私が魔法の話したの嫌だった?」
「僕は魔法が嫌いじゃないから大丈夫だよ。」
「良かった……。」


メルは先程から喜怒哀楽が激しい気がする。だからこそ可愛さが目立つのだが。因みにフードを被っているので表情は見えない。


「どちらの部屋を使う?」
「僕は……手前の部屋にするよ。」
「じゃあ、私は奥の部屋ね。」


2人はほぼ同時にそれぞれの部屋に入った。中は地球のホテルのような綺麗に整えられている訳では無いが、不潔では無い。


ベッドも汚くはなさそうだ。あの女将を見るに気がきく性格をしていそうだもんね。


最後にメルに言っておく。


「明日は食堂で集合ね。」
「分かった、また明日。」


そう言うとメルはすぐに部屋に戻ろうしなかった。何やら言いたそうだが、僕は待ってあげるほどまだ仲が良くない。ここは逃げるとしよう。


僕は部屋に戻り、扉を閉めた。メルがどのような表情をしていたのかは僕も知らない。


しばらくして、メルの部屋の扉が閉まる音がしたので、部屋に戻ったのだろう。


今は既に日が暮れている。ようやく転生して1日目が終わる。今日はひたすら歩いていたから疲れた。


転生してステータスが変わったからか、前世よりも疲れが少ない。だけど疲れたものは疲れた。


寝る前にステータスだけ確認しよう……。


「【ステータス】。」


◇◇◆◇◇


【ステータス情報】


名前:三笠ミカサ水斗ミナト
年齢:15歳
性別:男
種族:人間ヒューマン
職業:鍛冶師、魔物調教師モンスターテイマー
称号:転生者


レベル:2
経験値:10
有罪ギルティポイント:5
名声フェイムポイント:5
所有ポイント:20


レベルアップのために
必要な経験値:15
必要な有罪ギルティポイント:10
必要な名声フェイムポイント:10


取得スキル:
〈固有スキル〉
大賢者:レベル1
自動翻訳:レベル1
成長促進:レベル1


〈職業スキル〉
鍛冶:レベル1
魔物使役::レベル1


〈通常スキル〉
表情偽装ポーカーフェイス:レベル1


取得可能スキル:
>盗賊
>隠密
>敏捷
>跳躍
>無音


◇◇◆◇◇


またあの言葉だ。有罪ギルティポイントと名声フェイムポイント。未だに何なのか分からない。


こういう時はあれ・・だ。


「【ヘルプ】。」


お馴染みの<補助プログラム>が展開する。胸の前辺りにARキーボードが出現。それを使ってタイピングをして、検索。


◇◇◆◇◇


【検索結果】


検索内容:有罪ギルティポイントと名声フェイムポイントとは
検索結果:


有罪ギルティポイントとは、本人が行った罪の重さによって与えられるポイントの事。


名声フェイムポイントとは、本人の知名度によって与えられるポイントの事。


これら2つのポイントと経験値を合計したポイントを所有ポイントとして手に入れることが出来る。


手に入れた保有ポイントは、スキルレベルの上昇に使える。


スキルレベルの上昇に必要なポイントは、スキルレベル上昇後のレベル × 10である。


使用した所有ポイントはレベルアップ後にリセットされる。


◇◇◆◇◇


なんと所有ポイントとスキルレベルの説明までしてくれた。有り難いヘルプだなぁ。


有罪ギルティポイントと名声フェイムポイントが増えているのは、メルの罪を偽ったのと門番さんに知られた事だろう。


いつの間にかレベルが2になってるし、保有ポイントも20になってる。1つのスキルのレベルが上げれそうだ。どれを上げるかな……。


決めた。<大賢者>にしておこう。取り敢えず、これのレベルを上げるのがいい気がする。


ついでに手に入れられるスキルを全て手に入れておこう。


僕は【ステータス】という詠唱をして、画面を開く。そして、<大賢者>をタップして、【スキルレベルアップ】を押す。


ステータス補正が大きくなり、さらに成長促進効果が高まったようだ。


さらに取得可能スキルを全て取得。


一つ一つのスキルを押して、【スキル取得】をタップしていく。


スキルを追加する毎にステータスが変化する。また、最後には<盗賊見習い>が職業に追加された。


盗賊の使うスキルは意外と便利だったりするから嬉しい。今度、試してみよう。


それにしても眠たいな……。もう寝るかな。ベットに入っていると、いつの間にか寝ていた。


◇◇◆◇◇


【ステータス情報】


名前:三笠ミカサ水斗ミナト
年齢:15歳
性別:男
種族:人間ヒューマン
職業:鍛冶師、魔物調教師モンスターテイマー、盗賊見習い
称号:転生者


レベル:2
経験値:10
有罪ギルティポイント:5
名声フェイムポイント:5
所有ポイント:20


レベルアップのために
必要な経験値:15
必要な有罪ギルティポイント:10
必要な名声フェイムポイント:10


取得スキル:
〈固有スキル〉
大賢者:レベル2
自動翻訳:レベル1
成長促進:レベル1


〈職業スキル〉
鍛冶:レベル1
魔物使役::レベル1
盗賊:レベル1


〈通常スキル〉
表情偽装ポーカーフェイス:レベル1
隠密:レベル1
敏捷:レベル1
跳躍:レベル1
無音:レベル1


◇◇◆◇◇


夜中、誰かの気配がしたが、気にせず寝ているふりをした。


その誰かは僕が寝るベッドの横をウロウロと歩き回った後、部屋から出ていった。


翌朝起きて、食堂に行くと、既にメルは朝食を食べていた。


「おはよう、メル。」
「おはよう。」


朝食を食べているメルはどこか眠たそうだ。


「メル、昨日眠れなかったの?」
「……うん。」


メルの様子を見るに昨日は一睡もしていないのかもしれない。だけど僕には何かをしてあげれる程、僕はまだ自分に余裕が無い。


今の僕に必要なのは強くなる事だ。その為に僕は今日から異世界生活を後悔なきものにする。

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