勇者8度の世界で何思う

夢空

立ち上がる覚悟

「えーと、大丈夫か?」

俺は前で泣きじゃくっているロイスの頭に手を置く。

すると下を向きながらブンブンと頭を振り、

「大丈夫なわけ、ないじゃないですかぁ…

本当に…本当に、びっくりしたんですよぉ…」

ロイスはわんわんと泣きながら涙目でこちらを見る。

「ロイス!落ち着け落ち着け!興奮しすぎてなんか口調も変わってるし!」

心無しかキャラまで変わってるような気もする。その言葉にロイスは自分の口を抑え、やってしまったと目を見張っている。

その行動に俺はニヤニヤしながら、

「もしかしてロイス、それが本来の性格なのか?」

その言葉にロイスの顔はみるみるうちに赤くなり俺を叩こうと手を振ってくる。しかし、距離がありすぎて空振りさらに顔が赤くなる。すると、

「しょ、しょうがないだろ!こんな性格周りにバレたら甘く見られて馬鹿にされるのがオチだ!」

再び瞳に涙を貯め口調を直して反論してくる。しかしその姿は微笑ましく口調を直しても今までの偉そうっぷりは嘘のように消えていた。

「悪かった悪かったって。

ただそれだけ元気があるならまだ戦えるな」

その呼びかけにロイスは自分の手元に目をやる。

左手に持っている弓を見つめ、

「…ああ」

それだけを言った。








「終わりだ……みんな終わりだ…

寒い…さむいさむいさむいさむいさむい…」

そこは家と呼べないほどボロボロの古家の中。その一室に1人ボロボロのローブを着た人がいた。ぶるぶると震えながら自分を抱いている。その抱く力が強すぎるのか爪が両腕にくい込んでいる。しかしそんなことを気にすることなくそれはぶつぶつと終わらない独り言を続ける。そんな奇妙な空間に1つの足音が流れてくる。それは階段を登りそしてその部屋の前で止まった。

ガチャ

「かわらない…か」

それは50代の男だ。名をエリックという。そいつは情緒不安定になった友人の母を死んだ友人の代わりに世話をしていた。この役目を負って約2週間ほど経つが回復の予兆は全くなく病院に連れて行っても「親族を亡くしたから」「戦争ではよくあること」などと好き勝手いいやがる。もし戦争の傷なら、なぜ戦争から2年経った今頃発症しているんだ。誰もまともに相手してくれない苛立ちさがエリックをかりたたせ、今も友人の母マゼルダの為に晩御飯を買ってきたのだ。

「ほら、今日の晩飯はあんなの好きな魚だぞ」

食べさせるために近づこうとした時、


音が鳴った。

足音だ。階段を登る足音。このボロ屋には突然何をするかわからないマゼルダの為に一軒そのまま借りている。

(この家に来るのはマゼルダさんと俺だけのはず…

誰だ?)

その足音は一定の速さでのぼり続けそしてドアの前で止まった。

「………っ!」

俺はすぐに盗賊だと考えドアの鍵をしめた。

ガチャ…ガチャガチャガチャガチャ!

次の瞬間ドアノブの悲鳴が部屋中に響き渡り俺は後ろにたじろいだ。

後ろを振り向き窓があるのを確認すると、

「逃げるぞ!マゼルダさん!」

こんな状況でも「さむいさむい…」と震えているマゼルダの右手をつかみ引っ張ろうとする。しかし、

ギィ…

ドアの開く音が後ろからした。

(鍵はちゃんとかけたはずだ!なんでこんな簡単に…!)

ハッとして振り返る。そして見た。黒のローブを翻した青年だ。服装は東の村でよく着られている服で特徴的ではない。しかし、その姿は盗賊のそれとはかけ離れておりエリックは安堵した。

すると、

「あれ?2人?」

その青年はなにか疑問があったのか目をパシパシとしている。 

俺は盗賊である可能性を捨てないようにし、

「お、おい!

悪いが俺たちを襲っても一銭も手に入らねぇぞ。

襲うなら街中の家を狙った方がいい」

俺はマゼルダさんを後ろに隠しながら青年に言う。

「え?…ああ、別に俺は盗賊なんかじゃないですよ」

俺がどう考えているのか理解したのか否定してくる。完全には信じられないがそれでも少し安心し、

「じゃ、じゃあなんで他人の家に勝手に入ってきてるんだ」

できるだけ相手を挑発せず目的を聞く。最悪20年間冒険者だった力を発揮し相手をふん縛るだけだ。ただマゼルダさんに迷惑をかけたくない。できれば話し合いだけで終わらしたい。

色々な考えをしながら相手に問う。すると、

「あーいや、どっちかには用があるんだけど…

見た目も聞いとけばよかったなぁ」

その青年はぶつぶつと呟きながら「あ!」となにか閃いたのか質問をしてくる。

「じゃあもう聞きます。

子はどっちですか?」

その意味のわからない質問に「は?子?」と疑問がわく。

「えーと、誰の子?」

その当たり前の疑問に、

「そりゃ決まってます!

「女神テミス様の子」ですよ」

こちらも当たり前かのように答える。その姿を見て、

「は、はは…

なら俺たちは関係ないな

女神様が母なんて恐れ多い」

(この子は純粋なんだろうな

友達とかに「あのボロ屋に女神の子がいる」みたいな嘘を信じてこの家に来たんだろう)

そう考えると少し気味悪く見えた青年が可愛く見えてきた。よく見たら自分の息子と同じぐらいの年だ。

一気に緊張が解け俺は青年に勝手に人の家に入ってはいけないと怒るために立ち上がろうとした。

しかしそのより早く、

「ならどっちも殺すか」

実に軽くなんてこともないようにそんな言葉を言った。

「何言ってんだおまえ」

一気に警戒心をあげ戦えるように身構える。

「だってどっちが子か答えてくれないだもん。

ならどっちも殺せば間違いはないでしょ?」


「だから俺たちはどっちも子じゃないって言ってるだろ!」


「それは貴方だけでしょ?

そっちの女の人は分からないよ

さっきから全然会話に入ってこないし」

その瞬間『背後』から、

「ねぇ、お姉さん?」

その青年の声がした。気づけば目の前は開かれたドアだけ。

「な!?」

振り返るとマゼルダさんの横で顔を覗くようにその青年は立っていた。

そんな状況であってもマゼルダさんは青年を見ず床を見つめ

「痛い…苦しい…寒い…」

そんないつも言ってることをぶつぶつと呟いていた。しかし、そんな意味もない呟きを聞いた青年はニヤッと笑い

「ああ、やっぱりお姉さんか

じゃあ死んでね」

青年はマゼルダさんを打とうと腕を上げる。

(させるかぁ!)

俺は低い姿勢から加速。タックルをするように青年にぶつかっていく。しかし、

「くそ!どこ行きやがった!」

再び青年がぶつかる直前に消えた。

俺は狭い部屋内をどこにいるのか確認する。すると、

「うるさいなぁ

貴方は関係ないからちょっと静かにしてて」

どこからともなくその声が聞こえ

「へ?」

俺は膝から崩れ落ち抗うこと無く地面に伏した。

体が動かない。口もまともに動かない。眼球も動かずまぶたも閉じない。見えるものは下を向いて呟くマゼルダさんといつの間にか現れていた青年だ。

「ふぅ、やっと静かになった

それじゃあお姉さん、その能力返してもらうよ

このままじゃマゼルダさんは殺されてしまう。それは今までの人生からの直感だ。

(うごけ…動け動け動け動け動け!動けぇぇぇぇぇぇえええ!)

すこし、ほんの少しだけ口が動いた。しかし声は出ない。このままじゃ再び口が固く閉ざされてしまう。

(こうなったら…!)

俺は口を思いっきり動かし、そして

ガブッ!


俺は舌を噛み砕いた。

部屋内を痛々しい音で埋める。

「ーーーーーーっ!いでえええええ!」

物凄い激痛が襲ってくる。しかし、動いた。口が身体がまぶたが。

「え、」

相手に理解をさせない。俺は一気に加速し、無理な体勢から飛び蹴りをかます。

「グッ!」

(当たった!)

青年はドアの方向に吹っ飛び転がる。

「っ!何回も言っている!

俺もマゼルダさんも関係ない!」

俺はマゼルダさんを後ろに起き上がろうとしている青年と対面する。

久しぶりに構える清流闘技。両拳を顔の前に持ってきていてボクシングのような構えだ。

懐かしい戦いの感覚に唾を飲み込み一瞬たりとも気を緩めない。

そして、3秒も経たないうちに青年は立ち上がった。顔はドアの方向を向いていてどんな表情をしているのか分からない。怒りに打ち震えているのか肩が震えている。

次は必ず相手が怒りに任して反撃をしてくる。そう考えより一層の緊張感がエリックを包みそして、青年が振り返った。


笑顔。笑顔だった。


青年は怒りでも悔しさでもなくただ楽しげに嬉しそうな笑顔だった。

すると、青年は口を開く。

「すごい。すごいよ!お兄さんすごいよ!

僕に攻撃できたなんて…興奮しちゃう」


ゾワッ

感じたことの無い寒気が襲ってくる。昔メネラウスと対峙した時でさえこんな寒気は感じなかった。

俺は構えをとかず再び、

「なんでマゼルダさんを狙う!関係ない人をなぜ狙う!」

自分を鼓舞する意味もあるが大きな声で相手に激昂する。

「そりゃあそこのお姉さんが女神の子だからですよ、お兄さん」

その言葉に俺は動揺していた。マゼルダさんが女神の子だからじゃない。っていうかそんなことは全く信じていない。

それよりも青年が凄くいい笑顔だからだ。見栄でもはったりでもない心底からの笑顔。言葉の端から感じる喜悦な感情。それがエリックを怖がらせる。

「な、なら証拠はあるのか。

悪いが俺はマゼルダさんの親と会ったことだってある」

汗が止まらない。舌の痛みは感じなくなりそれよりも動悸がうるさい。

さっさとこの会話を終わらしたく証拠を提示させる。

これで出来なかったら急いで窓から飛び降りて逃げる。こいつだって街中までついては来ないだろ。街中なら憲兵の人に任せてもいい。そんな逃げの考えがエリックの頭の中を埋める。

証拠を求められた質問に青年は

「その姿が証拠としか言えないかな。

ほら、なんかぶつぶつ言ってるでしょ

まともに能力を操作できてない証拠だ」


そんなことを言った。病院の人も街の人も息子や魔法学園の先生にだって解けない謎をやすやすと答えた。

「な、何言ってるんだ…

そんなわけないだろ、これが女神の能力…だと?」

そんなことありえないと乾いた笑みがでる。

(戦争の傷のあとは女神の子供?能力?

なんだこれ…ありえない、ありえない)

そんなことを頭の中でぐるぐるさせていると、「じゃあ 」と俺は口を開いていた。

「この能力がどんなのか分かるんだよな?

それだけ言えるってことはお前も女神の子なんだろ?」

もはや挑発になっている。しかしそんなこと関係ない。どうしてマゼルダさんがこんなことになってしまっているかただ気になってしまったのだ。

すると、青年は少し考えてから、

「いいよ、お兄さんなら

俺に傷をつけたご褒美に教えてあげる」

すると、青年はマゼルダさんを指さし、

「このお姉さんの能力は未来史観っていう能力だよ。

このお姉さんは今も未来を見てるんだよ。

まあもう1つ運命観測って言うのもあるんだけどそれは使えてないっぽいしね」


「未来…?」

(ちょっと待ってくれ、未来?未来だと?

あんなにボロボロになって苦しい呟きをしているあの行動全部が未来を見ている…?)

処理が追いつかない。青年が軽々と言ったこと何一つ俺には理解ができなかった。そんな俺は置いて青年は話を続ける。

「そんな大きな能力を女神様から貰った子なのに言うことは聞かない。目的も果たさない。だから俺は来たんだよ」

そこまで聞いてようやくこの青年の目的が聞けた。

「お姉さんから能力を取り返すために」

一気に殺気が膨れ上がり俺は息を呑む。今までに感じた殺気なんて目じゃない。動悸が最高潮に跳ね上がりそれでも構えだけは崩さず息を吐く。

(準備はできた。どこからでも来い!)

覚悟を決め神経を尖らし相手の出方をみる。

すると青年はくるりと背を向け、

「それじゃあ目的は果たしてるからばいばいお兄さん」


「は?」

一瞬呆けたがすぐさま理解する。

(あ、そうか。能力を取り返すのが目的なら別に殺さなくてもいいってことか?)

俺は振り返りマゼルダさんをみる。マゼルダさんは能力が無くなったからか静かに俯いていた。さっきまでのぶつぶつと呟いていたのも嘘みたいに。

「よ、よかった…マゼルダさん」

俺は安堵のあまりマゼルダさんを抱きしめる。



そして、覚めた。



ゴトッ

マゼルダさんの顔は俺が抱きしめた衝撃で床に落ちた。

「は…あ、ああ、あああああああ!」

俺は後ろにのけぞり、その瞬間部屋の景色が目に入った。そこは血が散乱していて床に内臓が散らかっている。

「うぷ、……うおえええええ!」

急激にくる吐き気を我慢出来ず床に吐き出しガンガンとくる頭痛に顔をしかめる。

すると、

「いい、本当にいいよぉ…

お兄さんのその顔見たかったんだぁ」

はあはあと青年は興奮し、目はとろんと甘美に震えている。

「はぁ…はぁ…いつのまに、マゼルダさんを!」

俺は怒りに任せ叫ぶ。守れなかった。友と誓ったのに守れなかった不甲斐なさを、怒りとともに吐き出す。

すると、青年は

「僕が部屋に入った時にだよ」

その言葉を聞いた瞬間目の前が真っ暗になった。

「いや、それはおかしい…

だってずっといつものように呟いて…ちゃんと生きていたはずだ!」

その言葉にさらに青年は口を歪ませ

「そう見えるようにしたからね。

部屋中の血だって今気づいたんでしょ、お兄さん」

その通りだった。いまのいままでなにも俺は気づけてなどいなかったのだ。

「どう?お兄さん、絶望した?

今まで守れてると思ってたら実は最初から死んでいたのに絶望した?」

その瞬間考えるよりも早く体が動いた。拳を握りしめ青年に向け駆けた。

「しねええええええええ!」

(この男だけは!こいつだけは殺してやる!)

今まで経験したことのないほどの殺意に俺の拳は青年に伸びていく。



しかし、届かなかった。


足を引っ張られ前のめりに倒れたのだ。

「クソが!誰が…」

目の前にあの青年がいる。では誰が。

この部屋には残り一人しかいない。そんなことが分かっていてもそんなことありえない。しかし、それは現実におこった。

「な…マゼルダさん!?」

首のない。付け加えるなら内臓などもこぼしているマゼルダさんが俺の足を掴んでいた。

「くそ!お前ネクロマンサーか!?」

青年に向け激昂する。すると、青年は首を横に振りながら近づいてくる。

「いいや違うよ

ただ願っただけだ」

俺はマゼルダさんを振りほどき再び立ち上がろうとする。しかし、

腕が、足が動かない。床を見れば俺の手と足が床と一体化し固定していた。

(なんだ。なんなんだ、この魔法は!?)

そんな疑問にいっぱいいっぱいな中、青年は俺の頭に手を乗せ 

「さっきの事周りに言われちゃ大変だからさ、喋れなくさせてもらうね。

大丈夫、お兄さんにはこれからも絶望してもらいたいから殺さないしこの事も忘れさせない。

永遠とこの記憶に苦しんでね、お兄さん」

可愛らしい笑顔とともに告げられた宣告。

「絶対、絶対に後悔させてやる!絶対に殺してやる!」

俺は今すぐにでも殺す勢いでそう叫ぶ。

すると青年は、

「うん、楽しみにしとくよ!」

まるで恋人の約束のような返事を最後に俺の意識は薄れていった。



「ふふ、いいね、いいよお兄さん。記録帳に書いてあげる。

だけど残念お兄さんはこのまま80歳を迎えて死んじゃうんだよ。

だからそれまで生きながら死んでね」


そう青年は呟いてその部屋を出た。次の目的を果たすために。


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