勇者8度の世界で何思う

夢空

同じ異常者として

「動かないとダメだよな」

サーヤとの話し合いが終わってから軽く10分が経とうとしていた。眠気は無くなったので今からすることを頭の中に整理していく。

まずはサーヤに謝ることだ。次にかなりの問題のお金だ。これがないと今も主張を続けている食欲を抑えることは出来ない。

(謝ること。あとはモンスター狩りか…)

窓の外を見るともう太陽は沈み月が出ていた。しかし、通りを歩く人だかりは減るどころか増えているように感じる。

(2つ隣の通りでこれだぞ。表道りはどうなってんだ?)

純粋に疑問に感じたが多分某遊園地の如く人がごった返しているのは自明の理である。見に行くだけで疲れそうなのでクロハは正門への最短距離を考え身支度をした。

まずは謝ることからだな。俺は部屋に鍵を占めすぐ左隣にある階段をゆっくり降りる。

(まず顔を合わせたらこっちから謝ろう。………なんて謝る?出会い頭にごめん!はさすがに向こうもびっくりするだろうし。いや、やっぱりそれが一番か。うん!それしかない。それでいこう。)

頭の中でシュミレーションを5回ほど繰り返しようやく降りるとそこは考えてもいない光景が広がっていた。

「あれはやっぱり俺の一撃が聞いたんだろう」「そしたらザックの野郎がさ…」「今日は気分がいいからもっと飲もうぜ!」「だから俺はこう言ったわけよ、そしたら向こうが…」

がやがやと昼には数人しかいなかった食事フロアに30人ほどの人達があーだこーだと言いながら楽しそうにご飯を食べていた。フロアには色々な食べ物の匂いが充満しておりクロハの腹の虫を嫌なほど鳴らす。俺は戸惑いつつも目当てのサーヤを探し、見つけた。

「あ、あの……」

と声をかけようとして止めた。

「はい!ご注文のミールパスタおまちどうです!」「はい!ご注文すぐとりにいきます!」「お母さん!メイミルの焼肉大至急です!」

昼では考えられなかったほどサーヤが働いていたかだ。俺は考え直し、

(まずは金を稼いで戻ってから謝るか。)

今ここで声をかけるのは迷惑の何者でもないと分かり優先順位を変える。俺はそのままチリンとなる扉を開け4時間ぶりの外の空気を吸う。体感的に日本でいう19時だろう。稼ぎ時と言わんばかりに色々なお店が客引きをしていてなんだか昼よりも賑やかである。俺は夜になり帰ってくる冒険者達とは反対に門に向かって走る。俺が門から出てやる事は金を稼ぐだけじゃない。使える魔法や本気を出したらどこまで戦えるのかも調べないといけない。最初に鬼ごっこをしたおかげである程度身体能力が高いことは分かったがそれでも細かく知らないといざ戦うとなった時にかなり駆け引きが困る。細かく知っていて損は無い。俺は鳴る腹を抑えながら人の波と反対側に今日何度目かのマラソンをするのであった。







3時間後


俺はうなだれながら再び夜のこの街に帰ってきた。ちゃんと金になる素材などいままでの世界での知恵を生かして狩ることは出来た。そして2つ目の目的である実力測りもしてきた。してきたが、

「はぁ……マジかよ…」

そう。この状態を見れば分かる通りあまりというかかなり俺の全体的なステータスは今までの世界よりも低かった。

まず100メートル走り短距離での速さを体感的に計ったが約10秒だった。確かにこれが日本でならオリンピックでぶっちぎりを出せるほど速いだろう。しかしここは異世界である。100メートルなんて1桁秒で移動できる奴は少ないにしてもいる。これが魔族なら大抵の奴は1桁秒で移動できるやつばかりだ。ここで俺の身体能力でのアドバンテージは消える。では次に魔力的なアドバンテージがあるか、だ。身体能力が低くても魔力的にアドバンテージがあれば何とかなることは今までの世界救済でわかっている事だ。しかし、俺はそれさえもなかった。使える魔法は誰しも使える強化魔法、それから水、土、火の3属性魔法が使えた。確かに3属性魔法使いは希少だ。希少だがそれは普通の人間ならの話だ。勇者としてこんな事はいままでにありえなかった。普通に全属性魔法や、元素魔法や、異種魔法などなどほとんど制限なく使えた。それなのに…。だが基本魔法の半分が使えるというのはまだ不幸中の幸いといえる。基本魔法は汎用性が効き色々な大魔法へと進化出来る。実際に5級までのマジッククオリティの中で4級からは高度魔法と呼ばれたり5級の中には神級と呼ばれたりする大魔法もある。だからこそクロハはまだ希望を捨てなかった。そう2時間前までは。

「まさか2級魔法までしか使えないなんて……」

そう。大魔法が使えるからと希望の光が残っていたのにその光さえ運命というのは踏みにじるのだ。

(2級魔法なんてほとんど単発の魔法じゃないか!クソ女神!なんでこんなにステータスが低いんだよ!)

一応この3時間の実力測りでいい事も2つ見つかった。1つはいままでに無いぐらい膨大な魔力量を誇っている事だ。しかし、魔力の多さが必要な大魔法は使えないからほとんど使えない。それに1級、2級なんかの単発魔法に膨大な魔力を加えれば魔法の命と呼ばれる魔核が魔力を抑えきれずに霧散そして灰と化す。この1つ目は本当に意味がなかった。だが2つ目は違う。俺がこの3時間で一番の収穫というのがこれだ。なんと魔法のコントロールが今までの世界と比べてずば抜けて良かったのだ!これを聞いて馬鹿にした人は考え直すべきである。例え赤ちゃんのような非力な力だったとしてもみぞおちに入ればうずくまるほど痛いのと同じなように急所に当たればいいのだ。結果としてこの3時間で得たものは2泊分の宿代と自分がただコントロールのあるちょっとすばしっこい子供であるということが分かった。

「はぁ………」

俺は何度目か分からないため息をついた。そうしていると二回しか見ていないのにもう懐かしさの感じる宿屋ミードルについた。

(まあまだ元素魔法は使えるか調べてないけど……使えるわけないよなぁ)

森の妖精、魔法の親と言われしエルフから禁断の魔法と言われている元素魔法。それはどちらかというと現代の科学的だといえるべき魔法だ。

(まあ使えたとしても危険すぎて使える場面がないよなぁ)

頭の中をそんな超危険なことでいっぱいにしながら3度目のチリンとなる扉を通る。すると、

「クロハさん!どこに行ってたんですか!」

「え、サーヤ?」

扉を通るなり怒鳴られ俺は困惑した。

(俺またなにかしたのか?)

サーヤの顔をよく見れば目には涙が溜まりいつ洪水を起こしても不思議じゃない。一体何がサーヤをここまでさせたのかが俺にはわからなかった。すると、サーヤが両手で俺の右手を手に取り、

「急にいなくなるからびっくりしたじゃないですか!また…あの時と同じ間違いをしたと思ったじゃないですか…」

はっ、とした。サーヤの父親はこの顔をして出かけて帰ってこなかった。きっと俺がいないことに気づいて自責の念に駆られていたんだろう。また失敗してしまったと。

「…ごめん。またサーヤを心配させた。」

この状況を第三者が見ていたらなんて馬鹿なのだろうかと嘲笑するだろう。今日初めて出会った仲で心配したりするものだろうか、と。だからこれは俺たち二人だからこそなのだろうか。俺も彼女も過去のトラウマという逃げることの出来ない罪を背負っている。そして彼女は俺という父と重なる人物と出会った。それはトラウマと再び対峙することと同じである。だからこそここまで心配し、父とは同じ運命にならないよう必死に俺の事情を聞いてきたのだ。考えたくもないが俺にもあのトラウマと再び対峙する機会があれば死に物狂いでも違う終わり方を探しただろう。だから俺は彼女に謝らないといけない。大きい小さいは関係ないとして同じ境遇にいるものとして。同じ異常者として。

俺は重たい沈黙の中、口を開いた。

「サーヤ、俺は…」

カンカン!

甲高い衝突音が食事フロアを響かせる。ハッとして見ると厨房の方から顔を覗かしたサーヤのお母さんがフライパンとお玉をぶつけ合いをしていた。

「はやく料理注文しないとここ閉めるわよ

注文しないならさっさと部屋に帰りなさい」

仏頂面で凄く良いタイミングだ口を挟んできた。もちろん悪い意味で。

これにはサーヤもイラついたらみたいで

「お母さん!クロハさんにも事情があって…」

(おおっと。そこをフォローするかサーヤちゃん。)

確かに彼女には異国のお金しか持っていない無一文だと知られている。だが今の俺は違う。

俺は手でサーヤの頭を大丈夫と軽く撫でてから、

「それじゃあおすすめのメイミルの焼肉貰おうかな」

「はいよ。ほら、サーヤ!あんたも手伝いなさい!」

注文しないとサーヤのお母さんがどこにも行かなそうだから注文したがサーヤを連れていかれてしまった。

(クソババア。なんてタイミングで出てくるんだ。)

俺は内心悪態をついていると再び厨房からサーヤのお母さんが出てきた。

「食べ終わってるやつはさっさと宿に帰りな!見世物じゃないよ!」

俺はハッとしてまわりを見るとなんと店内には数人の観覧者がいた。全く周りが見えていなかったことに今更顔が赤くなる。

へいへい、と数人の男達は宿屋ミードルから出ていきこの食事フロアには俺1人がいる状態になった。

(これはお母さんが人払いをした…ってことになるのか)

もしかしたらサーヤと俺の話が上手くいくように取り持ってくれたのかもしれない。そう思うとさっきクソババアと言ったのが申し訳なくなる。

(でもそれならサーヤを連れていく必要あるか?)

俺は不思議に思いつつも厨房から一番近いカウンター席に座って料理が来るまでサーヤになんて言おうか考えるのであった。


少しの時間が経ち食事フロアに美味しそうな肉の匂いが充満する。食事フロアに飾られているメニューを見ると使ってるソースに独自性を取り入れ他では味わえない料理になってるとか。厨房の暖簾がひらりと舞い料理が運ばれてくる。そこで俺はドキリとした。

「ど、どうしたんだサーヤ。その格好」

そう。サーヤは先ほどまで着ていた仕事着とは違い本当に可憐な少女の洋服を来ていた。この世界では珍しいひらひらとした服が美しさというよりも可愛らしさを強調している。

「こ、これはその…お母さんがもう仕事終わるから着替えなさいって…」

(よくやったお母さん!グッジョブ!)

俺は暖簾の奥にいる母親に向かって感謝の言葉を送った。すると暖簾からご本人が登場し、

「それじゃああたしはもう寝るから後片付けは任せるわよ、サーヤ」

そう言ってサーヤのお母さんも2階に上がって行った。ここまで来るとお母さんが俺とサーヤが話し合いをするのに無駄なものをすべて排除してくれたのは明らかだった。

(注文しないなら部屋に上がれって言ったのも部屋で話し合いができるように取り計らったんだな…)

そう考えるとドヤ顔で注文したのが恥ずかしい。

「じゃ、じゃあはい。クロハさん
ご注文のメイミルの焼肉です」

サーヤの声掛けに固まっていた俺はなんとか再起動できた。目の前に置かれた定食はご飯に味噌汁そしてメインのメイミルの焼肉だった。確かに嗅いだことがないスパイシーな匂いが包んでくれる。だが俺はまだ食べれない。それよりも、

「あのさサーヤ。実は俺…」

「ううん、それよりもまず1口食べてみて…?」

今度はサーヤ本人から止められた。しかし、これは料理を食べるよりも大事なことだと言い返そうとしたがその慈愛に包まれている顔に言い返すことが出来ず 1口だけならと口に運ぶ。

パク。もぐもぐ…

「ん!」

これは凄い!程よく効いたスパイシーな辛さが口の中に広がりその後に独自性のタレだろう。次にタレの甘さがにじみ出てスパイシーな辛さと上手く混ざっている。

(それでいてこの味は米と合う!やばい!これは止まらないぞ!)

俺は丸1日食べていない事もあって止まることなく食べ続けるのであった。

「ふふっ」


食べ終わった俺は程よい満腹感と幸福感に包まれながら食事の余韻に浸っていた。お腹一杯食べることでこんなにも幸せになるなんて久々に思い出した気がする。そう感じていると目の前のサーヤが、

「私、夢だったんです」

俺は目をぱしぱしとしながらなんの話なんだろうと疑問に思う。

「あの時、父が帰って来たら私の手料理を振る舞って死人のような顔を明るくさせようと考えてて…
料理が厨房で作れるのが22時までなので22時に作り置きしていて、それからずっと待ってたんですよね
父が亡くなったと聞く朝まで…」

再び2人の間に重たい空気が漂う。

「私、クロハさんには失礼なんですけどクロハさんと父の姿を重ね合わせてたんです。
だから夜クロハさんが帰ってこないんじゃないのかって凄く怖かったです。また同じことをしたんじゃないのかって…
でもクロハさんはちゃんと帰ってきてくれました。それに私の料理をあんなに美味しそうに食べてくれました。顔をとても明るくさせることが出来ました。だからなんだか私、報われたような気がするんです!父には出来なかったけれど同じ境遇の人を助けれたような気がして」

その笑顔を俺はきっと忘れることはないんだろう。自分と同じ境遇の人物が過去の亡霊に立ち向かいそして勝った。俺は「そっか」としか言えなかった。このままなにか喋ろうとするとなにか別のものが溢れるような気がしたから。俺は水を飲み干し体にリセットをかける。サーヤが話してくれたんだ。次は俺の番だ。

「俺はサーヤに嘘をついていた。」

文脈も誤魔化しも何にもない。サーヤが誠実にそして直球に言ってくれたんだ。変な小細工なしに俺はサーヤに伝える。

「俺は昔とんでもない罪を犯した。
この前うなっていたのはその事がまた夢に現れたからなんだ…
………っ俺は…昔……」

言おうとした。言わなきゃダメなんだ。

(サーヤも頑張ってトラウマを打ち明けたんだ。それなのに俺が怖じけてどうする!)

だが細かく思いだそうとすると頭痛に襲われる。吐き気や目眩が再発し口から声が出なくなる。手の感覚がなくなり呼吸が荒くなる。いつもならここで考えることをやめるが今日は違う。ここでやめたりはしない。俺を信じて言ってくれた人がいる。そしてそんな人が聞いてくれる。相談に乗ってもらえるんだ。こんな機会はもう無いかもしれない。

(思い出せ!思い出すんだ!)

しかしその意志とは逆に頭の中は白く白く塗りつぶされ体の奥は熱くなる。その熱は俺を包むようにどんどんと熱く広がりそして…

「クロハさん!」

「はっ!はぁ…はぁ…」

肩を叩かれ俺の意識は戻った。
(一瞬気を失ったような…)
俺は震える手を見ていると、

「大丈夫です。クロハさん。
わざわざトラウマを思い出す必要はないんですから」

「で、でもサーヤが言ってくれたんだ!俺も言わないと…!」

「いいえ。その言おうとしている姿が見れただけで私には充分です。
それにクロハさんが言えない原因は私にもあります。私じゃ手に余る。多分私には解決出来るという希望がないからですよね」

「……っそんなことはない。
そうじゃないんだ」

「いいえきっとそうです。実は私も同じなんです。宿に来る人来る人に父のこと相談する訳じゃないですよ。クロハさんならなんとかしてくれるんじゃないのかっていう希望があったからです。…なんてただ利用しただけの人が言っちゃダメですよね」

「…で、でもそれでサーヤに俺のこと話さないのは平等じゃないだろ…」

「はい、そうですね。だから私はもっと成長したいと思います!」

(は?)

「は?」

思わず思ったことが口に出てしまったがサーヤは続ける。

「今の私じゃ足りないんだからもっともっと成長して、クロハさんが自分から相談してくださいと言わせられる女の人になりたいと思います!」

俺は口をポカーンと開けそして、

「……ふ、ふふ、はははははははは!」

俺は大声を出して笑ってしまった。

「え、ちょっとなんですか!なんでそこで笑うんですか!」

「いやだって…そこから成長したいって…ふ、ふふ、ははははははは!」

俺の笑いのツボはおかしくなってしまったのだろうか。笑っても笑っても一向に収まる気配がない。すると、

「もう!……ふ、ふふ、あははは!」

俺の笑いに釣られたのかサーヤも笑い出してしまう始末だ。

こんなに笑ったのはいつぶりだろう。本当に10年20年ぶりじゃないだろうか。俺はとうとう腹を抱えて息苦しくなりながらも笑い続けた。


「それじゃあ片付けるね」

サーヤは俺が食べ終えた食器を片付けるべく皿を重ねたり机を拭いたりしていた。

「それじゃあサーヤ。今度は俺から君に相談を持ちかけてもいいかな?」

サーヤはぱあっと花が開いたような笑顔になり

「はい!だからその時までにいい女の人になるよう私も頑張ります!」

俺とサーヤは初めて会った時から一気に距離は縮まり今ではお互いに笑顔で話ができている。

「それじゃあ俺はもう寝るよ。おやすみサーヤ」

「はい!おやすみなさい!」

サーヤはルンルンを体現したように食器を片付けをしている。

俺はよし、と椅子から立ち上がり階段に歩を進める。そして、

「あ、さっきサーヤが言ってたことなんだけど」

「はい?」

「ただ利用しただけって言ってたあれ。

本当に利用しただけだったとしても、君は過去のトラウマを赤の他人である俺に話したんだ。普通の人には出来ないことをやってのけた。その事は誇ってもいいと俺は思うよ。

それじゃあおやすみ、サーヤ」

俺はそれだけ言うとすぐに階段を上がり2階に上がった。



「クロハさん…」

1階には食器を片手に固まっているサーヤの姿があった。サーヤは自分の胸が高鳴っていることに今更気がついた。サーヤは知っている。これは恋であると。しかし今日初めてあった青年に恋をしたなんてサーヤがもっとも嫌っている娼婦と何も変わらないではないか。しかし頬は赤く火照り、鼓動はどんどん早くなる。目が愛おしくトロンとなっているのは誰が見ても恋する乙女にしか見えない。サーヤは食器の片付けなんか忘れ両手で頭を抑える。

「んんぅぅぅぅ! 
どうしようどうしよう!」

(確かクロハさんは旅をしているって言ってた…しかも泊まるのは1日だけって…じゃあ会えるのってもう明日だけ……?)

胸の高鳴りはいつしか止まり、次は締め付けられるような苦しみに襲われる。これはもう弁解の余地もない。
サーヤはこの感情をどうしようかと明け方まで考えることとなった。


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