勇者8度の世界で何思う

夢空

Sクラス選抜戦の説明確認

「え?いやどこいってんの!?」

俺はフリーズからなんとか脱し遅くながらもツッコミを入れる。しかし、当の二人は気にすることもなく歩いていってしまう。なんだろう。RPGの村長が最初のアイテムを渡さずにさっさと魔王を倒してこいと言っているようなこの感じは。

「無責任すぎるだろ……」

俺は泣く泣く武道館から外に出て、どっちに行けばいいんだろうと渡された地図をみる。

「ってこれ大陸図じゃねーか!」

それはこの世界の大陸を大きく描かれた地図で真ん中にこの王都が描かれている。そしてその王都の右上にバッテンが書かれており、そこから矢印がひっぱられ「ここに行ってね」と書いている。

「いや、いじめか!?嫌がらせか!?」

俺は貰った地図をぶりぶりに破いて落ち着くために深呼吸する。

「すぅ…はぁ…」

大体落ち着いたと感じ俺はどうするかと次は頭を悩ませる。

「とりあえず正門前にまで行くか

確かあそこに警備長のダルバンさんがいたはずだし」

俺はもうそろそろでお昼になってしまうと焦りを覚える。

「お昼から試合が始まるのよ」もしあの言葉が正しければ一刻の猶予もない。試合の説明どころか参加すら出来るのか不安だ。

「頼むから間に合ってくれよ」

俺は、小走りで向かおうとして1歩目を踏み出したその時「どうかしたの?」とまるで見計らっていたように声をかけられた。後ろを振り向くと武道館の隣に、長い黒髪を二つに束ねた少女がいた。恐らくこの世界の俺よりも年齢は上なんだろう。しかし、17.18の年にしては大人びて見える少女が「何か困ったことでもあった?」と再度聞いてくれた。とてもにこやかに。全てを見透かしているかのように微笑んで。

「あ、すいません。入学試験の説明を受けたいんですけど場所がわからなくて」

「へーそうなんだ、大変だね。確か説明会は第三体育館だからこの道を右に曲ってずーっと行ったところだね。そこにほかの建物より横長い建物が見えるから。」

女性(おそらく先輩)は気前よく建物の外見まで教えてくれる。

「ありがとうございます!すいません、今急いでるのでお礼はまたの機会に!」

俺は急いでその少女から離れる。頭を下げてすぐに振り返り教えられた道を小走りして目的地に向かう。別にその少女が嫌いだからとかそういう理由で離れたわけじゃない。

(あの目は完全に値踏みしている時の目だよな)

約20年間勇者をやってきてあの目を向けられたのは両手で数えても足りないほどだ。だからこそクロハはその目にとても敏感になっている。

(ああいう目をしている人とはあまり関わらない方がいい。俺の濃い人生経験から学んだことだ。)

俺は足の動きを早くし目的地である第三体育館に向かった。


「………ふん。ありきたりな質問に感謝の言葉もありきたり。マイナス5点ね」

少女は黒髪を翻して正門へと向かった。


体育館の場所を教えられた俺は次こそ迷うことなく目的地についた。第三体育館はまさしくドーム状のまるでアーティストがライブをするような外見だった。

「ここ、だよな?」

俺は日本の体育館との見た目の違いに困惑しながらも入口を開けて中に入る。もうしばらく歩くと向こう側に重そうな扉がありその先から説明する声がかすかに聞こえる。

(ようやくか…。ここからが本来のミッションの始まりだ!気合い入れろ!)

俺は頬を軽く叩きグッと力を込めて扉を開ける。重そうな扉はその見た目とは違って案外軽くギィと音を鳴らして開く。その扉の先には日本の体育館と瓜二つな見た目が広がっていた。そしてそこに自分と同じくらいの15.16歳の生徒が約30人ほど座っていて、そのさらに向こう側におっとりとしたお姉さんが壇上に立っている。恐らく説明を担当としている教員なのだろう。その合計31人がドアの開く音で全員俺の方を見ている。このとても嫌で懐かしい感覚はなんだろうか。

(あれだ。授業に遅刻した時に教室に入る時の感覚だ。また味わうことになろうとは。)

俺は軽くコミュ障を発揮しながらも何か言わないとと思い、

「あ、あの……」

声がどもり思い通りに言葉が紡げない。

(やばい。声が出ない。あれ、俺ってこんなに大勢ってダメだったっけ?)

俺は自分ではコミュ障ではないと思っている。普通に挨拶されれば挨拶を返せるし、普通に友達はいた。ただ一対多、つまり大勢に対してはどうしてもコミュ障が発揮されてしまう。これを分かってくれる同志はきっといると信じたい。結局俺は喉から言葉が出ず顔が青ざめそうになったその時、

「あ、あの!連絡を受けていた人ですか?」

その前のめりな言い方に頷きを返す。すると、

「はぁ〜…良かったぁ。ちょうど今から説明の再確認をするところだったんです。そこの席に座ってください」

その女性は右端の空いている席に指を指す。

「あ、はい」

俺は女性の方に向き直す生徒を傍目に右端の席に向かった。入り口から出来るだけ早く着こうと早歩きで行ったが約10秒もかけ着席する。やはりこの体育館はパッと見た感じじゃあまり分からないがかなり大きいようだ。

するとそれを合図に説明の再確認が始まる。

「えっと、えーと…どこから確認しようかな……。

あ!えと、今から行われるのは生徒同士の勝ち残り戦となります。皆さんには約1時間を使ってこの学園の第5号館までの範囲で戦ってもらいます。その間に最後まで残った3人は晴れてこの学園の最優秀クラスであるSクラスに入学が許可されます。しかしそれまでに気絶や戦闘不能状態になった場合は失格となりAクラスへの入学となります。ここまでで質問はありませんか?」

その女性はハキハキと喋りできる女と傍から見て感じる。その質問には誰も答えずここまでOKと言うことが確認された。

「はい。では次の説明に移ります。生徒の皆さんはこの腕時計を学園から支給されますので必ず装着してもらいます。この腕時計からは1時間分溜めた目印となる魔力が流れます。なので隠れたりずっと逃げ回ることが出来ないと考えてください。」

(腕時計があることも凄いがこの試験だってちゃんと考えられているんだな。)

そんないらないことを考えながらすぐに説明確認に耳を傾ける。

「ちなみにお金による取引や反則が見受けられた場合は即刻失格となりAクラスさえ入学する許可が出ません。お気をつけください。あ、ちなみに今回のみ学園内での戦闘による破損等はすべて学園側の負担となりますので安心して戦ってください。」

そこで説明の確認が終わったのか女性は深々と礼をし、

「それでは皆さん。Sクラスに入るために余すことのない努力をしてください。」

そう言った途端に生徒の半数は倒れた。

「ぐあ…」

かく言う俺も意識が一気に持っていかれそうになる。どうやら睡眠系の状態異常魔法だ。使ったのは説明をしていた女性なんだろう。にこやかにこちらを見て手を振っている。状態異常魔法のほとんどはじわじわと効かすのが当たり前でこんな一気に効果が現れるものではない。

(それなのにこの効き目……。あの女ただもんじゃないぞ)

俺は女を睨みつけるが限界が近づいてきた。

「くそ…」

俺は抵抗しようとも考えたがこれはこの戦いで必要なことなんだろうと気が付き抵抗をやめる。すると急激な眠気がクロハを襲いそして眠ってしまった。





「はぁぁぁ、良かったぁ。今年は全員効いてくれたよぉ。」

先程まで説明をしていた女性は深く安心したように溜息をつく。するとほかの教員の方が、

「もう生徒達を連れて行ってもいいでしょうか」

「あ、はい!本気で魔法をかけたからちょっとの事じゃ起きないと思いますが気をつけて運んでくださいね。あ、それと腕時計も。」

約十人の教員で31人の生徒に腕時計を付けてそれぞれの場所に連れていく。すでに一日目に見た生徒の実力で配置する場所は決めておりそれぞれの場所に全員を運ぶ。しかし、

「あの、この子はどうしましょうか。」

黒髪の女性はとある生徒を前に困惑していた。勿論クロハである。一日目を参加していなかったクロハには配置する場所すら決められていなかったのである。そこに説明をしていた女性が来て、

「そう…ですね…。
あ!ちょっと私が運んでいいですか?」

なにか閃いたのか自信ありげに任せてほしいという。

「いい所でもあるんですか?」

当然の疑問を問う。しかしそれには痛いところを突かれたらしく戸惑いを見せる。

「え、えと…そうじゃないんですけど、もしかしたらあの子を成長させれるんじゃないのかって思って…。まあ…直感…なんですけどね。」

後半は自信がなくなったのかボソボソと声が小さくなる。しかしその説明だけで十分だと思ったのか、

「私はその直感を信じますよ。大陸すべてを統べたその直感を。」 

力強い返答に背中を押された気がする。

あはは、と苦笑いを浮かべその青年を背負う。背負った拍子で壁にぶつかるが鈍臭いのはいつもの事、フラフラになりながら体育館の外に出る。

「この映像が本当ならこの子はこの戦いに恐らく勝つ。でも勝つだけじゃなくてもっと有意義なものにしないと。」

女性はこの戦いに勝つよりもその先の事を考えながら目的地に向かう。この人が、クロハくんが期待できる人でありますようにと願いながら。


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