勇者8度の世界で何思う

夢空

7度目の終わりと8度目の始まり

ふぅ、と俺は息を吐く。

白い息が吐き出され空へと上がり消えていく。

(人の命もこの息のようにすぐ消えてくんだろうな)

俺は視線を空から目の前の惨状に向ける。

そこには火の海が広がっておりその中央にはさっきまで魔王だった物がある。そいつから目を離し俺は城から出るために出口に向かう。もう屋根は吹き飛び柱には無数のヒビが入っていていつ壊れるか分からない。すぐ行動するべきだろうと考えたのだ。

(歩きにくいな…)

足元には数多の兵が死んでいる。対魔王に編成された騎士団の人達だ。侵攻前に掲げた願望も約束も今ではただの亡骸で意味をなさないものとなっていた。

その亡骸の中には寝食を共にした仲間と呼ばれる人もいた。しかし、それは女神のミッションをクリアするのに必要であったから作った上辺だけの仲間だ。先程そいつが殺されるのを直に見たが感情は何も生まれなかった。人の死を見すぎたのか、それか自分の本当の感情を出さないようにしているからか。

(まあ、どっちでもいい。
さっさと天界に帰って次の世界に行くか)

俺は廊下に出ると目の前にある窓から外に出る。外には騎士団の連中が逃げ出した魔族を殺すべく追いかけ回しているのが見える。

それを端目に俺はアイテムボックスから支給された帰還玉を取り出し、魔力をこめる。

魔力を込めるとその玉は光輝き俺の体を包んでいく。そして辺りの景色が薄れていく中、聞こえた。

「クロハ!ちょっと待てええ!」

はっ、と俺は声のする上を向く。俺が飛び降りた窓から一人の男性が顔を覗かしている。

「クロハ!くッッ…これを持っていけ!」

投げられたそれは帰還玉から放たれた光を反射させながらクロハに向かっていく。

魔王の攻撃と比べるとあまりに遅い。しかしそれを受け取ることはクロハにはできなかった。それは足元に落ち俺はそれを見ないように投げた本人に目を向ける。そいつはいつもの笑顔でこっちに笑いかけていた。


片手片足の状態で。


よく見ると顔は青ざめ残りは少ないという様子を表している。

そいつは息を肺いっぱいに吸って、

「じゃーな!クロハ!
お前のおかげで復讐が出来た!お前のおかげで俺は妹と向こうで顔を合わせられるよ!
………あんがとな!」

最後は息が足りなかったのか少し間を開けての感謝の言葉。

そしてそいつは窓から見えなくなる。倒れたのか、それかまだ廊下に残っていた魔獣にやられたのかは知らない。

だが死んだという事実は誰の目にも明らかだった。そして、帰還玉の発光は最大になり俺の意識も薄れる。

そんな中俺は思った。


(あいつの名前は何だったんだろうか)


この世界に降りてから約1年。最初に出会ったのもあいつだった気がする。毎日顔を見ない日は無かったはずだ。だけど思い出せない。

(まあいいさ
この世界のミッションは終わった
もうこの世界に関わることもないんだから)

俺はそのまま意識を手放した。

何かが失われた。そんな欠落感を感じながら。








「今回も速かったな。褒めてあげようか?」

いつもの風景。いつもの感情。
真っ白な空間に俺だけが立っている。そして、めんどくさいという感情。

はぁ、と俺は溜息をつきながら

「それじゃあ次の世界に送ってくれ」

その淡白な申し出に

「なんじゃ、私がわざわざ労をねぎらってやろうとしてるのにめんどくさいみたいなその反応は!」

テミスはたいへんご立腹なようだ。

「別にいいって
それより早く終わらせようぜこの救済活動」

「ふん、ほんとクロハは変わったよね。
昔の様に生き生きしてないし何より感情を閉じ込めている」

また始まった。女神はどうやらかなり暇なようだ。

「先程の世界のお前もそうだ。
最初は明るい性格だったのにミッションが終わるなりいつもの仏頂面に戻って。
そんなんじゃ早死するよ?」

天界に戻るといつものセリフ。なにも答えず目を合わさずただ俯く。それだけで次の世界にすぐに行ける。そして契約の10個の世界を救って俺はさっさと死ぬんだ。今はそれだけのために頑張る。しかし、

「あーあ、そんなんじゃあ今まで出会ってきた人達が可哀想だよ。それに君に期待していた人たちも無駄になるよ」

その言葉には分からないが変に苛立った。そして思わず、

「お前のせいだろ!こんな性格になったのは!」

怒鳴ってしまった。会話をしないように努めていたのに。それだけは何故か許されないと思ったんだ。白い髪を揺らしている君の事を馬鹿にされていると思うと女神だろうがなんだろうが許せなかった。その怒鳴り声に対してテミスは冷静に答える。

「私のせいじゃないよ。君が私の送ったミッションと関係ない事、それも世界を変えるような事をするからあんな事になったんじゃないか。
君のミスを私のミスの様に言うのはやめて」

その通りだ。何も言い返すことができない。

あれは自分で考え自分の感情に従い行った。だからあんな悲劇が生まれた。だから今度からは自分の感情に振り回されるんじゃなくてただミッションを行っていこうと考えたんだ。

再び沈黙が流れる。

そして俺は声を振り絞って言った。

「はやく次の世界に送ってくれ」

テミスは呆れたのか溜息をつきながら答える。

「次の世界は剣と魔法の世界
これまた魔王がいるけどここの魔王は先代勇者によって討伐されているからそこは安心。
細かい事は向こうに着いてから言うけどとりあえず最初のミッションを言うよ」

息を吸い目を合わさないようにしている俺を見ながら

「魔法学園そのSクラスに入りSクラスの人達と仲良くなること!」

ムッフー、とドヤ顔しながらそんな事を言った。

「はぁ!?何言ってんの?」

俺の驚きを素知らぬ顔でスルーし、

「んじゃ行ってらっしゃーい」

いやもう行かせる気満々じゃん!

「いや待て!なんだよそのミッションは!仲良くなることってなんだよ!」

俺は自分の体が光に包まれるのを感じながらテミスの冗談だろうと少ない希望を持ちながら再度問う。
しかし、

「これは冗談じゃなくて本当のミッションだよ。
だから頑張ってきてねー、勇者のクロハ君。
あ、それと足元。それは持っていかないとさすがの私も怒るよ」

俺はテミスに問うのを止め足元を見る。そこには銀の施しをしているアクセサリーみたいなものが落ちている。

「これって…」

そう。あの時窓から投げられた物だ。ロケットのペンダントの様になっていて、中に写真が入っているらしい。俺はその中を見ることは出来ない。見たら何か起こってしまうんじゃないのかと思ってしまったから。また感情的になってあの悲劇を繰り返すのではないのかと思ったからだ。
俺はペンダントをポケットに入れそこで俺の意識はなくなった。





クロハがいなくなった白い世界に一人の少女が現れる。溜息をつきながらクロハの体が徐々に消えていくのを見ている。その目には慈愛や寵愛という感情よりも可哀想にという同情の色が出ていた。

そして、

「はぁ、この世界で変わってくれればいいけど。また最初の頃のように。」

と小さく呟いた。



「行ったんですか?彼は」

そこに一人の女性が現れる。

「ええ、行きましたよ。メルデスも仕事が終わったの?」

彼女はメルデスと言われる女神の1人。特選枠に上手く入り今は私の身の回りの手伝いや色々な実務をこなしている。

「はい。なんとか今週までの仕事は一通りに。そこでなんですが貴方のために料理を作りまして、ぜひ食べてくだされば嬉しい限りです。」

「そういえばあなたの料理はまだ食べたことがなかったわね。持ってきて。彼のサポートをしながら食べますね」

「はい。すぐ持ってきます」

女神は気づかなかった。クロハの事が心配で仕方ないのである。彼はこの救済活動の中で性格が歪んでしまい、この世界も淡々と終わらしてしまうのではないのかと恐れている。色々な想いがあって彼を選んだのだが最大の理由はこの救済活動を一番楽しそうにやってくれるのではないのかという希望があったからこそだ。
しかし今では見る影もない。
そんな心配事があったからこそ女神は気づかなかった。
そのメルデスという女神が卑猥で卑劣な笑みをこぼしていたことを。





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