勇者8度の世界で何思う

夢空

それはとても長い1日の始まり

「やっとついたかぁ…」

疲れた。ただその一言だけが俺の頭の中をグルグルと回っている。

丘の上から移動して約1時間。歩いて歩いて歩いてようやくこの大国に着いたのだ。

「あそこからじゃすっごい近く感じたけど…こんなに離れてるものなのかよ」

(もう今日は運動しない。絶対しない。まず宿からでない!)

ただ1時間歩くだけなら全然良いんだが4時間ガチ鬼ごっこをした後のこれである。正直吐き気さえも感じ始めてきていた。

だがそんな気分もここまで。ダメ男発言を頭の中でグルグルしている間に目的地であった大国の正門に到着した。

(すごく賑わっているな)

クロハが正門を通って最初に思ったのはそれだった。女子供は楽しそうに買い物をしたり友達と遊んだり本当に幸せそうだ。男の連中は今日も働くぞと仕事に勤しんだり、冒険者なのか今日狩りに行くモンスターの話や作戦をあーだこーだと仲間たちと相談したりしている。

(これも魔王が倒されているからこんなに平和なのか?)

今までに魔王を倒すというのがミッションの世界はいつくもあった。その世界の街並みが本当にひどかったのを今も覚えている。街に人は出歩かず店のほとんどが閉められ声1つしないなんてこともあった。

(魔王がいなくなるだけでこれだけ変わるのか、先代勇者に感謝だな)

だがだからこそいまクロハを困らせていることがある。既に魔王がいないということだ。今までの救済活動では魔王を倒せや魔神信仰の宗教団体を壊滅させろなど目的は明確だった。

(なのに今回は仲良くなれって)

未だにクロハは女神に対して未練タラタラだった。倒すではなく仲良くなること。もしかしたらそっちの方が圧倒的に難しいのかもしれない。

(ふぅ、まあ今はいいか。とりあえず近くで休めるところを探すとしよう。)

俺はキョロキョロと周りを見る。そこには野菜を売る店。服を売る店。装飾品を売る店や食べ物屋などなどまるで日本の祭りのように賑わっている。このままこの平和な街を眺めるのはいいがさすがに睡魔と食欲が限界だ。

(平和な街中で野垂れ死ぬ前に宿を見つけないとな)
俺は街をずらりと見る。すると繁盛している食べ物屋の隣に胡散臭さMAXの占い師が水晶玉を前に座っていた。
(暇な人そうだし声をかけても大丈夫だよな?)
俺は顔をローブで隠している女性?の方に声をかける。
「あの、すみません。
旅のもので宿を探しているんですけど近くの宿の場所分かりますか?」

すると、そのローブは水晶玉からこちらに向き、

「おおおお…なんという事じゃ…」

なんか急に深刻そうに悩み出した。

「あの、宿の場所を…」

俺は聞こえていないのかと思い再び問いかけようとする。すると、
「お前さんには分かるか!?知人を殺める苦しみを!復讐に身を投じる者を自身と重ねる苦しみを!極寒の中、死した友を看取る苦しみを!」

「うわっ!」

ローブの女性は急に立ち上がったと思えば奇声を発し前のめりになって熱弁する。

「全ての苦しみを解かすために投じた薬も後には毒となり滅びる!すべては限界のグラスに入れた一滴によるものだ!それさえなければ……!」

とうとう女性は天を仰ぎ見て祈りを捧げ始めた。俺はその状況に絶句していると、

「あんた、やめときな」

隣の繁盛していた店のおじさんがシッシとする。

「そいつぁ戦争で家族失ってからあんなんなっちまってんだよ。喋る事も全部一緒だ。関わらねぇのが身のためだぜ」

それだけ言うとおじさんは忙しそうに店の仕事に戻る。俺はチラリと周りを見るがこの風景が当たり前なのか誰も気にしていない。俺は立ちあがり軽く一礼してから大通りの真ん中に戻る。

(あれが戦争の傷跡ってやつか。久々に見たな。)

勇者の責務に追われてからは戦争後の街に行く暇なんてない。結果としてああいう人たちを見るのも耐性が緩くなっていた。俺は戦争の本当の痛みを感じつつ再び最初の目的である宿探しに戻った。

あれから結構たったが宿が全然見つからない。この大通りをキョロキョロと探しているがどこにも宿らしい看板や客引きさえも見つけられない。もういっそどこかの食べ物屋で食欲だけでも満たそうかと思っていたその時に

「キミ!宿探してるの!?」

「え、ちょ、ちょっと…」

ガバッと腕を組まれ大通りの真ん中を歩いていた俺は道の右側にまで引き込まれていった。

「キミ宿探してるんでしょ?さっきからキョロキョロしてたし、見ない顔だし」

「あ、ああ。もしかしてキミ客引きの人?」

「はい!あ、私はサーヤって言います!
どうですか?私のところの宿は。
ご飯は美味しいし布団はふかふかですよ!
ちなみにおすすめはメイミルの焼肉です」

道に迷っていてこの提案である。案外俺は運がいいのかもしれない。転移先が森の最奥で最初は頭を抱えたが街に入ってからは幸先がいい。

「それじゃあ案内頼んでもいいかな
あ、俺クロハよろしく」

「はい!よろしくです!それじゃあ着いてきてください!」

サーヤという少女は俺から腕を離し俺の前を歩いて案内をしてくれた。

(む、少し残念だ)

腕に残った仄かな温もりを残念に感じながらちょっとした疑問を聞いてみる。

「あのさ、なんで裏路地に行くの?」

俺は大通りから細い道を右に曲がるサーヤに対して不審に思い聞いてみる。サーヤはキョトンとした後にあー。といった感じに頬に指をついて納得して答えてくれる。 

「そういえばクロハさんはこの国初めてそうでしたね。
ここはこの国最大の通りなんですよ
だから夜中も人通りがとても多くてこの表道りには宿はあまり無いんですよね。だから1本2本隣の通りじゃないと宿は見つかりませんよ」

「あ、こんなに人が多いとそんな事になるのか」

栄え過ぎるにも問題があるのかと初めて知った。今までは人が少なすぎることが問題で色々解決してきたが多すぎて問題は新鮮でいい経験になった。

そう考えてるうちに2本隣の通りについた。

そこは大通りよりは少ないがそれでも十分な人通りがあり、あちこちに宿や食べ物屋など密集してないにしろそこかしこに点在していた。うるさすぎず静かすぎないなかなか良い雰囲気を醸し出している。

「こっちですよ!クロハさん」

はっ!いかんいかん普通に街の雰囲気を楽しんで案内されているのを忘れていた。

「はい!ここが私の家が経営しているミードルっていう宿です!」

「ここが…」

一目見た感想は田舎の喫茶店の様にのんびりした感じだ。

「はい!どうぞどうぞ
汚い所ですが」

俺は遠慮しがちにチリンとなるドアを通る。そこはご飯を食べるフロアのようになっていてもう既に人がお昼ご飯を食べている。

すると、

「汚いってなんだい!それは毎朝のアンタの掃除がなってないからだよ!」

フロアの奥の部屋(恐らく厨房)からふくよかな女性がかなり大きな声を出しながら顔を覗かせていた。

「もう!お母さんうるさい!せっかくお客さんを連れてきたんだから大人しくしといてよ!」

「なんだいその言い方は!朝一番に外に出てやっと一人連れてきたくせにいっちょまえに!」

「そ、それは、今日は不調だっただけだからだよ!」

なんか急に言い合いが始まってしまった。

(これ大丈夫なのか?他のお客さんたちは?)

俺は始まった親子喧嘩に周りの客に迷惑ではないのかと心配になり辺りを見たがそれは杞憂に終わった。周りはピリピリとした雰囲気とはかけ離れたほんわかとしたどこか懐かしい雰囲気に包まれていた。中には「また始まった」と微笑ましく見守る男性もいて、まるで親が姉妹の喧嘩を眺めているような感じであった。

(きっとこれが宿屋ミードルの日常なんだな)

そう思うと確かにお互い本気でいがみ合ってる様子じゃない。

(なんだか俺までのほほんとするな)

この雰囲気は嫌いじゃない。どうやら俺は当たりを引いたらしい。

「あ、ごめんねクロハさん
すぐ部屋の説明と鍵持ってくるから!」

言い合いがひと段落ついたのかサーヤはパタパタといかにも受付の様なとこに行った。

母親はまだ注文のご飯を作るために厨房に入っていき他のお客さんたちも昼ごはんに戻っている。

周りの景色を確認した俺は受付に向かおうとすると既にサーヤが鍵を持ってきていて、

「こっちだよクロハさん着いてきて」

なかなか行動が速い子だ。一人娘として色々なことを詰め込まれたんだろう。

「それじゃあ頼むよ」

「はい!」

俺たちは受付の左前にある二階への階段から上に上がりいくつか部屋のある廊下についた。そして一番階段から近い右の部屋の前に立ち、

「はい、ここがクロハさんの部屋だよ」

鍵を渡されドアを開けた。

「おお」

ぱっと見た感じはやはり田舎の1部屋だ。あるのは木製の机とベッドのみである。

「それじゃあクロハさん!1日分の宿代は明日でいいからゆっくり休んでね
ちなみにご飯は別料金だからね」
「え、なんで俺が1日しか泊まらないって知ってるの?」

俺はこのサーヤにはそんなことは言っていない。確かにこの国は初めてと言ったがそこから1日しか泊まらないとは解釈できない。

「あ、それはですねクロハさんの今の見た目…かな
キョロキョロしてたしこの国の人ではないでしょ?多分旅の人かなってその時は分かったんだけど、近づいて見るとかなり疲れているように見えるよクロハさん。
それはもう死人に近い私のお父さんみたいになってるよ」

(色々ツッコミどころあるけどお父さん!娘に死人って言われているよ!)

あははと苦笑いをしていると、

「だから旅の途中で疲れていたところにこの国に来てて一日休んでまた旅に出るのかなと思って……違いましたか?」

サーヤは心配そうにこちらを上目遣いで問い返してくる。

(ちょ、それはルール違反だって)

かなりの衝撃がクロハを貫く。そりゃあちらは見た目15歳の手を出したらすぐにでも警察が出動するような少女だ。だがそのよく手入れされている黒髪や大きい二重の目、お淑やかだがちゃんと存在感のある胸……

(はっ!ダメだダメだダメだ!)

「い、いや全部あってるよ
当たりすぎて怖いぐらいだ」

「ほんとですか!私的にもこの観察眼は誰にも負けないと自負しています!
なのでクロハさん?宿代は明日の昼までなら全然大丈夫なので逃げないでくださいよ?」

それじゃあ、とニヤリと笑った探偵少女はパタパタと階段を降りていった。

(や、やばかった。かなりやばかった。)

俺はポケットから出していた複数の金銭を手に汗がダラダラと止まらなかった。よく見るとそれは前の世界つまり7回目の世界の国のお金だ。

(だからさっきのサーヤはこのお金を見てああ言ったんだな
確かにすごい、すごすぎる観察眼だ)

だがどうしようか。スボンのポケットをまさぐっても他にお金は無く初期装備もこの世界の普通の服だ。特にお金がかかってそうなものは持ち合わせにないし、かくなる上は、

(モンスター狩りに行かなきゃダメか…)

どうせ食欲を満たすためにもお金は必要。なんで女神はそんな事さえも出来ていないのかクロハはかなり女神に対して怒りを覚えていた。でもそれ以上にクロハの睡眠欲が勝ってしまったようで、クロハは布団に倒れた。

すると眠気は待ってましたと言わんばかりにクロハに襲い掛かり意識はどんどん薄れていく。そんな中クロハは思った。

(疲れている…か)

確かに4時間の鬼ごっこに1時間歩いた。だが死人のような顔になる程ではない。今までだって1日中走り回る時だってあった。

(まあいいか。とり…あえず、寝て…からきめる…か)

そのままクロハは意識から手を離した。




夢を見た。それは俺が決別をした世界の夢。助けようとした人から迷惑だと言われている。敵対した世界から軽蔑の目を向けられている。そんな夢。もう何度も見た。何度も感じた。何度も後悔をした。だから俺はこれを戒めにしてこれからの世界救済の仕方を変えた。そして俺はうなされて起きる。いつもの睡眠。いつもの夢。だが、

「…………」

その少女がいた。迷惑だと非難され、軽蔑の目を向けられている中、白い髪をした少女だけは近づいてきて手を握ってくれた。しかしその少女の顔はない。まるで自分の脳が思い出してはならないとブレーキをかけているようだ。

「君は…」

俺は少女に問う。少女を知るために。いや、思い出すために。俺はこの少女を知っていたはずだ。しかし、何も思い出せない。だからこの少女に問う。すべてを思い出すために。絶対に忘れてはならない君を思い出すために。少女の口はその質問に答えるために開きそして、

「うわ!はぁはぁはぁ…」

俺は飛び起きた。冷や汗が止まらない。動悸は最高潮に跳ね上がり目眩も酷い。だが今までの夢とは違うかった。

(あの女の子はいったい………)

考えれば考えるほど頭痛が酷くなる。転移酔いが更に酷くなってる感じがする。

「う、うぅ…」

左手で頭を抑えようとしてその左手が繋がっていることに今気がつく。

「あ、あの…」

「え、うわ!び、びっくりした」

そこにはサーヤが俺と左手で手を繋いでいる状態で膝立ちしていた。なんでサーヤがこんな所にいるのかと嬉しいという感情よりも驚きが強くなっていた。

「な、なんでサーヤがこんなところに?」

サーヤはなんだかおどおどした様子で、

「そ、その、他のお客さんを部屋に案内した時にその…うめき声が聞こえてきて…」

(あちゃー…やっちまったか…)

この経験は3回目だ。声を出さないように気をつけていたのに疲れすぎて緩んでいたようだ。

「あ…はは、ごめん。でも大丈夫だから。
変な夢を見ただけだからさ」

変なところを見られたのはもうどうしようもない。なんとかしてサーヤを安心させないと。だが、

「……っ!嘘つかないでください!
私の観察眼がなくてもいまのクロハさんが大変だっていうのは分かります」

「あ、ああ。そう…だよな」

やはり俺は気が抜けているらしい。あんな悲劇が起きて約20年経っている。その20年間こんな事は起きないよう気を張っていた。それなのに…

沈黙が二人を包む。先程まで感じていた頭痛や目眩はなくなり繋いでいる左手の温もりが心地よく感じる。そして、

「も、もし辛いことがあるなら相談してほしいです。私じゃ足りないかもだけど」

この少女はいい子だ。だが異常だ。普通なら赤の他人にここまでする人はいない。

「なんで俺にそこまでするんだ?俺たちは今日初めてあったところだろ」

「そ、それは………それは!」

少女は少し迷いそれでもと覚悟を決めて

「クロハさんのその顔が私の父に似ていたからです。見た目がとかそういう事じゃなくて
その…死人のような顔が似ていたからです。
その顔をした父は仕事先の事故で……亡くなりました…」

空気は重くなり再び沈黙が二人を包む。そして、

「私はその時から後悔してて…
あの時誰よりもそれに早く気づけてた私が話を聞いてあげていれば事故は起こらなかったんじゃなかったのかって…… 
だから今度からは後悔しないようにしようと思って。
その、クロハさんとは関係ない話であれなんだけど、でも!話を聞くぐらいなら私でもできます!……話してくれますか?」

(あ、そっか。この人も過去に後悔している人…なのか)

過去に後悔する者。未来は輝いていると話す者。復讐心を燃やし鍛錬を続ける者。今までで色々な人と出会ってきた。だがここまで赤の他人に対して優しく出来る人は今まで出会わなかった。たとえ話を聞いてもそれも結局は赤の他人の話をだ。うめき声が聞こえただけで手を握ってくれるなんて普通じゃありえない。この子は異常だ。でも。

(異常だからこそ俺が話すことも自分のことのように聞いてくれるんじゃないのか)

そう思い俺は口を開いた。

「いや、本当にただ悪夢を見ただけなんだ。ありがとな心配してくれて。」

そんな事を言った。
こんな事たとえ観察眼が無くても見れば嘘をついているのは分かるひどい逃げ方だった。

だからこそ観察眼をもつサーヤは少し目を見開いて、

「………そっか、分かりました!下に晩御飯用意してるので早く来てくださいね」

サーヤは繋いでいた左手を解いて立ち上がりそそくさと部屋を出ていった。たとえ嘘だと分かってもこれ以上聞いても話してくれないことを理解して流してくれた。分かっている。サーヤが過去のトラウマを話してくれたのに俺が話さないのはダメだということは。だが出なかった。頭では話そうとしていたのに口では違う事を話していた。

「ふぅ…」

俺は再びベッドに倒れる。誰もいなくなった薄暗い部屋でクロハはため息をつく。やることはたくさんだ。まずサーヤに謝らないといけない。向こうは嘘だと分かってるのだから謝るぐらいは人としてやらないといけない。

「あとは金だな。それとご飯」

俺は少女を傷つけたという負い目を感じながら金をどうするか頭を悩ますのであった。


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