勇者8度の世界で何思う

夢空

Sクラス選抜戦開始!

「ねぇ、どこに行ってたの…?先生から選抜戦の時は外に出ちゃダメって言われてるよ」

ウサギのような人形を片手に小さな女の子は先程まで外に出ていた相手に対して注意する。注意された当人は不服そうに口を曲げて、

「だって気になったんだもーん。例の遅刻の人。けど拍子抜けだったわ。受け答えも表情も私が急に声をかけた時の驚き方も全部全部ぜーんぶありきたりで面白くない!」

その少女は見た目の大人っぽさとは裏腹に子供のように騒ぐ。それに小さな女の子はため息をついて、

「はぁ。しっかりしてください、サーナ。それでも大陸に一人の生徒会長ですか?」

それにサーナは憤慨したように、

「僕だってなりたくてなったわけじゃない!それなら生徒会長の座を渡すからもっと興味の湧くような人間を教えてくれよ。」

(これさえ無ければ本当にいい生徒会長なのに)と小さな女の子は呆れる。

「ああー!興味の尽きない人いないかなあああ!」

その声は生徒会室を無残に響かしたのであった。





「う……ここは…?」

俺は目を覚まし立ち上がろうとする。すると、側頭部に強烈な痛みを感じ頭を抑える。

(なんで頭が痛いんだ?魔法の副作用とかか?)

実は運ぶ途中に壁にぶつけたのが原因の痛みだがクロハは寝ていたため副作用だと勘違いをし周りの環境を確認する。どのような戦闘であっても周りの環境を知ることが勝利への一歩となる。今までの世界で習ってきたことの一つだ。

「ここは…学校の廊下か?それもかなり高いぞ」

目の前にある窓の外を見るとかなり高いことが分かる。恐らく4階ぐらいだろうか。下に先程同じ体育館にいた生徒が2.3人確認できる。

「つまりこれは学校を舞台としたバトルロワイヤル的な感じか」

俺は呟きどうしようかと考えたその時、

ピンポンパンポーン

自分の腕から大きな音楽が流れびっくりし腕を見る。すると左腕に腕時計が付けられたいるのがわかった。

「さきほど全員の催眠解除を確認しました。只今よりSクラス選抜戦開始とさせてもらいます!皆さん頑張ってください!」

それだけ流れると腕時計から音はなくなる。代わりに、

「ああ、なるほどな。これで隠れてもたしかに無駄だ。」

腕時計から多量の魔力がダラダラと流れているのがわかる。それは魔法を操るものなら誰でも分かるほどの量だ。これならすれ違えば必ずバレるだろう。

すると下から、キィン、キィンと剣と剣が交わる斬撃音が聞こえる。もう戦闘は始まっているらしい。

「さて、俺も行くか」

俺はすぐに行動を開始しようとする。もちろん俺は真正面からこの戦いに参加しようとは思わない。まず真正面から戦って勝てる確率がこの世界の俺のステータスなら限りなく低いのだ。

「普通に戦ってダメなら頭を使わなきゃね」

それにこの作戦はすでに他の参加者だって気づいているやつはいるはずだ。なぜならそれを含めて運営は使ってもいいよとあの説明会で言っていた。なら行動を早くしないと出遅れてそれこそ手も足も出ない状況になってしまう。俺は急いで近くにある階段を降り下の階に向かう。
すると、廊下の真ん中にいた。
この剣と魔法の世界でイレギュラーの様な存在の弓を手にあたふたと左右に目を泳がせる情けない姿が。
その青年は3度ほど右左を繰り返しようやく俺の存在に気づいたらしい。
「うわっ!」と、まるでリアクション芸人ばりの反応を示し廊下の左端まで後ずさっていく。

「な、なんだい君は!まさか俺を倒そうと躍起になってるのか!?」

その青年は背中に背負っている矢筒から矢を出そうとしているがかなり焦っているのかとるのに苦戦している。

(よし、とりあえず作戦開始と行くか)


「なあ、俺さっき実力試験を受けたんだけどさ」

その唐突な自分語りにあちらの青年は困惑しながらも、

「だ、だからどうしたんだい?知ってるよ、君、途中から体育館に入ってきた人だろ?」

その会話が出来る相手だと分かり安心しながらも言葉を繋げることに意識を向ける。

「ああそうなんだよ。それでなんだけど、実は俺実力試験の試験監督倒しちゃってさ」

その言葉に目を開きながら、

「た、倒しただって?」

もうポーカーフェイスというものを全く知らないのか感情が顔に出まくっている。

「ああ。だから俺は期待の新人として途中参加が許可されたらしいんだよね」

これに関しては全て嘘である。しかしその嘘だって自信満々に発言すれば相手にとってかなりの揺さぶりとなる。実際にあちらの青年は目をかなり泳がせながら、

「な…そ、そうか。それだったら途中参加の話だって通じる。……クソが…」

もうこれ以上威嚇しなくても相手の戦意が喪失しているのは丸わかりだ。しかし、もう一押しする。

「ああ。だからはっきり言ってお前を倒すことも造作もない。……だから取引しないか?」

散々落としてからの取引という救い。これには青年も唖然としたのか、

「と、取引だって?」

言葉を繰り返し頭に理解させようとしている。そこに俺は追い込みを決める。

「ああ、取引だ。それも俺とお前がお互いに得をするいい話だ。」

俺は頭の働かないうちにこれはいい話だと言い聞かせすぐに判断を求める。これはオレオレ詐欺や占い詐欺に共通する部分で人間の短絡的な思考を操る話術だ。俺はあえて剣を見えるようにゆらゆらと動かし考える時間が短いと考えさせる。すると、

「で、ではなんの話なのかを言え!取引はその後からだ!」

ここだ。ここでミスの無いようにしないといけない。ここで焦って取引の話をすると、こいつは付け上がり立場を逆転させられてしまう。まずきっちりとこの契約の上下関係を作らないといけない。

「言えって…。俺は別にいいんだ。ここで取引せずにお前を倒して他の奴と契約しても。ただ最初に会ったのがお前だからお前にこの取引の話をしているんだ。俺たち対等に行こうぜ」

俺は言葉にかなりの圧力をかける。すると相手は苦い顔をして、

「……言ってください」

俺はなんとか取引までが上手くいき、胸をなでおろす。

「ああ。じゃあ取引の話をする。」

ゴクッとあちらの青年は固唾を飲み構える。俺は再度息を吸いそして、

「俺とお前でチームを組まないか?」

俺と青年の間に長い沈黙が流れる。そして、

「はぁ!?」

青年は敵にバレるとかそんなのは関係がないと言わんばかりに大きな声で驚いて見せた。


まだSクラス選抜戦は始まったばかりだ。


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