勇者8度の世界で何思う

夢空

圧倒的な暴力の戦い

「チーム…チーム…」

驚いたと思ったら次は頭を抱えて熟考する。なんて忙しい人なんだろうか。そう呆れていると、なにか察したように俺に指を指してこう言った。

「そ、そうか!君は僕を嵌めようとしているだな!その手には乗らないぞ!」

(……えーと?この人は熟考の末どこにたどり着いたんだ?)

俺は溜息をつき再度この取引の有能性を話す。

「えーと、さっきも話した通りこの戦いは3人でチームを組むことが限りなく勝利に近づく。このどこに罠があるんだよ」

それに相手は憤慨するように

「だからその時点で僕を嵌めようとしているのはバレバレだ!君は説明確認を聞いていなかったのか?取引を確認したら即刻失格となるって言ってたじゃないか!」

(そこからかよ!)

俺はこいつを仲間にしていいのか不安になりながらも間違いを正してやる。

「お前こそちゃんと説明聞いてたのか?『お金による』取引は失格であってこの取引にお金は発生しない。つまりこの取引は失格となる要因はないってことだ」

「それは……!
……そうか。たしかに先生はそう言っていたな…」

(ふぅ…ようやくかよ)

俺はすでに気疲れをしているがまだ戦いは始まってすらいない。

「それじゃあ取引の話はどうだ?
悪いけどもうここに時間はかけてられない。早く移動しないとほかの連中が来てしまう」

悩む相手を急かして答えを聞き出す。すると、青年は眉間にしわを寄せ悩んだ挙句、

「んんぅ…………!……はぁ、わかった取引をする。
俺はロイス=ページストだ。ロイスでいい。」

(よっしゃ!ようやくいけた!)

俺は喜びを顔に出さないよう押し殺し、

「ああ。よろしくロイス。俺はクロハだ。家名はないただのクロハだ。」

その挨拶に意外だったのか、

「君は…いや、クロハ。クロハは貴族じゃないのに監督者を倒す実力があるのか?」

そのかなり失礼な疑問に、

「ああ、そうだけど…。何かおかしいか?」

ロイスは当たり前だと頷きながら、

「そういう戦闘技術を教える教師を雇えるのはお金に余裕のある貴族しかできないからな」

ああ、なるほど。とクロハは意外な所で自分の設定作りがあやふやだと気づく。しかし、今はそんな話をしている場合じゃない。

「そんな事よりも早く移動をするぞ。もしかしたらすぐ下にいるかもしれない。」

魔力反応は周りからビシビシと感じるが魔力放出量が多いのか遠くの者も感じてしまう。それのせいで近くにいるのか遠くにいるのかが分かりにくいのだ。しかしそんなクロハの心配も杞憂に終わる。

「いや、それはないはずだ。少なくともこの第三校舎内には俺たち以外誰もいない。」

「え?」

俺はあまりの驚きに声が出てしまう。

(判別できるのか?こんな魔力が縦横無尽に放出されてるここから?)

俺はロイスのことをマジマジと見る。しかしその当人は辺りの魔力を確認しようとはせずに何故か腕時計を見つめていた。まさかと思い自分の腕時計を見る。

「いや、ここに載ってんのかい!」

俺は久々に感じるツッコミをいれる。

見ればここに周辺の地図も載っておりこの4階建ての館内には俺ととなりにいるロイスの反応が赤点で教えてくれていた。

「おぉー!すげー!なにこれどうなってんの!?今まで生きてて初めて見た!」

その子供のような驚きようにとなりのロイスは唖然としている。

「まさか知らなかったのか?……確かに説明確認じゃ説明してなかったけど」

俺はそれに対して当たり前だと胸を張り、

「逆にロイスは知ってたのか?この機能」

俺の質問にロイスは溜息をつきながら、

「ああ、朝の説明でちゃんと言っていたからな。だからこの戦いが始まった時に俺の隣に魔力反応があったからあんなに注意していたんだ」

(ああ、あの高速目泳がしは注意喚起のポーズなんだ…)

俺は不審行動の意味がわかり納得する。すると、ロイスは呆れた顔になり、

「逆にそれ以外でどこに隠れているかとか判断出来ないだろ。」

まるでごく当たり前のようにそう言った。

(あれ?普通に魔力反応探ったりしないの?)

俺は自分がズレている事に今更気づき、あははと乾いた笑いをする。すると、次はロイスの方から「じゃあこれは知っているか?」と声をかけてくれる。

「ここのボタンを押すとこの戦いに参加している人数とその情報が出てきて見ることが出来るんだ」

俺は某アニメの青いネコ型ロボットよろしくな説明を聞いて腕時計を見る。ボタンを押すと残り31人と表示され再度押すと上から名前順に生徒名が書かれている。

(敵は近くにいないし今のうちに作戦会議しとくか)

そう考えクロハは戦いで最も必要となる敵の情報を聞くことにした。

「この中にロイスが知っている人とかいるのか?」

その質問にロイスはなぜか暗い顔になりながらも「ああ。」と答える。

「そもそも知らない奴がいない。ここに書かれているのはお前…クロハを除いて全員1流の貴族達の子供だ。僕と違ってな。」

その最後のフレーズに触れていいのか分からず、「それじゃあ」と流す。

「ロイスはこの中から敵にしちゃいけないやつが誰だか分かるってことか?」

「ああ、大体な。
まずロイド家の長男ブレイス=ロイドは力じゃ叶わない。単純な力なら今回入学した生徒のトップに出ると思う。」

俺は腕時計を操作しその生徒の情報を見る。見た目はどこかのヤンキー漫画から出てきたようなガキ大将だ。巨体でおそらく短気な性格なんだろう。

「次にレイティア家の長女ノイン=レイティア。彼女は魔術方面に抜きだして才能がある。噂じゃ5歳の頃に付けていた専属教師を倒したとまで言われているほどだ。」

俺はその少女の名前を押し詳細を見てみる。すると、

「あれ?この子ってあの車椅子の?」

そう。体育館で一人車椅子に座っていた子だ。黒のワンピースによって一際目立つ銀色の髪に悲しそうな顔をしていて、幸薄そうな少女だった。

「ああ。何故かは知らないけど歩けないらしくて10歳を超えてぐらいからずっと車椅子で生活をしているらしい。」

「ふーん…」

俺は何故かこの少女から目を離せなかった。どこかで似たような顔を見たことあるような気がする。しかし思い出せない。思いだそうとするとまたあの痛みに襲われる。しかし、クロハは思いだそうとする。

(なんだ?俺は何かを忘れている。絶対に忘れちゃダメだって思っていたのに……)

俺はもっと深く考えようとする。しかし、「それじゃあ最後の人を言うぞ」というロイスの言葉で思考を遮られる。

(しょうがない。今は選抜中だ。こっちに集中するぞ)

俺は考えをあとにして話に耳を傾ける。

「最後の注意人物は、レイスピア家の一人娘シャロン=レイスピアだ。彼女の家系は結構特殊で、先祖が先代勇者の右腕として活躍していた剣士なんだ。その影響かそれからの子孫は魔法ではなく剣の才能に恵まれシャロン=レイスピアの剣の腕はこの歳で聖騎士に劣らないと言われている。」

「はぁ!?まじかよ…」

俺は最後の部分を聞きありえないと驚く。聖騎士とは騎士の中の騎士、人生を剣に捧げ人生の後半にようやくなれるかどうかという程のとてもレアな存在だ。それがまだ人生が始まったばかりの15.16歳でなれるとかそれこそチートを疑う。

(これが才能ってやつか…)

俺は腕時計の生徒名シャロン=レイスピアを押し詳細を見る。すると、一瞬だが目を奪われた。よく整えられた顔立ちと純黒な髪は息をするのも忘れるほどだ。この世界の俺と同い年のはずなのに中学生のような見た目に俺は腕時計の写真に見入っていると、

「それで、僕達はこれからどうするんだ?」

その問いかけにようやくハッとして慌てて答える。

「あ、ああ!ええと、そうだな。 」

俺は腕時計を再び確認する。周りの赤点に注目して次の作戦を考えるのだ。

「俺たちの周りに赤点の集団は2つある。俺たちから見て南に1つ。それと校舎を挟んだ北にひとつ。俺達が目指すのはこの北のやつらの更に上にいる赤点が1つのやつだ。多分3対1で追われているんだろう。すぐに接近して仲間に誘う」

既に周りもこの作戦に気づいたらしく俺の周辺以外でも赤点が三つにまとまっていっている。この作戦で最高人数は3人だ。なら最高人数に達している方が単純計算で戦闘力は上がっている。人数が多くて困ることは無い。俺はそう考えロイスに提案する。しかし、ロイスは目をパシパシして、

「それってあれじゃないのか?」

ロイスは窓の外に指を指してそう言う。俺は慌てて窓に近づき下を覗く。すると、その下に彼女はいた。3人から逃げることなく真正面から刀を向け対面している。

「って、シャロン=レイスピアじゃねーか!」

俺は再びツッコミを入れ窓に食いつく。3対1で臆することなく対面しているのは先程まで話に出ていたシャロン=レイスピアだったのだ。しかも、

「うわ、向こうの3人の真ん中の人。あれがブレイス=ロイドだ。」

ロイスの報告に俺は目を剥く。

注意人物に指定されている二人が早速接敵している。

(どうする?早く下に降りてシャロン=レイスピアの手助けをして、ついでに仲間になってもらうか?いや!それよりも…)

俺は最善策を考えそして思いついた。完全に俺達が得をするいい手が。すると、ロイスは焦っているのか言葉を早めながら、

「どうする?もしシャロン=レイスピアを仲間にするなら今がチャンスじゃないのか?」

もちろん俺もそう考えていた。さっきまでは。

「いや、少しの間待機しておくぞ」 

「なんでだ?このチャンスを逃したら3対1で確実に負けるぞ!」

そんなのは当たり前だ。俺はどう言ったらいいのか考えを整理しながら、

「今あいつの顔を見てみろ。絶対に負けないみたいなニコニコ顔だ。今取引に行ったって私には必要ないとか言われて却下されるのが落ちだ。」

その俺の予想に確かにとロイスも同感してくれる。

「だから少し待ってボロボロに負けそうな時に俺達が出る。負けるかもしれないとあの自信満々の仮面が外れた時に希望の手を差し伸べる。」

この完璧な作戦。

(もし却下されてもあの二つのグループで潰し合うから3人の方も無事では済まない。そこを漁夫の利で取ればいい。あの二人を殺ったと周りに噂されば下手に手を出そうとするやつもいなくなる。一石三鳥とはこのことだ。)

クロハはしめしめと笑う。するとその提案に、

「クロハ、お前性格歪んでるな」

「いや、なんでだよ!」

(なんでこの作戦で性格の歪みが心配されるんだよ。何もおかしなところないだろ)

とりあえず、とクロハはわざとらしく咳払いをし、

「俺たちはあの戦いを観戦。シャロン=レイスピアが負けそうになった時に出て許可されれば戦って拒否されれば二人が潰しあった後に追い打ちをかける。それで行くぞ」

「ああ、分かった。僕も勝ちたいからね。
その汚い作戦に乗るよ」

(別に汚くないんだけどな)

そう思いながらも今まさに始まろうとしている戦いに目を向けるクロハであった。

クロハは今3階にて下のガンつけあいを観戦している。そのためこの戦いを上から観戦ができ、お互いの武器なども丸見えな状態だ。だが、

「ん?ブレイス=ロイドは素手で戦うのか?」

そう。シャロン=レイスピアは細剣をブレイス=ロイドの取り巻き二人は片手剣とナイフだ。しかし、その二人の中心にいるブレイス=ロイドは何もつけずボクシングの様に構えている。だから素手で戦うのかと思ったがそれにはとなりの解説であるロイスが否定する。

「いや、違うよ。ここからじゃ見えないけどブレイス=ロイドは魔法を付与できる鉄の魔具を付けていて、あれがブレイス=ロイドのメイン武器だ」

(あれか。地球でいうメリケンサック的なやつか)

俺が納得しているととなりのロイスは固唾を飲んで試合に見入っていた。すると、

「これヤバい。もしかしたらあの子、シャロン=レイスピアは秒殺されるかもしれない」

「………なんでそう思う?」

俺はブレイス=ロイドを観察する。しかし、少し足を後ろにずらし右手を力を貯めるように構えているだけだ。

「あの構えは1発にすべてを込めるインパクトジャムだ。あれをまともに食らっちゃ例え騎士様だろうと木っ端微塵だ!」

(木っ端微塵って完全に死んでるじゃん。)

俺はそう思いながらも考える。

どう考えたってあの攻撃が彼女に届くことは無いと。あんなに溜め時間が長く、しかもたった1発にすべてを込めるならその攻撃だって大振りになるはずだ。実際に向かい合って剣を構えているシャロン=レイスピアはつまらないといった顔で見定めていた。

そして、その男ブレイス=ロイドは動き出す。右拳は脇腹の所で力を込めつつシャロン=レイスピアに向かって走り出した。

(速い!)

100メートルはあった二人の距離を2秒ほどで半分まで詰める。

(速すぎるだろ!……まさか!)

俺は突っ込んだブレイス=ロイドの仲間である後ろの二人に目をつける。シャロン=レイスピアと対面してから一歩も動かなかった二人だ。いや、動けなかったのだ。

(あいつらがブレイス=ロイドをブーストさせてんのか!)

後ろの二人からは物凄く高濃度の魔力が溢れていた。

(あれはきっとブレイス=ロイドの身体能力の向上に魔力を費やしているから
だからあんな人間業じゃない速さで動けているのか)

しかもブレイス=ロイドはそこからさらに加速。2足でさらに半分詰めそして、拳を突き出す。しかし、

(!?
まだ全然距離があるじゃないか!)

そうなのだ。拳を出したのが早すぎたのか1歩分距離が遠い。しかもその単調な攻撃にシャロン=レイスピアは攻撃を完全に見切ってつまらないように右に避けている。これではカウンターを受けて終わるのは目に見えていた。それでもまだ諦めていないのか既に敵がいなくなった目の前に対して全力で拳をふる。

「オラァ!!!」

全力の拳は既に誰もいない虚空を殴る。しかしその瞬間事態は急変する。

それは炎だった。ブレイス=ロイドの右手から炎というよりも爆発に近い火炎が舞う。

(あの長い溜めや単調な動きは全部拳を避けさせるためのフェイント。最初から拳を当てるつもりもなかったのか。しかも、あの距離で爆発なんてされたら避けることさえできない)

俺は少女をもっと早くに助けておけば良かったと悔やむ。

そしてその火炎は一瞬にして周りを灰に変え、隣にいたシャロン=レイスピアも火炎に包まれ


『火炎はシュンと消えてしまった。』


「は?」

恐らくこれは俺、ロイス、そして目の前で起こったブレイス=ロイドから同時に出た声だろう。しかし、驚くのもつかの間。一瞬にして少女は翻り、

「ぐはぁ!」

ブレイス=ロイドは軽く10メートルを吹っ飛びゴロゴロと転がって止まる。誰も声を出さない。いや、出せなかった。疑問符ばかりが頭の中を埋めていく。

(何が起こった?完全にフェイントは決まって爆発に巻き込まれたはずだ。なのに爆発が消えた?魔力切れ?いや、あんな完璧なタイミングでそんな事が起こるわけがない。まさか元素魔法使いか!?いや、でもミィスさんもこんな事は初めてだって言ってたから違う。)

俺はいろいろな方法を考えてみるがどれもあの状況を説明するに足るものでは無かった。

「な、何しやがったテメェ!!」

その怒号に俺は熟考を止め目の前に集中する。耳をすませ声を聞き逃さないようにするのだ。

「なに言っているの?私はこの刀で斬っただけだよ」

シャロン=レイスピアは何もおかしなことはしていないぞと言わんばかりに頭を傾げながらその怒りの声に答える。

それで更に頭にきたのか怒号は大きくなる。

「何言ってんだ!俺の、俺の魔法が急に消えちまったじゃねぇか!どんなイカサマを使ったんだよ!」

あの数秒の戦いを見て必ず誰もが思う疑問だ。誰もがその問いに息を潜めどんな解答が来るのかと耳を立てる。しかしその再度の問いかけさえ何を言っているんだと溜息であしらう。

「だからさっきも言った通り、ただ斬っただけだよ」

その少女は黒い目でニヤリと笑いながら答える。

しかしその解答に納得のできないブレイス=ロイドは再び荒声をあげる。

「だから斬ったってなんだよ!俺が聞いてんのは俺を吹っ飛ばした方法じゃなくて魔法を…消した…ほう…ほ…う…」

しかし気づいてしまった。ブレイス=ロイドは目の前の少女シャロン=レイスピアに指を指して、

「お前ま、まさか…魔法を斬ったのか!?」

「はぁ!?」

俺はいま潜伏中なのにも関わらず大声でありえないと驚く。俺はあのガキ大将の変な勘違いだろうと期待しながらシャロン=レイスピアを見る。しかし、その少女は笑みを浮かべて

「ようやく分かった?うん、まあその反応を何度も見るのは楽しいけどね」

平然といいのけまるで日本刀のような刀を下に振り払いその場を静かにさせる。

そんな戦場を前に俺の胸中はありえないと大騒ぎが起こっていた。

(魔法を斬るなんてはっきり言って人間業じゃない!20年間ぐらい勇者としてかなり高めのステータスを女神に与えられて強かった俺だが魔法を斬るなんて偉業を成したことは一度もないんだぞ!)

確かに実力検定ではタワさんが魔法を斬ってはいたがあれは土魔法で出した固体の岩だから出来たことだ。はっきり言ってあんな事は勇者としてステータスの低い俺ですらできる技だ。しかし、あの少女がやってのけた事は
固体ではない火魔法を斬ったという事だ。

魔法を斬るというのはなにも魔法に剣を当てればいいのではない。魔法の心臓と言われる魔核を壊さなければならない。しかも固体ではないという事はその魔核は局在化しておらず魔法の中をグルグルと回っているのだ。確かに魔核のある部分は同じ魔法の他の場所よりも明るく光っているがそこに剣を当てるなんてどれほどの技術があっても足りない。それは20年間剣を振ってきたクロハ自身であるから言えることである。この偉業を簡単に言えば池にいるミジンコを爪楊枝で突くような感覚である。

(こんな事は絶対にありえない。でもこれが本当ならさっきの火炎が消えた理由も頷けるし…)

俺は自分の中の真反対の意見に頭を悩ます。すると、目の前の戦いが動き出した。

「さっきはそっちが仕掛けてきたから次は私から行くね!」

黒髪少女はそう言って1度剣を鞘に収め姿勢を低くする。次の瞬間加速。たった1歩で刀の範囲内に敵を収める。

「クソがっ!」

ブレイス=ロイドは思い切って後ろに跳ね飛ぶ。その跳ね飛びも後ろの二人によって強化されているのか一瞬にして刀の範囲外へと後退する。

(流石にこれは追撃に迷うだろ)

俺はその高速移動に少女はどうでるのかと目を移す。

しかし、

「ふん、それでも遅いよ!」

少女はブレイス=ロイドの強化された移動で拡げた距離をこれまた、たったの一足で詰める。強化された移動速度と一緒、いやそれ以上であることにその場にいた全員が息を呑む。しかし、この男だけは違った。

「おい!お前らの魔力全部俺の腕に集めろ!」

ブレイス=ロイドは近づく鬼に怯まず声を大にして轟かせる。するとその声にハッとして後ろの二人が魔力供給を再度始める。しかし、近づいた鬼は既に刀を鞘から抜き、一閃。

「グッ…!」

ブレイス=ロイドは一瞬で避けることは不可能だと考え、左手を前に出し致命傷を避ける。その結果左手はもろに刀の餌食になりダラリと力が入らなくなった。
もう誰が見ても絶体絶命の光景だ。刀の範囲内で避けることすらできず左手も使えない。しかし、そんな逆境でさえ彼は不敵に笑っていた。

「掛かったな!」

ブレイス=ロイドは右手を前に突き出して力を込める。右手と少女の距離、約1m程。この距離からの大爆発ならこの少女だろうと無事では済まない。もちろん爆発場所が目の前であるブレイス=ロイドも巻き込まれる。その覚悟でこの技に持ってきたのだ。そして約1秒。この間に魔力は完全に溜まり技を発動させる。

「死ね!シャロン=レイスピアアアアア!」

耳をつんざくような罵声をあげ、少女と男の間に赤い閃光が煌いた。そして、

ボシュン…

再び消えた。この技は偶然のものじゃなかったんだ。観客である俺たちと後ろの二人、そして魔法を2度も目の前で斬られたブレイス=ロイドは目を見張る。そんな中ブレイス=ロイドだけが気がついた。目の前の少女の気迫が先程と比べ物にならないくらいに大きく凶暴になってるということに。そして、言った。

「いまお前、私の名前を言ったな」

その言葉の圧力に息を飲もうとしたその時、足に力が入らず膝から崩れる。ハッとして足を見るといつの間に斬ったのか両足に複数回の切り傷。そしてその切り傷を確認してすぐに俺は吹っ飛ぶ。肩にジクジクと痛みがして、肩を突かれたと分かる。しかし、処理が追いつかない。体感時間ではまだ3秒もたってない。その間に両足に複数、そして肩に突きを入れられた。

「どう…なってんだ…ガハッ!!」

脳内が疑問符で埋まる中、腹に大きな衝撃を受けブレイス=ロイドの意識は飛ぶ。相手にした奴が間違っていたと後悔の念を残して。









「なんで…こんなことに…!」

それはクロハたちのいる所から真反対の東側で起こっていた。そこにはその少女を倒そうとした約20人の倒れた姿があった。生き残っているのはその少女ともう1人。右腕は感覚がなく魔力切れか頭がフラフラしている男性だ。その男は悪態をつきつつも目の前の暴力から目を離さない。すると、この戦いが始まってから『1歩も動いていない』彼女の周りから多種多様の魔法が浮かぶ。

「……!クソがっ!」

男は右に跳ねて、飛んできた魔法を避ける。飛来してきた魔法が地面を壁を空気を蹂躙していく。空気は焼け焦げ酷い匂いで周りを埋めつくし土埃で視界が遮られる。しかし、男もただの弱者ではない。あの鬼のような少女がどこに魔法を撃ってくるのか予想し転がって次々に避けていく。しかし、避けるのにも限界があり約18回目の水魔法ウォーターハープンが足に刺さる。

「うがああああ!…ッ!クソが!」

男は足から銛状の氷を引き抜き逃げようとする。しかし、足は思ったように動かずその場で転んでしまった。そして男は何も出来ないと察して敗北の運命を呪う。

「なんで…なんでなんだよ!お前おかしいだろ!なんでいくら魔法使っても魔力が切れねぇんだよ!ありえねぇだろ!」

この運命を変えれるような言葉は全く出ず、ただこの少女に対して文句を吐き散らす。そして、

「ああ…そうだ。
お前人族じゃねぇんだろ!魔族だ!それなら魔力切れが起きない理由も分かる!お前はまぞ」

そこまで言って男は上から落ちてきた土魔法サンドボール特大サイズによって潰れる。

そこには21人の敗者と一人の少女がいた。そして少女はこの戦いが始まって初めて動き出した。ガラガラと車椅子が動き出し敗者たちを踏んでいく。急に吹いてきた風によって銀髪をはためかせその少女はつぶやく。

「……つまらんな」

その少女はクロハたちがいる西へと向かうのであった。


残り人数9人


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