勇者8度の世界で何思う

夢空

Sクラス配属式

終わった。

人数の割にはこのSクラス選抜戦は呆気なく終わってしまった。残った人数が3人になり試合の終わりを知らせるピピッという無機質な音だけが廊下に響きようやく俺の意識は現実に引き戻される。

(ロイスを斬ろうとしたとき…またあの感覚が…)

視界に靄がかかるような…。または現実味を無くしていく感覚と言えばいいのだろうか。

この感覚は初めてじゃない。人を斬る時、知り合いを斬る時いつもこんな感覚に襲われる。勝手に脳が認識しないようにしているのか分からないがそのおかげでロイスが最後どんな顔で斬られたのかは見えていなかった。


「そりゃとんでもないパッシブスキルだよ。

だって殺した相手の思いや感情を受け止めることすらしなくていいスキルなんだから。ほんと勇者様に1番必要な言葉通りの『チート』だね」と皮肉られたこともあった。


俺は自分の両手(木刀は魔力供給を止めるとボロボロと瓦礫となって消えた)をまじまじと見る。

Sクラス選抜戦を勝ち残ったと実感しているのではない。今まで何人の人間を手にかけてきたのか、そんな思い出すことをやめたものを考えていた。

「おめでとうございます。今からSクラス配属式を行うので勝ち残った生徒のみなさんは腕時計を見て第1ホールに集まってください」


そんな放送で終わりの無い考えをやめる。

息を一息付き、静かになった廊下を1人で歩く。

ふと周りを見る。

窓ガラスが割れ廊下は凸凹ができ教室からは黒い煙が出ていた。

瞬きをする度にどこかの戦場と重なり頭をズキズキと痛ませる。

「はぁ…」


何度かわからない溜息をつき俺は足早に第1ホールに向かった。







「ここ…だったよな」

俺は腕時計に移された全体図を見ながらながらホールになんとか到着した。

今はお昼の2時ぐらいだろうか。日の強さを感じ目を手で覆いながらあたりを見る。

学園内には負傷した生徒を医務室に運ぶためか白服があっち行ったりこっち行ったりしている。そんな中異様な人影がこちらに向かってきている。

よく見るとそれはシャロン=レイスピアとノイン=レイティアが首根っこ掴まれた状態で引きずられている。

ノイン=レイティアは車椅子に座っているので後ろ向きにゴロゴロと来ていた。

てか引きずっていたのはダルいという感情を全く隠さないタワさんである。


「あ、えっとたしかクロハだったか?

もうこれめんどくさいからあとは任せるわ

悪いがこん中の雰囲気苦手なんだわ」

タワさんは俺を見つけるなり2人から手を離してそそくさと逃げていった。


(あの人本当にこの学園の先生なのか?)

俺がジト目でタワさんの逃げる背中を見ていると、


「あとちょっとで勝負がついてたのになぁ」

「ふん、お前が避けなかったらすぐに決まっていたのに」


などなど2人はまだ勝負の未決着が腑に落ちないようだ。

そのままにしてるとまた戦いそうなので、

「ほら、早く行くぞ」


「はいはい」

「ふんっ」


なんだろうこの認められてない感。そりゃお二人さんと正面切って戦ってはないけど一応俺も同じクラスなんだぞ。


(今回のミッション上手くいくのか……)


俺は選抜戦が終わったにもかかわらず痛い頭にため息を吐く。すると、いつの間にか第1体育館の前まで来ていた。

早速入ろうとドアノブに手をかける。


「あの、すみません」

「は、はい!」

俺はドアの隣で立っていた男子生徒から声をかけられた。

(え、なに?入るとこ間違えた?そもそも場所間違えた?)

色々な可能性が頭の中をよぎるが声をかけてきた理由は至極簡単であった。

「あ、はい。ホール内は階段となっておりますのでノイン=レイティア様はこちらから入っていただきます。」


「うん。なら案内しろ」

「はい。」

白髪の美男子は丁寧に会釈をしながらすぐに嵐は去っていった。


俺は自分が関係なかったことに安堵し軽く深呼吸をする。どうやらかなり緊張しているようだ。

無理もない。どうせ今から始まるのは大勢の前でただ話を聞くだけ。そう、ただ聞くだけだ。

俺は覚悟を改め、ドアを開ける。

瞬間無数の視線が向くのを感じる。嫌な視線だ。チラッと見る感じではなくまじまじと値踏みをされている感じだ。


嫌だ…嫌だ…嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


まるであのトラウマが再現されているように感じる。この世界はあそことは違う。そう分かってはいるがその視線に晒されると息が上がり脂汗が吹き出すのを感じる。まるで「お前がしてきたことを全て知っている」と言われている感じだ。


「ちょっと、どしたの?」


急に立ち止まった俺を不審に思ったのか  が

腰を屈め顔を覗かしてくる。

「ああ、いやなんでもない。

入るぞ。」

俺は俺は扇状に広がるホールに足を踏み出しそこから下に下る。かなり生徒が多い。ホール内は生徒達で敷き詰められよく見ると左半分には教授たちも沢山座っている。

何段下ったか分からないが一番下まで行くとスポットライトの照らされている壇上に椅子が2つ並べられていた。

(この上に上がらないと行けないんだよな……)

俺は苦々しく思いながらも向かって一番左の席に座る。

(………………………!!!)

何千という視線。それに貫かれた俺は息が詰まり再び汗が湧き出る。何年ぶりだろう、こんな大勢の前に立ったのは。

このままでは数分も意識を持たせそうにないので俺は効くか分からない最後の手を使う。


「スタビライト」


俺は身体強化魔法の一つ。「スタビライト」という精神安定の魔法を付与させなんとか持ちこたえる。

視線の圧力は先ほどから感じるが魔法が効いているのだろう。魔力が減り続けているので少し違和感を感じるが汗は止まり鼓動も通常運行に戻ってくれた。

そんな悪戦苦闘をしているとはいざ知らず俺たち3人が壇上で並ぶ。

(てか裏舞台から来たノイン=レイティアが俺の右に座ったことで俺が真ん中なんだが!)

そんな胸中を騒がしていると、


『では、これからSクラス配属式を行います』

長い長いお話になる予感がして俺は今日何度目か分からないため息をついた。




「Sクラス配属者は研究に基づく範囲で教授レベルの権限が与えられます。また学内催事の参加は強制となり研究成果を発表する研究発表は・・・・・」


と長いナレーションが流れ始める。俺達は前に並んでいるので周りがよく見えるのだが、

(もう寝てる…)

こういう場所では地球でも異世界でも関係ないらしい。

(くそ、俺達は前にいるから寝ることすら出来ないのに)

そう思いながらチラッと右隣を見る。

(いや、寝てんじゃん!)

隣には車椅子に座っているノイン=レイティアが完全に爆睡していた。

(こいつなんて肝の据わってるやつなんだ)

この無数の視線に魔法でギリ耐えてる俺からすると、ほんとに天才ってやつかと関心までしてしまう。

俺は軽く溜息をつき、反対側のシャロン=レイスピアの方向を見る。

(いや、こっちもかよ!)

可愛らしい寝顔で軽くヨダレと黒髪を垂らしながらむにゃむにゃと寝言まで言ってる始末。

(なんだこれ。俺がおかしいのか。俺の方がおかしいのか!?)

俺はそれから1時間ほどうんざりしながらナレーションを聞き流していた。


「・・・・なのでSクラス配属者はこれからの研究に勤しんでください。それでは最後に生徒会長からご挨拶があります。」

(ようやく、終わってくれた…)

俺は軽くため息を吐きながら教授達が並んでいる席のところに目をやる。周りが爆睡している中1人眠気と戦う少女がいた。少女は先程のナレーションを聞くとすぐに隣で寝ている女性を揺さぶり起こそうとする。

結構荒く揺さぶり隣の人の方に頭が当たっているが、少しすると「フガッ!」と響かせ生徒会長?が目を覚ましたようだ。

「生徒会長、ご挨拶を」

ナレーションが再び命令し、ようやく生徒会長は動き出した。

ここからでは黒髪のロングとしか見えないが徐々に近づいてくる。それと同時に壇上の右端にマイクが設置された。どうやらそこで挨拶をするそうだ。

そうしてるうちに会長はどんどんと近づき顔が見えてきて……

(って、お前は…!)

そう。どこかで見たことあると思ったらあの時体育館までの道のりを教えてくれた女の人だった。

会長は壇上に上がるとニヤリと笑みを浮かべマイクの方へと行った。

(???

今こっちに笑いかけたのか?)

少し視線を感じたがどうせ勘違いだろうと挨拶の方に意識を向ける。

(生徒会長……

恐らくこの学園で1番強いのが彼女なのだろう)

こんな弱肉強食な学園である。上の地位に着こうと思ったらそれなりの力があるということだろう。

俺はこの学園最強の人がどんな挨拶をするのか少し気になりながらその挨拶を待った。

すると、少し咳払いをし、

「あー、はい。生徒会長のサーナです。これで挨拶と致します。」

……………え?

あまりに一瞬すぎて間の抜けたような顔になったかもしれない。すると、ナレーションをしていた先生もさすがに許されなかったのか「あと一言でもいいから!」とマイクの方へと押して行った。

「えーと、それじゃあSクラスの皆さん配属おめでとうございます。これからは私の予想がつかないような成長を期待しています。特に君には期待しているからね」

(ひぃ!)


最後の一言ではかなりの圧力が視線とともに感じ寒気が立つ。あれは完全に獲物を見つけた肉食獣のような視線だった。

(あの人には関わらないでおこう…)

こういう嫌な感じは当たるものだ。俺は要注意人物を早速1人追加してこの生徒会長の挨拶は終わった。








「ここが、Sクラス専用の宿舎………」


「はい、ここがSクラス様専用の宿舎であります」


Sクラス配属式が終わると茶髪の青年が案内してくれた。

この青年は胸ポケットにAと書かれたピンバッチを付けておりどのクラスの学生かが直ぐにわかる。

かなりご丁寧な対応にこの学園の上下関係が大きいものだと理解した頃にはSクラス専用の宿舎まで着いていた。

(でけえええええ!)

まず見た目だが完全に高級ホテルだ。ここに全てのSクラスの生徒が住んでいるらしい。


「クロハ様のお部屋は3階の2号室となっております。」

青年にアヒルの雛のように何も言わずついて行く。簡潔に言おう、俺は驚き疲れていた。

まず見た目だが先程も言った通り高級ホテルの低いバージョンを連想させる。次に内装だがここまで豪華にしなくていいだろうと言わんばかりに豪華絢爛だ。そして最後に最も驚いたのは、

「え、エレベーター!?」

「あ、知ってるんですか。さすがSクラスに配属された方は知識量も桁が違いますね」


(そんなお世辞はどうでもいい!なんでだ?ここは確か中世ヨーロッパ並しか科学は発展してないはずだ。どーなっている?)

俺は頭の中が滅茶苦茶になるのを感じるが次の青年が発した言葉で酷く納得した。


「昔人類を救うために現れた勇者様がこの学園に作ってくださったんですよね」


「あーそういえばそうだったねー。」

バリアにエレベーター。うん、もう考えることをやめよう。

そんなこんなで302号室に到着し俺は青年が帰ったのを見送ると、

「すぅ……はぁ!つっかれた!」

俺はここが防音なのか確認しないうちに大声で叫んだ。だっていいだろ。宿屋ミードルから移動して、実力テストを受け、Sクラス選抜戦を受け、配属式を無事終わらしたのだ。文句のひとつ言ってもバチは受けないだろう。


俺は戦闘と配属式でかいた汗を流すべくシャワーに入り、まだ夕方ではあるがとてつもない疲労感がクロハを襲ってくる。そのまま俺は大きなベッドにダイブしてしまった。

すると、急激な眠気がクロハを襲い安眠ではないであろう眠りへとクロハは落ちていった。






その頃生徒会室では。

「なんだか嬉しそうですねサーナ。

そんな笑顔久しぶりに見ました。」


「だってあの子。えーと、確かクロハ君だっけ。あの子が無茶苦茶面白いからだよ!」


いつもは冷静でかわいい系よりも綺麗系な我が生徒会長はまさに欲しいものが手に入った少女のようにクルクルと喜びを体現させていた。


まあそれもしょうがないだろう。あのクロハという少年はSクラス配属式で易々と錬金術を使って見せた。それも攻撃や防御、戦闘として完璧に扱ってみせたのだ。



そもそもこの世界において錬金術とはかなり珍しい存在となっている。難しい話は置いておくがこの世界において魔法は後天的、つまり生まれた後でも発現する可能性が大いにあるのだ。しかし、比べて錬金術などの特別なスキルは先天的、つまり生まれ持った才能となっている。

そのためどの国でも錬金術者は少なくその才能を使って薬草を立派な薬にしたりなどの職につけば将来安定。待遇もすごく良いと言われている。だからこそ、この学園には錬金術者など教授ばからで生徒として入学するのは異例な事なのだ。

(しかも、その上3属性使い…ですか)


なるほど。ほか2人のように局所的ではないにしろこの少年もかなり天才であるようだ。

しかも選抜戦でのあの予想のつかない滅茶苦茶な戦い方。

(もしかしたらさすがの会長もあのクロハには…)

一瞬考え、

いやないな。私は直ぐにありえないと頭を振る。

たとえどんな戦術を使ってもどんな隠し球があろうと会長には傷一つさえつけられないだろう。

それほどまでにただの天才と神の使徒との間には力の差があるのだから。


(まあなんだか会長を驚かせられなくて少し残念な気持ちもありますが…)

私は再び目の前のモニターに目を向ける。

(頑張ってくださいね、クロハ。こうなった会長は少し、いやかなり面倒臭いですよ)


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