勇者8度の世界で何思う

夢空

天才弓兵復活

ロイスの秘密を知ってから10分が経過した。外では魔法による破壊の音が鳴り響き、あの2人の戦闘が始まっていた。

時折こちらにも流れ弾が飛んできたりするため俺たちは教室ではなく廊下で隠れている。

と言ってもロイスは立ち上がれないし俺は俺で気になることもあり廊下でうだうだしていたのが本当だが。

そんなこんなで時間を潰していると、

「逃げないから肝は座っていると見直したんだが、まさか逃げることすら出来なくなっていたとはな」

腕時計を確認しながらジャバが来た。あの自慢の大剣を背中に背負っていて体格がいいからか様になっている。

ようやく待ち人がやってきた。


「やっと来たか、ジャバだっけ?」

俺はロイスの前に立ち、背負っていた大剣を振り下ろすように手に取ったジャバと対峙する。

「そういえばまだ名前を名乗っていなかったな。

すまなかった。無礼を詫びよう。」

そういうと、ジャバはまっすぐとこちらを向き

「俺はジャバ=マレベルだ。

こちらも名前を伺ってもいいか?」


「ああ。俺はクロハ。家名はないただのクロハだ。」


名前を言った後にお互いに剣を構える。


「満身創痍なのは不平等ではあるがクロハと一騎打ちになったのは嬉しく思う。

貴様はいい目をしていたからな。」


ジャバはニヤリと笑いながら握りしめる力を強める。確かに俺は脇腹、左腕、小さな傷を含めると肩や腿にもダメージが入っている。気を抜けば意識が吹き飛びそうな俺の状態は満身創痍、まさにその言葉通りであった。しかし、そんな言葉に俺もにやりと返し、 

「それなら一騎打ちはまた今度の機会にさせてもらおうかな。

元から1人で戦おうなんて考えてなかったしな」


「なに?」


俺は少し右にずれながら、

「俺たちは2人で戦う。これは最初からチームとして決めたことだ」


俺のかなり後ろに座っているロイスが「ああ」とジャバを睨む。

ジャバは俺に本気なのかと見るが俺の目を見て本気であることを理解したらしい。


「人に引けず更には動くことすら出来なくなってもまだチームの一員だと言うとはな。」

ジャバは呆れたように息をつき、剣を構えて攻撃に移ろうとする。

「まあいい。結局はクロハ、お前と戦い勝つ。そして後ろの無能者を倒して俺はSクラスに行くぞ!」


その言葉を言った瞬間、加速。その体格に似合わない速度で近づいて、そして大剣の範囲に入る。


「ゥオラッ!」

右から凄まじい威力を誇ってる薙ぎ払いだ。助走もプラスされこれは受けきれないと考え一歩後ろに下がる。


ブンッ!

俺の鼻をギリギリをかすめそれは空を切る。

(くそ!やっぱり体が重たい!)

未だこの世界の体に慣れず悪態をつく。しかしそんなことを知らないジャバは身体全体を使って大剣を扱い、上から叩き下ろそうとする。

(ここだ!)

俺は持っていた片手剣(木刀)を下ろされる大剣の峰に当てる。

ガンッ!

峰を狙い大剣の威力を分散させて拮抗状態に持っていく。

「ふ、はははは!やはりクロハ、貴様は面白いな!その状態でまだ俺の剣を耐えるとは!」

ジャバはご満悦なようで大剣に力を込めながらそんなことを声高らかに言う。

俺は、と言うと、

(やばいやばいやばいやばい!)

左手は魔力で固定しているが力は入らずただの飾りだ。その上ユクトに貰ったお腹のダメージで力が入らないからいまクロハは右腕の力、魔力、根性だけでなんとかギリギリ耐えていた。

だがここで言い返さなければこちらが限界だということを悟られてしまう。

「ふん、俺ばっかり気にしてていいのか?お前の相手は俺たちなんだぞ?」

俺は食いしばっていた口を開け忠告をする。すると、ジャバも真似をしたのか「ふん」といい、

「もし本当にチームで戦うと言うのなら、ロイスをなんであんな遠くに置いている?

お前もさっきのあいつを見ればわかっただろ。

弓を引けないあいつが出来る攻撃は殴ったり蹴ったりみたいな近接しか方法がない。」


「それも」とジャバはつづける。


「あんなに遠くにいたんじゃ殴ることすら出来ないけどな」

ジャバは俺の後ろ約30メートル先、廊下の壁に背中を預けて座っているロイスに目をやる。

「なあ!無能のロイス!そこからならいつでも俺を打てるんじゃないのか?絶対命中の腕前見せてみろ!」

すぐにジャバは顔を顰め、

「引く素振りすらなしか…」

大剣に込める力は変わらないがどこか残念そうに落ち込んでいる。ふと、今までのことが頭の中で流れた。

最初ユクトが無能のロイスと言ったところから彼らはことある事に何回も無能者と言っていた。

まるでわざと怒らせるために。

(なるほどな…。そういうことか)

俺はロイスと2人が最初に出会った時の反応から全てが繋がり納得する。

「お前ら、良い奴なんだな」

俺は限界が来ている右腕を震わしながらそう言う。

ジャバはその言葉に少し間を開けてから

「ふん、なんの話だ?」

わざとらしく咳払いをし、気付かないふりをした。

(この2人もロイスに矢を撃てるようにさせたいのだろう)

ただやり方が完全にいじめのようになっていたから悪者に見えたが不器用なだけなのかもしれない。


「俺も人にいえるような方法じゃなかったけどそれでも一つ言わせて貰うなら」

俺は一呼吸置き、

「追い詰めるだけが救う方法じゃない。それだけに固執して追い詰めるとか酷すぎるだろ。

それに…」


俺は限界だった右腕に更に力を入れ少し押し返し、言ってやる。

「今のあいつはお前らが言っていた無能者じゃない。天才弓兵ロイス=ページストだ!

やれ!ロイス!」

その声は廊下を響かせる。その声は音速でロイスの耳に届き1度深呼吸をしてから弓を構える。


「な……!?」


その姿を見たジャバは見るからに動揺し大剣に込める力が抜けた。俺はそこに更に力を込め相手が逃げないようにする。

「ロイスの一撃、絶対に避けさせるか!」

俺は限界を超えたであろう震える右腕にさらに力を込める。歯を食いしばり魔力を放出し、ジャバが動けないように拮抗状態を続ける。

すると、後ろから男にしては高い声の詠唱が始まる。


「扱うは炎。触れるものを灰に変え、向かうものを滅する力を我にさずけよ。荒れ狂う炎は今ここに収束する。
    ブレン・ドゥ・アロー
『焔の一矢』!!」

放たれたそれは火魔法の証の赤い発光を矢に伴いながら放たれる。


「今だ、クロハ!」


俺は作戦通りにギリギリを狙ったロイスの忠告に教室側に避けようと足に力を込める。しかし、

(う、動けない…!?)

身体に対する過度な負担。連続の魔力によるブースト。先程まで全力の拮抗状態をしていた。その他諸々の原因から俺は動けなかった。それだけじゃない。剣から力を抜いた途端右腕にも力が入らなくなってしまった。言わば棒立ちの状態だった。

しかしそんな状況でも頭は働いていた。思考だけが速くなり世界がゆっくりと遅く感じる。

(どうする!?なんでこんな時に限って動かないんだ!)

頭は働くが身体は動かずゆっくりと進む世界が着実にクロハに迫っていた。そして、


「これは貸しだぞ」



その瞬間俺は左に押された。


「え…」


俺は驚きのあまり相手の顔を、ジャバをみる。

ジャバはニヤリと笑いながら


「あいつが乗り越えて打った矢なんだろ。無駄にするな」


何やって、そう言おうと口を開き、



ドンッ!!!


次の瞬間矢が着弾。火魔法を付与された矢はジャバの目の前の床に当たった瞬間爆発を起こし周りに衝撃波を発生させる。俺は後ろに吹き飛ばされ10メートル程転がり止まった。


俺たちの戦いは敵が身代わりになるという結果で幕を閉じたのだった。


残り4人







「あら、タワさん

もう用事が済んだの?」

苦々しい顔をしたタワク・レイベリウスが学園長室から出てくるのを見て声をかける。

「あ、ああ。ミィちゃんか」

疲れきっているのかいつもの軽口やふざけたノリはなく初めて見た真面目な顔に心底驚く。

「タワさん疲れてますね。そんなに学園長との話盛り上がったんですか?」


だったらいいんだけどな、と軽くため息をつき、

「あのガキほんとに喰えねぇな 

どんな問いも痛いところをついても全部軽々とはぐらかされる」


「まあそこが学園長の長所と自分で言ってますしね

『会議や取引では腹の内は明かさない』『何を考えているのか分からない』なんて言葉、この仕事をしてると耳が痛くなるぐらい聞きます」


あ、と1時間前タワさんに頼んでいたのを思い出した。


「それでどうでした?クロハ君の入学許可は?」


「ああ。それは許可された。『素性が不明でもあの門をくぐれて才能もあるなら学園は歓迎する』だとよ」


この世界の魔法学園や騎士鍛錬場など部外者が入れない建物の門には種族、罪人反応器というのが備わっている。だからそれをくぐり抜けてアラームがなってないクロハが善人である証拠になる。



「でもなんでクロハは村人だと偽ったんだ?入学試験遅れたのマイル村の青年だけだったよな?」

遅刻者は1人だけ。それが今行方不明のマイル村の青年なら入学予定者は全員になる。


「ええ。だから元々クロハ君はこの学園に入学申請をしてなかったことになりますね。」


あの青年、クロハ。その強さを誇りながら今まで噂にもならずはっきりいって謎しかない。

(このタイミング……偶然か?

予言書には正確な人数までは書かれていなかったが…)

いま人類がほかの種族と対等にいられている理由の一つ。それが白の予言書。

普段は何も読めないが時期が近づくと聖人にのみ読めるようになる神器の一つだ。

すると、同じ考えになったのかミィちゃん少し興奮気味に、

「もしかして…クロハ君が予言書に書かれていた勇者様だったり?」



すこし真面目に考え、


「それはありえねぇよ」

即座に頭を振る。


「1週間ほど前に隣国のイルレオーネ国王から勇者召喚が成功したと自慢してきたからな」


予言書の勇者降臨はどの国も知っていること。だからこそどこの国も躍起になって勇者召喚を試しそして成功したのがイルレオーネ国のみだったのだ。だからこそイルレオーネ国王はどの国々よりも早く成し遂げたことを鼻高々に自慢しており国の上層部だけだが勇者のことは認知している。


ただなぁ、俺は今日何度かわからないため息を再び吐く。イルレオーネ国王は頭が切れる秀才で、財政問題と負の歴史と言われている奴隷制度をどの国よりも先んじて解決させたいわゆる名君だ。しかしそれは自国のみで他国に対してはかなり冷酷だ。この前起きた大豪雨のとき南のアレヴィアステルからの助けを軽々はねのけ逆に今までの借金のとりたてまで行う始末だ。

そんなやつが勇者を保有しているとなるとこれからの国の関係が崩れかねないと俺は頭を悩ませる。


そんな俺が頭を抱えるなかミィちゃんは嬉しそうに、

「どんな子なんでしょう。 会うのが楽しみです。」

俺は3度ため息をつく。

なんて呑気なんだ。や、純粋に楽しみにできて羨ましい。など色々な感情がごちゃ混ぜになり俺は考えるのをやめた。

(とりあえず1度事務室に戻って国王にでも報告するか)


そんなことを考えていると、

「あの、ちょっと気になることがあるんですけど」


勇者のことだろうか?

しかし先程まで楽しみにしていた顔とは打って変わってかなり真剣な顔をして口を開く。知ってるはずの、知っていて当たり前の情報を最初から知らなかったかのように尋ねる。


「マイル村の青年君、名前はなんて言うんですか?」


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