勇者8度の世界で何思う

夢空

サーヤの決意

そこはとても薄暗く、辺りは何かが腐ったような匂いが立ち込めている。そこにそいつらはいた。黒のローブで顔はわからないが3人組だ。そいつらは足元に大きな魔方陣を書きながら情報交換を行っていた。

「それで、例のあいつはやれたのか」

ずば抜けて身長の高い1人が問う。それに対し、

「そ〜れがなんか失敗しちゃったらしいよ〜。まじ笑う」

「はぁ!?まじかよ!

あんな無防備なやつさえも殺れないとか俺が殺るぞ!」

「まあ待て。上からはこれが失敗したらこれ以上狙うなと仰せつかっている」

「はぁ!?なんでだよ!俺なら数秒で殺れんだぜ?ならこのまま殺った方がのちのち楽だろ!」

「黙れ小僧。あいつが預言書の通り勇者であるなら真正面から行っても返り討ちになるだけだ。しかも俺たちはお忍びでバレたら計画のすべてがおしゃかだ。お前はそんなことをしたいのか?」

「だから!返り討ちにならなきゃいいんだろが!」

「やめとけって〜。あんたにゃムリムリだし。」

「ああ。それに上はこれが失敗に終わったら信託の時まで待つと言っている。」

「それだって半々だろうが!2分の1で仲間になるか敵になるかなんて不確定すぎんだろ!」

「ああ。だからこそ面白い。いいじゃないか。その2分の1に賭ける為に俺たちはお忍びでこんなことをしているのだから。」

魔方陣を書き終えた3人は立ち上がりそして霧のように消えていった。残ったのは腐った何かと不思議な魔方陣だけである。



窓から差し込む光がまぶたを刺激し俺は目が覚める。朝はとても気持ちがいい。当たり前のことだがこの当たり前を俺は久しく忘れていた気がする。俺は軽く伸びをして昨日のことを思い出す。サーヤという少女に出会ったこと。同じ境遇者であったこと。そしてその子を傷つけ仲直りをしたこと。昨日は一日だけで本当に色々あった。色々あったが、

(やっぱりまた言えなかったな…)

昨日は傷つけた少女と仲直りしたり自分の実力測りで実力も分かった。しかし、他人に自分の過去を話すことがどうしてもできなかった。昨日はサーヤの機転で言わなくても良くなったがそれでも俺はかなり悔しかった。人を救うはずの勇者が少女に救われるなんて滑稽以外の何者でもない。

「はぁ…」

俺は溜息をつきながら宿においてあった寝巻きから普通の服に着替える。今日はとうとう目的の魔法学園に行かないと行けない日だ。しかし、

「たしかSクラスって言ってたよなぁ…」

女神はこう言った。「魔法学園そのSクラスに入りSクラスの人達と仲良くなること!」と。

(いや、無理だろ。今までの世界の力なら余裕で行けるが今の俺には無理だろ…)

そう。この世界のクロハはコントロールの良いただのすばしっこい子供なのだ。学園のトップに立つ存在のSクラスにそんな簡単に入れるはずがない。まず学園に来れるやつは大体金に余裕のある坊っちゃまやお嬢様ばかりだ。しかもそこではだいたい家庭教師を雇い幼い頃から魔術的にも身体的にも鍛えられている。今の俺ではそいつらにかなわないのは火を見るより明らかだ。

(まあそこは今までの修羅場の数で何とかするしかないな)

俺は気が重くなりながら部屋を出て階段を降りる。すると、

「ク、クロハさん!おはようございます!」

「ああ、おはようサーヤ」

朝一番の大きな挨拶に俺は微笑みながら挨拶を返す。挨拶をしてきたサーヤは昨日とは違い仕事着に着替え心なしか頬が赤くなってるような気がする。

「大丈夫か?頬が赤くなってるぞ?

昨日ので風邪ひいたのか?」

「ふぇ、い、いや大丈夫…です」

サーヤは何故か目を背け言いどもる。

(もしかしたら風邪ひいたのを俺のせいにさせまいとしているのか)

やはりこの少女はとてもいい子だ。

「いいんだぞサーヤ。俺に気を遣わなくても。昨日遅くまで(話を)していた俺が悪いんだし」

俺は健気に思いサーヤの頭を撫でてやる。

「……!もう!クロハさん!」

恥ずかしいのかサーヤは俺の手を払いのけ厨房の方に入っていく。

(?やっぱり元気なのか?)

まあ元気そうでよかった。俺も今日でここを出るから心残りがないようにしたい。

(てか早くこの宿を出たいな)

やる事は学園に入ってからが本番だ。早く到着して問題は無いだろう。それに、

(なんだか周りから殺気を感じるんだよな…なんでだろ)

俺は居心地が悪いのを感じながら食事のカウンター席に行く。すると次はサーヤのお母さんが厨房から出てくる。それもニヤニヤ顔で。

「昨日何話してたんだとか根掘り葉掘り聞くつもりは無いけどさ、落とし前はちゃんとつけなさいよ。」

「?落とし前…ですか?」

「ああそうだよ。うちの子も朝方からずっと悩んでるっぽいし。
まあ私は男手が増えるのは願ったり叶ったりだけど。」

「へ…え、ちょ、ちょっと待ってください!なんの話してるんですか?」

(男手とか落とし前って一体なんの話をしてるんだ!)

「え、あんたサーヤに告白したんだろ?昨日」

「はぁ!?」

(なんでそんなことになってる?………!まさか昨日人払いをしたのって俺が告白をすると思ったから?)

「あれ、違うのかい?昨日の夜話してたこと」

「ち、違いますよ!昨日のは…ただちょっと…旅の話とかしてただけで」

昨日話していた事はお互いにプライベートな部分だ。こんな人がいるところで暴露してはいけない。すんでのところでそう思いあやふやに説明をしたが、

「ふ〜ん、そっかー。
まあうちの子も見る目があるからあんたで安心だし。うちに入ったら厨房から接客業まで幅広くやるから覚悟しなさいよ」

なんか恥ずかしくて親にはぐらかしている中学生みたいになってしまった。

「だから違いますよぉ…」

俺がどうしようか途方に暮れていたその時厨房からサーヤが顔を赤くしながら出てきた。

「ちょ、ちょっとお母さん!なに話してるの!」

「あんたが聞いても答えないから直接本人に聞いてるのよ、いつ婿入りするか」

「む、むこ!」

サーヤは耳まで真っ赤になり、何故か後ろのテーブル席で「ぶっ!」「は?」「いって、舌噛んじまった」などその一言で一気に騒がしくなる。

俺は居ても立ってもいられなくなり、

「あの!早く会計をしたいんですけど…」

サーヤはまだ壊れたおもちゃのように「むこ、むこ、むこ…」と顔を真っ赤に呟いている。

「ん?なんだい、本当に1日限りなのかい。もういっその事この宿屋を継げばいいのに。」

(やはりこのババア俺達が恋仲でないことは分かってたんだな)

俺が会計の事を言って驚く様子がないのを見るとただサーヤと俺をからかいたかっただけだと見える。俺は言われた金額分銀貨で払い居心地の悪い宿屋ミードルからさっさと出る。すると、

「ク、クロハさん!待ってください!」

後からパタパタと足音を立てサーヤが追いかけてきた。

「クロハさん!これ!」

サーヤは両手を俺に突き出してくる。手にはなにか持っていてそれを俺に受け取ってほしいようだ。

「?ありがとう」

俺は右の掌が上に向くようにその両手のしたに添える。固く閉じられた両手は開きそして、

「指輪?」

銀の指輪だった。真ん中に小さな青いエメラルドの様なものがはめ込んであり花の模様が刻まれている。

「これを俺に?」

「はい!その…とくに変な気持ちとかないんですけど…その、またクロハさんが死人のような顔になったときにこの指輪を見てミードルの事を思い出してくれたらいいなって…それに、クロハさんに似合いそうだったから」

(グハッ!)

「?クロハさん?」

俺は満面の笑みのサーヤに吐血をしそうになりながらもなんとか耐える。耐える。耐える。耐える。

「いや、大丈夫。それよりほんとに俺が貰っていいの?こんな高そうなもの。」

「はい!貰ってください!」

「あ、でも俺お返しのもの何も持ってないんだけど…」

そう。この世界の常識として贈り物があった場合はそれよりも高価なものをお返しとして贈らないといけない。だがクロハには贈り物どころかカバンすら持っていない。どうしようかと首を傾げていたクロハにサーヤがまた顔を赤くしながら

「そ、それはまたこんどミードルに来た時に貰います…
その指輪と同じくらいのものを…」

とうとう俯いてしまい何を言っているのか後半は聞き取れなかったがまたミードルに来た時でいいと言ったのは聞こえた。

「分かった。じゃあ次来た時に用意しておくよ。ありがとう、サーヤ」

「は、はい!クロハさんも体にお気をつけてください!」

俺は軽く手を振るとそのまま表道りに行くために右に曲がる。そうしてようやく俺は魔法学園への1歩を踏み出したのであった。




(あげちゃったあげちゃったよぉ!)

それは約2年ほど前父から私にあるものをくれた。真ん中に青翠金と呼ばれる鉱石の付いた銀の指輪だ。父は「サーヤが大きくなってこの人と結婚したいって思う人が出来たらこれをあげるんだよ。きっと叶うから」そう言ってサーヤはこれを受け取りそしてそれをクロハさんに渡した。このことをクロハさんは知らない。

(でもクロハさんは言ってくれたんだ!次までに用意しておくって!)

サーヤはきっと叶いますようにと淡い期待を浮かべながらクロハの背後を見つめていた。すると、

「何やってんだい、サーヤ!早く厨房に来て手伝いな!」

店内からお母さんの大きな声が聞こえ、

「はいはい!今行くよ!」

私はクロハさんが見えなくなってから店内に戻る。お母さんからの小言が2、3回あり今日も宿屋ミードルは平和であった。

しかしこの時クロハもサーヤも知らなかった。無事に再び出会えることは無いという事を。


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