Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜

ニムル

《番外》ちょっと白すぎませんか?(あらすじ必読)

 地球から来た人間はやたらと行事を行うことが多い。

 けれどこちらの世界では明確な暦というものが存在しないので、地球から渡ってきた行事たちは、形を変えて『このようなことを行う』という行為に変わっていた。

 例えばこの間のバレンタイン。

 地球では、バレンタインは2月14日に女子が男子にチョコレートを渡す(ように製菓会社が仕向けた)行事らしいけれど、こちらの世界では女子が男子に手作りのチョコレートを渡す行為という、少々違ったものになっている。

 地球の人間からしたら曲解だ、湾曲してるーなどと言いたくなるものかもしれないけれど、1日1日を生きるのに精一杯なこの世界の人間には暦を数えるような習慣などないので、仕方の無いことである。

 しかしまぁ、うちのご主人はそんなことを言うような人ではないし、そもそもそんなことを気にするような人でもないはず。

 そう思い、この間バレンタイン作戦を実行したのだけれど……おかしい、おかしいのよ……バレンタインでチョコをもらったら、男子からは白い色の特殊なチョコレートのお返しが貰えると聞いていたのだけれど、一向にお返しが来ない。

 もしやご主人、この『ホワイトデー』なる行事のことを知らないんじゃ?

 半ば押し付けるように渡したとはいえ、貰ったものに対して感謝として対価を払うのは当たり前のことなのだと私は思うの……どうやら勇者の人たちにはこの世界の人間と違ってチップの文化が薄いみたいだけど。

 いや、王国から呼び出された勇者達だけだったかしら。帝国から呼ばれた勇者達は確かチップの文化があったはず。

 というかチップの文化自体が帝国勇者から来たものだと言われているくらいだしね。

「はぁ、白いチョコレート、食べたかったなぁ……」

 私は募る思いをすべて吐ききるように静かにため息を吐いて、南の魔王のところに行くために馬車に乗り込んだ。




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「ご主人っ!」

 何度『リプレイ』を使っても、私とご主人がイースベルに倒されて終わってしまう。

 ゆっくりと落ちていく意識の中、再び『リプレイ』を使って、元の時間へと戻る。

 こんな能力を頻繁に使って問題は無いのかと問いたくなるが、ご主人によると、これは自分たちの周りで起こったことを上書きしているだけで、実際の時間の流れとは別で動いている、みたいな感じの説明を聞いて一応納得している。

 そもそもそんなこと確かめようがないので分からないが、確かに使った人間達の時間とそれに関わったもの全ての時間が巻き戻っている、と考えたらなんとなくでも納得出来るところは出てきた。

 深い水の中から一気に飛び出したかのような感覚に囚われ、一瞬目眩がしたが、色々考えているあいだに完全にももの時間に戻ったらしい。

「シルティス、この周回で俺が火の付与魔法を得られなかったら、多分リプレイは使わない」

「え?」

 ご主人の考えていた『リプレイ』の効果は、使用者の意識そのままに周囲の時間だけが巻き戻るというもの。

 となれば、『リプレイ』を使わなければ今まで考えてきたイースベルを倒すための攻略方法も忘れてしまうことになる。

「大丈夫だ、考えがある。お前は俺に対して、常に何か知っているような素振りを見せ続けろ。ただし何も教えるな? 多分それでいい」

「どういうことなの?」

「色々考えすぎたからダメだったんだ。最初から火で倒す、その一点だけを狙っていけば、少なくともあと4回以内であいつを倒せるはず」

 そういったこの周回も予想通り私たちは死んでしまった。圧倒的実力差もあり、圧倒的運があっても、決まった運命から逃れるには何か一つの大きな要因が必要になってくる。

 今まで繰り返してきた周回の中でご主人の近くに火があった周回は1回、火を持ち込んだ回数は3回。しかしそのどれも豪雪によってすぐさま消え失せてしまったことは言うまでもない。

 そして、結局この周回ではご主人はイースベルを倒すことが出来ず、私のスキルもフォールンダウトとは相性が悪すぎたために失敗。

 その次の周回でご主人は今までの攻略の記憶を失い、さらに次の周回で火を使ってイースベルを倒すことに成功したというのがこの一連の出来事のあらましだった。




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「いやー、それにしても流石ですなぁ! 魔王を倒したというその実力は伊達ではありませんな!」

「そうですな、やはり宴の準備をしておいて正解でしたな!」

 イースベルとの戦いが終わり、宴を始めだして盛り上がるベースキャンプの兵士たち。

 自分たちが殺されそうだったということを知らずにぐびぐびと喉を鳴らして呑気に酒を飲む姿は、見ていてとても気持ちのいいものではない。

 しかし、よく周りを見ると、当の主役であるご主人がどこにもいない。

「あれ? ご主人どこ?」

「んぁ? エイジなら厨房にいるぞ?」

「あぁ、ありがとう」

 満身創痍のゴートの坊やに礼を言い、そのまま厨房へと走っていく。

 やはり戦闘時以外は人間の子供並みの速度しか出せないので、それだけご主人の中での私に対するちびっ子というイメージが強いのだろう。

「ご主じーん、何してるの?」

 厨房の奥に向かって声をかけてみるが、必死で何かを作っているのか、全く返事がない。

「くっ、この永久氷塊とかいうやつ、オリハルコンが欠けるってどんだけだよ」

 おそらく氷であろうものをゴリゴリと削っているご主人。そんなものを削って何をするつもりなのか。

「うし、これくらいでいいか」

「なにそれ?」

「ん? あぁ、シルティス来てたのか。丁度いい。これ食べてくれよ」

 差し出されたのは、白い雪が山のように積もり、その頂点に練乳がかけられたものだった。

「これ、真っ白……」

「そりゃ、練乳かき氷だからな」

「……まぁ、これで満足しますか」

「何か言ったか?」

 ホワイトデーのモノしてもらった訳じゃあないけれど、ご主人が私のために作ってくれたかき氷。

 初めて食べたかき氷は頭がキンキンと傷んで不思議な感じだったけれど、甘くて冷たくてとても美味しかった。

「次のホワイトデーはちゃんとお返しちょうだいねっ」

「はぁ!?」

 少し意地悪かもしれないけれどちゃんと念押しして、次こそは絶対に忘れさせない、正真正銘のお返しを楽しみに待つことにしよう。

 あぁ、今から次のことがもう楽しみで仕方がない。成り行きでも彼のような人間くさい人物と、こんな風に旅をすることが出来て良かったと心からそう思った。

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