勇者8度の世界で何思う

夢空

トラウマの荒治療

「僕にはできない…僕にはできない…僕にはできない…」

顔は青白く目線はどこを向いているのかぼんやりとしている。その顔を見て、この前サーヤから言われたことを思い出した。

(まるで死人のような顔)

俺はそのロイスの変わりように唖然としていた。すると、剣を持ち直した目の前の2人が

「よかったよかった〜。最後に残ってくれたのがロイス様で。これでまた1つSクラスに入りやすくなったよ〜」

わざとなのか伸びの効いた声でこちらを煽る声。

「黒髪のお前とは対等で戦いたいが今回は勝つことを優先させてもらう」

大剣を肩に担ぎながら低い声で殺気をこちらに向けてくる。 

(どうする?どうするべきだ?)

こんな極限的な状況にもかかわらず俺の思考は冴えていた。今までの世界でもこんな状況にくさるほど出会ってきたからか感覚が慣れてしまっていた。その冴えた思考で考える。どうするべきなのか。

(ここで俺が本気を出して戦えばギリギリ勝てるかどうか。)

左腕は完全に感覚が無く、さっきの追撃のせいで気を抜けばふらついてしまうほどダメージをおってしまった。

(でもまだ魔法を全開にして戦えば勝てる要素は確実にある

だけど…)

俺はそこで後ろをちらりと見る。未だ弓を手にカタカタと震えているロイス。その顔が、その無様な姿が、重なる。あの世界の俺と。いや、あれからの俺と。

(くそ!どうする、どうする、どうする!?

なんで俺はさっさと一人で戦う選択をしないんだ!)

さっきまでの落ち着いた思考は何処に行ったのか一気に焦りを覚え息は上がる。目の前の2人はとうとうこちらに詰めてきて接触まで残り3秒を切ったところだ。

「あああああ!俺のバカ!」

俺は後ろに振り向きまだ動かせれる右手でロイスの首襟の後ろを引っ張る。しかし、筋力がこれまでの世界より貧弱だったからかまともに引っ張れない。

「おい、ロイス!いいから今は逃げるぞ!」

その言葉にようやくハッとしたのか立ち上がろうとしてくれる。しかし、

「逃がすわけないっしょ〜」

流石に相手も馬鹿ではない。俊敏なユクトは逃げられることを察し1歩先に加速していたのだ。そして、剣の切っ先がロイスにとどき…

「……っ!オウル!」

その瞬間、突風が3人の右から吹き荒れ左へとつまり、

ガッシャーン!

窓ガラスを突き破り外へと放り出される。

「へ…うわあああああ!」

外に放り出されたと理解したロイスは鼻水と涙をダラダラにさせながら叫び散らす。

「やっべえあえええええ!」

ユクトはあの伸びた声とはかけ離れた叫び声を上げていた。

この原因を作った俺はと言うと、

(よし、この勢いだと向かいの号館に突っ込める!急に思いついて行動したけど上手くいった!)

あのまま走りで逃げれるはずがない。         

なんとか上手くいき(変なやつ1人連れてきているが)俺はこんな状況だがほっとした。


しかし、

ゾクッ

感じた。死の感覚だ。約30年間の勇者の戦いで培った第六感と言える能力。

俺は手に持っていた木刀を自分の胸の前に持ってくる。考えるよりも先に体が動いた次の瞬間、

ギィン!

物凄い衝撃で右腕が後ろに跳ね除ける。


「なんで…!?」

俺は衝撃が向かってきた下を向く。そして思い出した。今の今までそこで何があったのか。そして、誰がいたのか。

(!!!シャロン=レイスピアとノイン=レイティア!)

そう。俺達が今通過しているのはさっきまで2階から見下ろしていた中庭なのだ。ノイン=レイティアは気だるそうな目で、シャロン=レイスピアはまるで邪魔者が乱入して来たと言わんばかりの怒りの目だ。そしてシャロン=レイスピアは右腕を払い除けるようにこちらにふった。

すると、

「あああああああああ!がふっ…」

何かに直撃したのであろうユクトが一気に静かになり体勢を崩してしたに墜落していった。

(あの女…この速さで移動してる俺らに投擲を当てている!?)

俺は魔核が壊れないギリギリの量の魔力を込めた風魔法オウルを使った。それは2級魔法と侮ってはいけない威力を発揮し、実際かなりのスピードで飛行している。

(それをやすやすと…

なんて奴だ!)

そして時間は進む。窓から飛び出して約2秒。向かいの窓がみるみる近づき、

ガッシャーン!!

俺は顔の前腕をクロスして顔へのダメージを軽減させる。

「……くっは…ぁ、はぁはぁ…」

俺は第六感という久しぶりに感じた死の感覚に詰まっていた息を解放する。脂汗が額に浮き上がり動悸が跳ねている。

ゆっくりと深呼吸をしてなんとか落ち着かせまず周りを確認する。

教室だ。懐かしさを感じる。30年前、俺がまだ勇者という責務を負わされる前通っていた高校と似ている。机は綺麗に整頓され、(俺の周りはぶつかったからかぐちゃぐちゃになっているが)黒板に教壇などまさに学校だった。

「あ、ロイス!」

ぐるりと周りを見ていると後ろの扉が廊下側に倒れ、そこから少し高級そうな革靴が見えた。いや、それだけじゃない。

「う、ああ…」

うめき声も相まって俺はロイスの元に急いだ。

「大丈夫か、ロイス!」

俺はロイスのその姿に唖然としてしまった。ロイスはドアに激突した痛みに耐えていたのではない。

ロイスは足を抱くようにうめき声を上げていてよく見ると右足のふくらはぎに短い槍のようなものが刺さっていた。

(そうだ。俺もユクトもあいつに狙われたならロイスだって例外じゃない。急所は外れているがこれじゃあ…)

これじゃあ歩くことすら不可能だ。そんなネガティブな思考を振りほどき俺はロイスに駆け寄る。

「大丈夫だロイス!

気をしっかり持ってれば退場する程じゃない!」

いいや違う。足を貫かれるダメージはそれだけで一般人だと気を失ってしまう。これは今までそれ以上の痛みを経験したクロハだからこその感覚の鈍さなのだ。現にロイスのうめき声は小さくなり目は虚ろになっている。

(これじゃあダメだ!なにか、ロイスが意識をつなぎとめられるものを)

「ロイス!お前にも野望があるんだろ!Sクラスにならないといけない野望が!

ほら見ろ!あと5人だ!あと二人倒せばSクラスになれるんだぞ!」

俺はロイスの背中を叩きながらそう叫ぶ。

すると、


「……う…うるさ…い」

声は未だに小さい。しかし、その目は野望を思い出したかのようにしっかりと開かれまだ負けないという意思が見られる。

「よくやったロイス

移動は出来るか?」

ロイスは苦い笑みを浮かべながら、

「いや…むり、だな。

足が、自分のものじゃないみたいだ…」

返事は少し切れながら、だがそれでもちゃんとした答えは帰ってくる。この時点でロイスは一般人よりも色々とすごいのかもしれない。しかし、この返事でもう打つ手はひとつになった。

「なら、ここで迎え撃つしかないな」

その言葉にロイスは驚いたかのように目を開き少し自虐的に笑う。

「置いて、いかないんだね…

あんなに役に立たなかった、のにさ」


「そりゃロイスはチームを組んだ仲間だからな

見捨てるわけないだろ」

俺は間髪入れずそう答えた。まるで昔の自分にそう言ってくれたあの子のように。

その言葉に、

「仲間…か」

ロイスは少しはにかんでそう言った。

一気に雰囲気が湿っぽくなり俺は、

「それに、この1本廊下だとお前の弓も活かせるからな」

そう言い直す。するとロイスは見てわかるほどどんよりと落ち込む。

「クロハも…さっき見て、わかっただろ。

僕は…人に撃てないんだ」

ここしかない。俺はそう思った。ロイスも昔にトラウマを持つものだ。過去に囚われ今も苦しんでいる。だからこそここで1歩ふませるしかないと思った。なんでそこまでしているのか。理由は分かっている。自分が昔されたようにいまロイスに対してしているだけなのだ。

俺は息をはぁ、と吐き立ち上がり言った。

「その状態で弓って引けるのか?」

その質問に「は?」とロイスは疑問を口に出す。

「だからその座ってる状態で弓って引けるのかって聞いてんの

ほら。」

俺はロイスの背中に背負っている矢筒から矢を取り出しロイスに手渡す。

「それはできるけど…なんで?」

当然の疑問に、

「いいからあの廊下の突き当たりの壁ど真ん中狙ってみて

どうだ?当たりそうか?」

壁を指さし再び問う。

「相手が人でないなら、必ず当てる」

その断言はきっと本当なのだろう。相手が物であったりモンスターであったり相手が人でないのなら必ず当てるのだろう。しかし、俺は意味の無い挑戦を促す。

「なら当ててくれよ。この試合始まってからお前の弓技見たことないから本当に上手いのか見してくれ」

そうしてロイスになんとか弓を引かせるようにする。ロイスは渋々といった感じでけれど構えは真剣に的である壁を狙う。そして数瞬息を止め矢を、離した。


次の瞬間俺は壁とロイスの間つまり射線に入り、

グサッ!!

予想以上の衝撃に腕が後ろに弾かれる。

「いっ!…ふぅ、ふぅ…」


俺は既に感覚のない左腕を体の前に持っていき矢を受ける。感覚がないのに鈍い痛みを感じ息が荒く動機が上がる。

「な、何やってるんですか!?」

その俺の行動にロイスは顔を青ざめさせ痛むであろう足を気にせず片膝をついた俺に四つん這いのように寄ってきた。

寄ってきたロイスに俺は矢を抜いた左腕を見せた。

「外で何があったかなんて俺は知らない。だから殺すために人に弓を引けなんて俺は言えない。

だけど、この中じゃ人は死なない!だから俺は言う。お前の野望の為に弓を引け!例え人に幾ら弓を当てたとしても死ぬ事は無い!」


最後はまるで言い聞かせるかのように復唱する。確かにこんな荒治療じゃこいつはこの先戦争が起こった時に全く使えない人間だ。でもこの1歩踏ませるのと踏ませないのとじゃ過去に打ち勝つためのスタートラインにも立てない。

俺の無茶苦茶な宣告に、

「は、はは……なんですかそれ…

なんですかそれぇ…」

声を震わし俺がなんともないという安堵からなのかまた別の感情なのか涙を流し続けた。







「ん?ここは…」

大きな大きな白い空間。そこをただようように俺は浮いている。疑問に思いどこだろうと考えていると、

「目覚めましたか、我が子よ」

いつも脳内で流れていた愛しいその声が降ってきた。

「テミス様ですか!?」

俺は空に向かって叫び問う。問う必要なんてない。その声を別人と間違えるわけないのだから。

「ええ、私です。貴方のことを見守っていますよ。いつもありがとうございます」

目から溢れたそれを人は涙という。しかし私は言いたい。これは心の声なんだと。報われた気がした。大好きな人のためにしたことを大好きな人に褒められた。目から溢れる心の声は留まることを知らず流れ続ける。

「グスッ…い、いえ!…ぼ、僕はただ…ひ、あ、あなたさまのために…するべき事をしたまでです!」

その震える声に、声は言う。

「また1つ目的を達成してくれたのでしょう?」


「はい!貴方様のために215人殺しました!それらを完遂出来たのも貴方様がくれたこの能力のおかげです!」

お使いを上手くやった子供のように報告する。

「フフ、それは良かったです。貴方のような子を持って私は本当に嬉しいです。」

その言葉を聞けて俺は凄く誇らしく嬉しかった。認められた。褒められた。喜ばれた。色々な欲求が一度に満たされていく。俺はただこのまま眠りたくなった。母のもとで遊び疲れた子供のように眠りたくなった。だが、声はまだ続いた。

「しかし、中には貴方のように育ってくれなかった子もいます。私の言うことに耳を傾けてくれないのです。」

「そんな奴が…いたんですか」

複数の子供がいたことに少し驚いたがそれよりも母の言うことを聞かない所に俺は怒りで頭がいっぱいになった。

そんな俺のことを置いて声は続く。

「ええ、能力的には貴方の半身になる人物です。しかし、その子は能力を悪用しようとしています。お願いです、我が子よ。どうかあの子から能力を奪い返してくれませんか?」

母の頼みには肯定以外の返事なんてない。しかし、

「分かりました、テミス様。しかしどのようにしたら奪い返せれるのですか?」


俺にとって能力の奪取なんてやり方が全くわからない。しかし、それはとてもシンプルだった。

「殺してください。それだけで能力はこちらに返ってきます。」


その言葉に俺は、

「分かりました。すぐにでも。」

二つ返事で答えた。


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